日本版NSC・秘密保護法案よりも、御本家NSCに盗聴されていないかどうか確かめたら?
- 2013年 11月 2日
- 時代をみる
- 中国加藤哲郎原発
2013.11.1 短期の観光旅行や視察旅行というのは、本当に外国を知るには、あてにならないものです。つい9月の末に1週間ほど見て、開発が進み、順調に近代化していると思っていた中国・新疆ウィグル自治区が、新しい天安門事件の火元になりました。どうやら中国社会のもつ矛盾が鬱積し、マグマがたまっていたようです。ウルムチ市で、2009年の暴動の中心だったという、モスクのそばの広場をみましたが、さまざまな顔つきと民族・宗教衣装が行き交うバザールになっていました。バザールには商品が溢れ、かつて訪問した隣国キルギスやカザフスタンより「豊か」に見えました。新華社発表200人弱、世界ウィグル会議が最大3000人の犠牲が出たという痕跡は、ありませんでした。確かにイスラム系住民のコミュニティが取り壊され、林立する高層アパートへの移住と漢民族との混住が進められている気配は感じましたが、そこに貧困・格差と民族的・宗教的差別が続いていたようです。本HPでは、ウルムチで測定した放射能の高さを、中国・旧ソ連の原爆実験場だった近隣の歴史から示唆しましたが、どうやら、世界的規模でのテロと報復の連鎖、中国における改革開放至上主義の矛盾と、重層しているようです。
もっともこうした矛盾は、すぐにニュースと画像になって、直ちにインターネット上にアップされ、どんなに中国政府・共産党が、数万人というサイバーポリスを総動員して介入しもみ消そうとしても、画像・映像はすぐに復活し、たちまち拡散します。この点は、四半世紀前の天安門事件の頃とは違います。当時は固定電話とファックスが、国際情報戦の「武器」でした。情報戦時代には、サイバーポリス型の弾圧と政治的テロリスト宣伝よりも、ニュースは流れるにまかせ、当事国と関係国指導者の反応・動向を秘かに探って情報収集・解析し、自国にベストなタイミングと場面で、その情報を活用する方が、はるかに効果的で、ベネフィットを売るでしょう。こうした新自由主義的サイバー戦の極致が、かのCIAスノーデン元職員の内部告発で明らかになった、米国NSC(米国国家安全保障会議)の、グローバルなデジタル・サーベイランスです。それがいかに重大であるかは、ドイツ・メルケル首相の携帯電話が10年以上も盗聴されていたと言うことで、ヨーロッパ全体が抗議し、アメリカとの「信頼関係」に大きな亀裂が入り、国際金融システムもNATOの安全保障も、大揺れです。オバマ大統領はいったん否定しましたが、監視対照の外国人指導者35人には、「同盟国」メキシコ、ブラジル、スペインなどがはいっているといわれます。「米国と英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドはお互いに情報活動を行わない伝統がある」といいますが、怪しいものです。ましてや「対等のパートナーシップ」などといいながら、片想いで一方的に「同盟国」だと思い込んでいるにすぎない日本の首相官邸・政府要人など、NSCにとっては最も与しやすい相手でしょう。なにしろ70年前のGHQによる占領の時代に、CCD(検閲局)が大規模な電話盗聴や郵便検閲を行い、それに協力した4000人もの日本人がいたのを体験済みですから。
それなのに、日本政府は、「同盟国米国を信頼」し、抗議の前の問いあわせすらしないのだそうです。それどころか、それこそ米国・NSCからの圧力をまともに受けて、日本版NSC創設を、秘密保護法案とワンセットで、今国会提出・通過を狙っています。情けなく、また恐ろしいことです。東京新聞や地方新聞は強力に反対の論陣を張っていますが、大手マスコミは、なお鈍い反応です。例えば担当大臣によれば、原発の警備状況は「特定秘密」になるとか。反原発現地デモを取材して警備と衝突して報道し放送した記者は、どうなるのでしょうか。小泉純一郎元総理の原発ゼロ行脚は、ドイツの廃炉やフィンランドのオンカロを現地視察した上での好ましい反省ですが、東電の汚染水隠し、除染の現状、いまなお漂流する福島県「原発難民」への補償問題や復興予算使途を内部告発したり報道することは、解釈次第で「特定機密」にされかねません。国会議員もマスコミも、国民を信頼しもっと怒るべきです。小熊英二さんのいうように、「再稼働反対」の世論は健在、官邸前金曜デモだけではなく、地方のデモも定着しており、サラリーマンのスーツデモが始まりました。国会やマスコミが、民意を代表できていないのではないでしょうか。
11月は、私もいくつか講演行脚。ただし直接原発について話すのは、11月6日(水)午後6時半、川崎市中原市民館「平和・人権学習 なかはら平和セミナー 3.11から考えよう日本の戦後史 ~平和と人権の視点から~」のオープニング「戦後日本の『核』の平和利用」です。11月15日(金)午後6時半からは、明治学院大学白金キャンパス・チャペルで、日本ペンクラブ・明治学院大学共催「島崎藤村と日本ペンクラブの昨日・今日・未来」で、かつて一緒に『島崎蓊助自伝──父・藤村への 抵抗と回帰』(平凡社、2002年)を作ったご縁で、島崎藤村の孫島崎爽助さんと対談、司会が最新作『水色の娼婦』(文藝春秋)で私の研究『ワイマール期ベルリンの日本人ーー洋行知識人の反帝ネットワーク』(岩波書店、2008年)の一部を使っていただいた作家西木正明さんなので、さてどんな風に展開するやら、楽しみです。11月23日(土)は、午後2時から東京ロシア語学院(日ソ会館)で、日本ユーラシア協会現代史研究会「シベリア抑留帰還者をめぐる米ソ情報戦 」 を話します。これ実は、本HPで今春情報提供をよびかけてきた、「旧ソ連戦争捕虜抑留とソ連原水爆開発・ウラン採掘の関係」についての中間報告、今夏アメリカでの予備調査結果を含める予定です。前回紹介した今夏の仕事の公刊、チャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』(篠崎務訳、岩波現代文庫)の「解説」、米国でも日本でも支配的だったウィロビー報告を批判し、伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張『日本の黒い霧』改訂について触れています。森宣雄・鳥山淳編『「島ぐるみ闘争」はどう準備されたのかーー沖縄が目指す<あま世>への道』(不二出版)に寄せた「金澤幸雄さんと金澤資料について」は、加藤・鳥山・森・国場編『戦後初期沖縄解放運動資料集』のDVD版刊を期に編まれた単行本に寄せたものですが、単行本の新川明さん、新崎盛暉さんらの力作が好評で、12月には、沖縄で刊行記念講演会が予定されています。関心のある方は、DVD版か単行本を、不二出版からお求めください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2436:1301102〕
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