ラジオやネット上でも、「汚染水流出」問題の論議が盛ん
- 2013年 10月 17日
- 時代をみる
- 池田龍夫
前回の本欄(10月14日付)で「深刻化する汚染水問題」を取り上げたが、ラジオやインターネット上でも注目すべき論議が交わされていることに驚かされた。小出裕章・京大原子力実験所助教とロバート・ジェイコムズ広島市立大学広島平和研究所准教授の指摘だが、一般に知られていないと思えるので、その重要部分をピックアップして参考に供したい。
まず、関西の報道ラジオ番組「ラジオフォーラム」に最近出演した小出助教の発言を紹介しておこう。
福島原発敷地内は「放射能の沼」
「汚染水問題は2011年3月11日からずっと続いているのであって、レベル7の事故が今現在も続いているとの認識が必要だ。1つのタンクから300㌧の汚染水が漏れると、1㍑当たり8000万ベクレルの放射性物質が放出される。その正体はストロンチウム90と思うが、放射性物質1㍑当たり8000万ベクレルで300㌧分を考えると、24兆ベクレルという総量。それは、広島・長崎の原爆が撒き散らしたストロンチウム90の数分の1くらいだ。1日300㌧で原爆の数分の1となると、2年半だと数100発分となってしまうと思う」と深刻な実態を分析している。さらに小出助教は「セシウム137もストロンチウム90も半減期が30年、それから30年経つと半分。つまり90年後に8分の1に減ってくれます。それでもまだ10分の1に届きません。福島第1原発の敷地内の中が放射能の沼のような状態になっており、それが少しずつ海洋に流れていくという状況だと思う」との警告を発していたが、エンドレスな事態に身が縮む思いである。
「2020年東京オリンピックも危うい」
小出助教は原子力問題の権威だが、ジェイコブズ准教授は、核技術の社会的・文化的側面について造詣の深い歴史学者として知られる。そのジェイコブズ准教授が10月8日にネットで公開した「福島原発は2020年東京オリンピックを不可能にしかねない」と指摘したのだから反響は強烈だ。
「日本は破滅的な汚染水漏れへの対応が遅れ、先進国の助言を求めている。役立つ国々と言えば、米国・ロシア・英・仏だろうが、専門的技術と経験を持っている人は見当たらない。原子力の恩恵は一、二世代しか続かないが、この二世代用の発電で生じた使用済み核燃料の世話をする負担は千世代以上続きます。一、二世代のためのエネルギーを得るために、千世代の人々に我々が生み出した廃棄物の世話をしてくれと要求するのは信じがたいことです。事故から2年半経っても、未だに放射性物質は封じ込められていません。もし第4号原子炉が不慮の事故で倒壊することがあれば、膨大な使用済み核燃料を敷地一面にぶちまける大惨事につながります。ですから、東京五輪がこの影響を受けないというのは願望であって、放射能流出が止まったとの保障はありません。人類は世界で最も危険な毒物を生み出し、その一部は、2万年から10万年にわたって毒物であり続けます。生態系を汚染しない、再生可能、持続可能エネルギー源の開発こそ急務です」――両氏の警告を真摯に受け止めるべきだ。
〝五輪狂騒〟ムードに流されるな
2020年東京五輪は7年後に必ずやって来る。福島事故から既に2年半も経つのに。炉心内部の解明はもとより、汚染水漏れ収束の見通しすら立っていない。7年後に解明できると、誰も言い切れまい。それなのに〝五輪狂騒〟ムードに浮かれている政府と東京都の能天気に呆れ果てる。
建築家の槙文彦氏が毎日新聞10月2日付夕刊文化面に「新国立競技場新設への憂い。巨大施設建設の説明責任を果たせ」との長文の寄稿が目を引いた。
「いま巨大な新競技場建設が計画されているが、その巨大さにびっくり仰天。新競技場の総床面積(29万平方㍍)は、過去のオリンピック・メインスタジアムの中で最大。例えば昨年のロンドン五輪会場は床面積10万平方㍍、シドニー、アテネもそれに近い規模だった。しかも神宮外苑の風致地区を大幅に破壊する恐れすら出ている。…私が個人的に願う究極の理想の姿は,出来得る限り小さくし、豊かな緑道によって囲まれることである。それが平成の都民から未来への最大の贈り物ではないだろうか」――。まことに尤もな指摘で、他の建築家や有識者から「無駄遣いを見直せ」との声が高まっており、10月11日には都内の日本青年館で「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」シンポジウムが開かれた。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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