大寒に負けず、猛暑にも負けず、愉しく英気の「養生」を ――林郁著『游日龍の道―台湾客家・游道士の養生訓―』を読む――
- 2014年 1月 25日
- カルチャー
- 書評舟本恵美
タクラマカン砂漠にある日龍堆という場所は風で毎日形をかえるが、いつも龍のように見えるという。タクラマカン砂漠の前には崑崙山脈がつらなる。崑崙派道教の聖地につながる「日龍」という名を本書の主人公は祖父から命名された。道教相伝の願いがこめられた名であった。
客家の游家は唐時代に戦乱を逃れて中国大陸中原から南に移動した「よそ者開拓民」、代々崑崙派道教を祀り、14代目が福建から台湾海峡を命がけで渡り、台湾の山辺を開墾して家を建て、援け合ってきた。その客家集落は祖父の代、1895年、日本の北白川宮軍(台湾平定皇軍)に焼かれ、道教は日本統治下の皇民化政策によって潰された。
游日龍は炭焼の新技法で大家族を支えたが、日本帝国海軍に召集され、敗戦確定的な南太平洋激戦で苦闘した。この苛酷な戦場で死にたくない、早く帰りたいとかれは祈り、知恵と独創と気力で生きぬき、命拾いして敗戦。捕虜収容所を経て敗残兵として帰還する船上、満天の星をみて地球星の人間の極々小の点を想い、生き直しを誓う。
戦後、小さな廟を手作りして台湾崑崙派道教を復興した総帥・游日龍。その91年の人生が本書の主テーマであり、戦場で書いた日記(正確な場所と日付入り)は希有な史料である。極限をどのように生きぬいたかを見る時、読者は游道士から「気」を受け取る。生存法(とくに猛暑多湿の環境を生きるすべと適応力)を知り、同時に大自然の力、天体の息吹を感ずることができるだろう。
戦後「あまねく等しく命を救うため身命を惜しむなかれ」と誓って「苦修15年」、献身救民が評価されて「救民為賞」が贈られ、68年末に廟を改築、その落成式には、戒厳令下、10万人が参集、その息吹は「愉しく幸せに長生きする」健康づくりに発展する。72年「崑崙仙山太極殿」開山と「生活改進健康学会」の活動となる。
このように書くと、コチコチの理論家道士のようだが、著者林郁の報告を読むと、庶民的で冗談好き、自ら法衣を着ない道士。近影写真は労働着のブルゾン姿で子どものような笑顔だ。養生実践の場―道家気功修行室、完全無農薬の農場と茶畑、末弟とつくった薬用植物園などは、「世界平和同村楽」(世界はひとつの村、平和な楽しい村にしよう)の場でもあるという。
本書には、ああ、そうだと納得できるヒントがたくさんある。わたしだって、一つか二つ実践して健康で長生きしたいよ、と思えてくる。たとえば、「酒は少し、つられ飲みはやめる。マイペースで愉しく」「飯少野菜多のウチごはん、発酵食を多く」「よく噛んで」「満腹時には食べないこと」「緑茶飲むべし」「食養生によって自然治癒力を高めよう」「長吸養気」「呼吸法だけでも細胞はリフレッシュする」(細胞は1分で約2億が生まれ変わる。1時間で125億、1日で3000億,200日で60兆の細胞が生まれ変わる。)
「年とっても脳は進歩します」はなんと嬉しいこと! 修行を継続し守ることはむずかしそうだけど、今から気をいれて自分の人生を再構築したい。
「道・タオ」の哲学は「安らかな社会の幸福の探求」だ。命は無常(変化し)、有限、一度の生を自から幸せにしよう。桃源郷(陶淵明の言葉」は夢想でなく創るのだ。
わたしはこの本に出会ったことに感謝し、背をこごめず大寒をくぐりぬける。幸いわたしは星のきれいな所に住んでいる。今夜は満天の星を見よう。大きな息をして丹田に「気」を集中し、息を吐き、熟睡しよう。
林郁著『游日龍の道―台湾客家・游道士の養生訓』東洋書店刊、2013年10月刊、定
価:本体2200円+税
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔culture0004:140125〕
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