戦争が近づく、敗戦の夏の記録と記憶を継承する!
- 2014年 7月 16日
- 時代をみる
- 加藤哲郎戦争
2014.7.15 ◆サッカーのワールドカップが終わりました。優勝はドイツです。ベルリンは熱狂に包まれています。「世界に冠たるドイツ」の組織力の勝利で湧いています。まるで4半世紀前の1989年秋、「ベルリンの壁」の開放の時のようです。でもその道程は、平坦ではありませんでした。国家再統一は1年でできましたが、西ドイツと東ドイツは、40 年以上も別々に歩んできました。言葉は同じでも、生活水準はもとより、教育も自由や人権のあり方も違いました。西ドイツで育った「ヴェッシー」と東ドイツで教育を受けた「オッシー」が、一つの「ドイツ人」になるのは、簡単なことではありませんでした。ともに外国人労働者を多数かかえていたばかりでなく、統一後に東欧やアジアからの流入がありました。膨大な国家財政の負担と産業立地の再配置が必要でした。それから4半世紀で、格差や貧困はありますが、敗戦・占領・復興、東西冷戦下の経済成長時代とも違った、新しい統一ドイツが定着し、東も西もなく、選手の移民・難民出身もなく、ヨーロッパ連合(EU)の基軸国になり、スポーツ世界一を喜び合う「ドイツ国民」が生まれたようです。第二次世界大戦をともに枢軸国として敗北し、ともに連合国の占領下に再出発した日本でしたが、1980年代以降の歩みは、大きく違ったようです。そんな日本とドイツの関係について、もうすぐ東京大学出版会から『戦後日独関係史』が刊行されます。私も「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿していますので、ご笑覧ください。毎年夏をドイツですごす「ちきゅう座」の合澤清さんは、今年もゲッティンゲン滞在記の連載を始めたようです。日本チームのふがいなさを、外国人監督や海外で活躍する選手のせいにして、うっぷんを晴らすより、優勝したドイツの底力の秘密を、その歴史から、しっかり学びましょう。もうすぐ、敗戦69年目の夏です。
◆ドイツでは、ワールドカップの真っ最中に、同盟国米国の諜報活動が摘発され、メルケル首相がアメリカに抗議しました。2011年には、日本でのフクシマ原発事故に触発され、脱原発へと最終的に舵を切りました。ドイツ政治の自主的決断です。ここでの日本政治との対比は、悲惨です。ワールドカップの舞台から早々と日本が消えたのは、米国に自衛隊員のいのちを差し出し、忠誠を高く売り込みたい安倍首相にとっては、誤算だったでしょう。ドイツのメルケル首相のように、ブラジルに行って、世界に「美しく強い国」日本と報じられたかったことでしょう。7月1日、閣議決定による集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲は、その波にのるシナリオだったでしょう。ところが、公明党をようやく説き伏せた政策転換は、思わぬバリアに囲まれていました。国会前の反対運動に加え、アメリカ有力紙の批判や中韓首脳会談での日本の歴史認識への警戒もさることながら、東京都議会セクハラ・ヤジに発する自民党の女性蔑視体質の露呈、兵庫県議会に発する地方政治家の劣化への厳しい批判、そして、川内原発再稼働への露払いになる予定だった滋賀県知事選での自公候補敗北・脱原発県政継承候補の当選です。7月の新聞・テレビ世論調査で内閣支持率は軒並み低下、50%割れから危険水域とされる30%台への落ち込みも見えてきました。10月福島、11月沖縄の知事選が、次の正念場で、来年4月の統一地方選に直結します。米国との日米防衛協力指針(ガイドライン)策定、TPP交渉や消費税10%増税の政治決定も、「決断できる首相」の化けの皮がはがれてくると、おぼっちゃん右翼政治家の「戦争ごっこ」のためでは、と映ってきます。これがもう一年早く、参院選・東京都知事選に厚化粧がはがれていたら、日本の安全保障政策も、原発エネルギー政策も、違ったものとなっていたかもしれません。国会論議が貧困で、政党政治が頼りにならないなら、地道な社会運動と、地域からの政治変革に期待せざるをえません。
◆更新が1日遅れたのは、どうやら更新用マックブックがウィルスに侵入され、本サイトの一部が悪質に書き換えられている可能性があったため。イギリス在住の友人からの連絡で知ったのですが、無線LAN親機のセキュリティが破られ、マックなら大丈夫だろうとセキュリティ・ソフトの更新を怠り期限切れになっていたのを放置していたため、と分かりました。ウィルス攻撃は、ある時期集中的に、一日何百通と仕掛けてくるようです。ウェブは便利ですが、個人情報の漏洩をはじめ、さまざまな研究上のリスクをも、もたらしました。今後の本サイトの使い方を含め、この夏、じっくり検討してみます。かといって、ブログやツイッター、SNSに乗り換え、クラウド上にデータベースを構築するのも、考えもの。スノーデンが暴露した米国NSAへの大手IT企業の秘密協力を前提とすれば、私たちは、恐るべき情報管理・監視社会下にあります。日本の特定機密保護法、集団的自衛権容認、武器輸出3原則の「防衛装備移転」と言い換えての緩和、さらには原発再稼働・原発輸出の流れも、安倍首相風の復古的・右翼的言説を伴いながら、巨大な新世界戦争時代への準備の意味がありそうです。とはいえ、戦争が近づいているという危機意識は、特に若い世代には、なかなか実感できないでしょう。自民党の戦争世代の長老たちがこぞって安倍内閣に「戦争をする」気配を見いだしているのに、戦後生まれの「軍事オタク」が政権・与党自民党の中枢にあり、「平和の党」だった公明党が権力に媚びているのが実態です。この夏は、若い人たちに、なんとか1945年敗戦の夏をイメージしてもらいたいものです。そのためのテレビも、映画も、アニメも、文学も、たくさんあります。本サイトでは、学術論文データベ ースの常連深草徹弁護士から、 「「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定」を読み解く」(2014.7)という緊急寄稿があり、ただちに先日アップしましたが、イマジン内にかつて作った「インターネットと戦争の記憶」を、この夏は、リメークしたいと思います。皆さんも、戦争の記録と記憶を収集し、いま私たちが、どこに向かおうとしているかの想像力を!
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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