従属国とはこういうものだ――頼みのアメリカにそでにされた日本
- 2013年 12月 18日
- 評論・紹介・意見
- 中国阿部治平
――八ヶ岳山麓から(86)――
イヤな感じになってきた。私のような「日中不再戦」派にとっては最悪の事態である。
11月23日、中国政府の防空識別圏発表時のもののいいかたは、中国は周辺国に有無を言わせぬ強硬姿勢で、飛行計画の事前提出を要求し、圏内の航空機が国防部の指令を拒み従わない航空機に対し「防御的な緊急措置」を講じるという脅しに近い内容だった。防空識別圏の設定は、メディアの報道では突然のことのように聞こえるが、中国では1カ月以上も前に将官クラスからこの提案があったから、日本政府のしかるべき部局では十分予想できただろう。
中国の識別圏設定の目的は、日本による尖閣諸島の実効支配にくさびを打ちこむこと、また東シナ海の軍事的主導権を握り資源開発を独占することであろう。
安倍内閣はただちに撤回を求めた。だが求めてもひっこめないのはわかりきった話である。そこで頼みはアメリカだ。だがアメリカは日本に対し見事に肩すかしをくらわせた。
アメリカの航空会社は中国にさっさと飛行計画を提出した。12月3日の安倍首相とバイデン米副大統領の会談では、中国の防空識別圏設定を「黙認しない」という点で一致しただけ。4日の米中会談でもバイデン氏は中国から何の確約も取り付けようとはしなかった。中国に不満はいっても撤回までは求めなかった。対立を避けたのである。
ヘーゲル米国防長官にいたっては12月4日、防空識別圏を設定したことを「最大の懸念は一方的になされたこと」といい、「防空圏を設定すること自体は新しくも珍しくもない」と発言した。
簡単にいえば、アメリカは防空識別圏設定を事実上認め、中国に対して日本とあまり激しくやりあうなといっただけだ。日本にも釘を刺したでしょうね。
まさに人民日報の国際版環球時報がいう通り、アメリカは日本の期待通りには踊らなかったのである(同紙2013・12・4)。習近平主席はバイデン氏との会談で「新しい中米の大国関係」を強調し、バイデン氏も中米関係を「21世紀の針路に影響する極めて重要な2国間関係だ」と応じたという。
環球時報は「バイデン氏は日本のために訪中を壊せないと知っていた」と題する社説を掲載し、「日米関係に中米関係の性質を決める力量はない」といったものである。
いわれるまでもない。アメリカは日中関係よりも中米関係を重視する。1972年2月のニクソン大統領の中国訪問以来のあれこれを考えればわかりきった話だ。
日本ではテレビ・新聞・インターネットなどが連日これを取上げ、中国に反発している。
たとえば、毎日新聞の中国通らしい金子秀敏氏はこういう。
「防空識別圏は、警察の検問線のようなもので、国際法や条約の根拠はない。だから中国の国防省は、日本や米国の抗議を『道理なし』と突っぱねた。外務省も、日米の駐中国大使を呼び出し『四の五の言うな』と怒鳴ったそうだ。……ともかく粗野な言い方だ。文革時代に逆行したのか、それとも計算ずくの挑発なのか(2013・11・28「木語」)」と、まあえらい怒りようだ。
中国共産党と友好関係にある日本共産党も断固反対である。市田忠義書記局長が11月25日の記者会見で、中国の防空識別圏設定に関して「絶対に許されない行為だ。厳しく抗議する」「『防空識別圏』は尖閣諸島の上空も含まれる。こういう軍事的緊張を高めるやり方は問題の解決に逆行する」と批判した。
期せずして安倍首相の主張と同じ文言である。右はともかく、左までこれだけでは困る。
中国世論は挑戦的だ。「新浪網」が伝えるところでは、11月26日「微博」で実施したアンケートでは「将来識別圏内で日中が衝突する」と回答するものが半数あった。また26日「環球時報」は防空識別圏設定に関するアンケートで「中国の識別圏に外国機が進入した場合どうするか」という問いに87.6%が「軍用機を派遣して監視、迎撃、追い払う」、59.8%が「警告に従わない場合は実弾で攻撃すべきだ」と回答した。
中国の普通の人(老百姓)が国際法を知らないのは仕方のないことだが、防空識別圏で軍事活動を行うなら、それはICAO(国際民間航空機関)条約違反である。しかし、11月27日「人民日報」は、国外からの批判を余計なお世話といい、国防大教授の喬良空軍少将は「識別圏問題で一戦交えるつもりか、それは賢くない」とすごんだ(毎日2013・11・28)。なんだか戦争をやりたくてじたばたしている感じだ。
中国政府の主張が日本に対して強硬なのは、急上昇の大国意識といおうかショービニズムといおうか、そういうものからくるのだけれども、背景にある反日世論に逆らえないからでもある。反日感情の遠因は日中戦争の処理が不適切だったことがあるが、近くは江沢民時代の日常的で執拗な反日教育にある。反日感情は村にも町にもどこにでもある。日中戦争の戦場になった地域のその根強さは、老百姓とつきあったものでなければわからない。
2005年小泉首相の靖国参拝に抗議するデモも尖閣問題でのデモも、中国政府のコントロールを越えて「日本憎し」の怒りを爆発させ、激しい破壊活動にでたのは、皆様ご存知のとおりである。
2001年4月南シナ海の公海上で米海軍の電子偵察機EP-3Eと中国海軍戦闘機J-8IIが空中衝突する事故が発生した(海南島事件)。老百姓はアメリカに猛烈に怒り、墜落した中国機パイロットはたちまち英雄になった。日本との間で同種の事件が起こったらどうなるか。
いま中国に常住する日本人は12万を越える。日中間を往復する人も入れれば倍する数になるだろう。いったん緩急あればこの人たちの安全はどうなるか。同じことは70万とも80万ともいう在日中国人にもいえる。東京での朝鮮・韓国人に対する悪口雑言のデモをみれば、在日中国人の安全を心配しないわけにはいかない。バカはどの国にもいるから。
最も避けなければならないは、第二の海南島事件である。さいわいなことに、日本ではまだ政党でもマスディアでも、戦闘も辞さずという声は主流になってはいない。いま急ぐべきは識別圏撤回要求ではない。偶発的衝突をさける回路の設定である。
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