特定秘密保護法では隠されていたであろう外務省機密文書 「日米地位協定の考え方」 とは何か (前泊博盛編著『日米地位協定入門』(創元社)より)
- 2015年 1月 11日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
前回に続いて、前泊博盛沖縄国際大学教授著『本当は憲法より大切な日米地位協定入門』(創元社)から、もう一つの衝撃の情報をお伝えします。それは下記にご紹介する通り、外務省の第1級機密文書である『日米地位協定の考え方』です。相当前の段階で琉球新報が入手し、その裏付け取材などを社を挙げて行った上で、2004年に新聞紙面に(その後はインターネット上に)公表されました。
前泊博盛氏は、この自編著の名著中で、その『日米地位協定の考え方』に書かれている内容を簡単に紹介し、更に、この機密文書を執筆した外務省官僚OBに対してもインタビュー取材をして、その時のやりとりを掲載しています。非常に興味深いです(たとえば、その外務官僚OB曰く「日米地位協定の改定はあり得ない」と語っている点など)。また、その機密文書の更に詳しい内容については、下記の高文研社の出版図書として市販もされていますので、みなさま、是非とも、このご紹介申し上げている前泊博盛氏の名著とともに、下記の機密文書解説書も併せて入手の上、ご覧になってみてください。
おそらくは、特定秘密保護法が強引に施行されてしまった今日では、この『日米地位協定の考え方』もまた「特定秘密」に指定され、内部告発も含めて公にされることは難しかったでしょう。その意味で、近い将来、下記の著書が「禁書」になる可能性も無きにしも非ずですから、お早目の入手をお勧めします。ともかく、これほど有権者・国民・市民を欺く、まさに右翼がよく口にする「売国奴」的な振る舞いをしている、その振る舞いを合理化する、背信的な(外務省内部)文書であっても、憲法が謳う主権者の国民は目にすることができない、そんな時代に突入してしまっているのです。特定秘密保護法は「廃止」される以外に対処する方法はありません。一部の自民党補完勢力が、「一部改正」などと、バカバカしいことを言っておりますが、そんなものは「秘密国家」を補強する一つの礎石程度にしかならない、愚かな「小細工」にすぎないのです。
ちなみに、昨年の秋に、日比谷公会堂で前泊博盛氏の講演会があったので聴きに行ってきました。自著の中だけでなく、講演でお話になっても、その内容には迫力があり、ユーモアを交えての講演に、すっかり魅了されてしまいました。すばらしい公演だったと思います。沖縄にいらしていて、頻繁にお呼びするのはなかなか容易ではありませんが、安倍晋三・自公政権が、急速な右旋回後、日本を奈落の底へと転落させ始めている今日、前泊博盛氏は非常に大事な有識者のお一人ではないかと思います。
(下記の「▶ 前泊博盛×堤未果 「日米地位協定について」2014.08.13 – YouTube」も必見です。この著書のいい解説インタビューです)
●『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(「戦後再発見」双書2:前泊博盛/編) 創元社
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032886010&Action_id=121&Sza_id=B0
●『日米地位協定の考え方・増補版 外務省機密文書』 (琉球新報社編:高文研)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000031467212&Action_id=121&Sza_id=C0
● 米軍ヘリコプター墜落事件 現場写真|沖縄国際大学
http://www.okiu.ac.jp/gaiyou/fall_incident/u-pic.html
(参考)▶ 前泊博盛×堤未果 「日米地位協定について」2014.08.13 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_qukoB5UABE
(1)日米地位協定入門 目次(前泊博盛編著:創元社)
(2)PART2 外務省機密文書「日米地位協定の考え方」とは何か(1)(前泊博盛編著『日米地位協定入門』(創元社)) 抜粋
(3)PART2 外務省機密文書「日米地位協定の考え方」とは何か(2)(前泊博盛編著『日米地位協定入門』(創元社)) 抜粋
(4)PART2 外務省機密文書「日米地位協定の考え方」とは何か(3)(前泊博盛編著『日米地位協定入門』(創元社)) 抜粋
(5)基地立ち入り容認 環境協定、米に拒否権 実効性疑問(東京 2014.10.23)
http://no-nukes.blog.jp/archives/7902464.html
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「どうも外務省には、日米地位協定の裏マニュアルがあるらしい。そんな話を聞いたのは、いまから20年前。私が沖縄の地元紙「琉球新報」の東京支局で、国会担当の記者をしていたときのことでした。」
「入手の経緯についてはあまりくわしい話はできないのですが、それから約10年後の2004年1月13日、この機密文書の全文を紙面で公開しました。A4判で100ページ以上あった文書を、紙面を8ページ増やして一挙に全部ブチこんだわけです。もちろん外務省は大騒ぎになりました。読者からの反響も非常に大きく、沖縄だけでなく全国から、・・・などといった声が寄せられました」
それまで琉球新報の前泊博盛氏らが、この機密文書の公開を求めても、内容の問い合わせをしても、国会議員が国会で追及をしても、そんな文書は存在しないと外務省は言い続けていましたが、琉球新報がこの機密文書をネットに公開したため、たまりかねて、前泊博盛氏への電話で外務省は次のように苦言を呈したといいます。
「「これは外務省にも数冊しかない機密文書だ。それをこともあろうか、20万部(「琉球新報」の発行部数)も印刷してばらまくというのは、いったいどういうつもりなのか」 電話のむこうの声は怒りでふるえていました。」
この機密文書は、沖縄返還の1972年の翌年=1973年に作成され、その10年後の1983年に加筆修正されています。
「日米地位協定の考え方」には、「原本」と「増補版」があります。原本はさきほどふれたように、一九七三年四月にまとめられています。原本の表紙には「秘 無期限」と印字されており、外務省でも一部の人間だけが手にすることのできる最重要の機密文書とされています。一方、「増補版」は「はしがき」に書かれているとおり、沖縄返還から11年後、つまり「原本」執筆から10年後に書かれています。その間に起こった米軍に関する事件や事故、環境汚染、裁判などの具体的な事例をふまえ、地位協定を適用するなかで生じた矛盾や課題、問題点への対応なども踏まえて大幅に加筆し、一九八三年12月に作成されています。「原本」と異なり、「増補版」は機密文書全ページの余白に「秘」の文字が打たれており、「機密」レベルが高くなっているような印象をうけます。」
(沖縄返還によって)「米軍の占領下で建設され、なんの法的制約もなしに使われてきた米軍基地が、日本の法体系のもとに入ってくるわけですから、問題が起きないわけがありません。そのことを見越して、さまざまな問題の発生を予想した外務省が、対応策を講じるための裏マニュアルを作った。それが「日米地位協定の考え方」だったのです。返還まで二七年問、軍事植民地同然だった沖縄の米軍基地を、日本の法体系のもとでコントロールするということが、どれほど大変なととか、外務省もよく認識していたのでしょう。」
そして、この外務省内部の機密文書には、次のようなことが書かれていたのでした(詳しくは市販の本書、またはその抜粋の別添PDFファイルを参照)。
「「日米地位協定の考え方(増補版)」(以下「考え方」) は、「無期限秘」というランクの非公開資料となっています。その理由について外務省は、「〔こうした〕文書の開示は日米の信頼関係を損ねる」(北米局)からと説明していました。しかし、実際には「考え方」を新聞で公開したあとも、外務省がいう「日米の信頼関係」は損なわれていません。それもそのはずで、「考え方」の内容をみると、そのほとんどが「アメリカと米軍の特権を追認し強化するための解釈上の変更」なわけですから、アメリカが文句を言うはずはありません。
「考え方」のなかには、米軍優位の地位協定運用のために生じた超法規的措置や解釈の限界に苦慮する外務官僚たちの苦悩ぶりが、ありのまま記録されています。
「国会で追及されれば対応に苦慮する〔だろう〕」
「行政府の独断決定は、司法権、裁判権の侵害との批判を免れない」
「(協定の運用には)明文化が必要」
「米軍特権を認める法律がない」
など、悲痛ともいえる本音が書かれているのです。」
以下に、若干の注目箇所を抜粋しておきますが、もちろん、注目すべき点はこれだけではありません。ぜひとも原本をご覧ください。
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(注目箇所の抜粋 その1)P314 「在日米軍」の規定がない!
「1.安保条約第六条第二文および地位協定の表題にある「日本国にある合衆国軍隊」との関連で、「在日米軍」とはなにかということが問題とされる。「在日米軍」については安保条約および地位協定上なんら定義がなく(略)」
すごいことがさりげなく書かれています。「在日米軍」については、「安保条約」も「地位協定」にも「なんら定義がない」というのです。そしてもしこの「在日米軍」が、安保条約や地位協定に書かれている「日本国にある〔おける〕合衆国軍隊」と同じ意味でつかわれるとすれば、そこには次の軍隊がふくまれるというのです。
(イ)日本国に配置された軍隊
(ロ)寄港、一時的飛来などによりわが国の基地を一時的に使用している軍隊
(ハ)領空・領海を通過するなど、わが国の領域内にある軍隊
(イ)については本来の駐留軍ということで理解できますが、(ロ)と(ハ)はあきらかにおかしい。これでは在韓米軍やイラク、アフガニスタンに向かう途中の米軍まで「在日米軍」にふくまれてしまうことになります。そうした日本に関係のない軍隊にまで、安保条約や日米地位協定を適用しようとする理由はなんなのでしょうか。この外務省の裏マニュアルは、最初の定義づけのところですでに、非常におかしなことを言っているのです。
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(注目箇所の抜粋 その2)P316 米軍にあたえられた特権
PARTIでくわしくのべたように、在日米軍には日米地位協定によって、事実上の「治外法権」をはじめとするさまざまな特権があたえられています。主なものだけまとめておくと、次のようになります。
①財産権(日本国は、合衆国軍隊の財産についての捜索、差し押さえなどを行なう権利をもたない)
②国内法の適用除外(航空法の適用除外や自動車税の減免など)
③出入国自由の特権(出入国管理法の適用除外)
④米軍基地の出入りを制限する基地の排他的管理権(日本側の出入りを制限。事件・事故時にも、自治体による基地内の調査を拒否)
⑤裁判における優先権(犯罪米兵の身柄引渡し拒否など)
⑥基地返還時の原状回復義務免除(有害物質の垂れ流し責任の回避、汚染物質の除去義務の免除など)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5112:150111〕
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