『忘却に抵抗するドイツ―歴史教育から「記憶の文化」へ』(岡裕人著、2012年、大月書店)
- 2015年 1月 16日
- カルチャー
- 『忘却に抵抗するドイツ―歴史教育から「記憶の文化」へ』小澤俊夫書評
メール通信「昔あったづもな」第29号
都合の悪い過去を消しさろうとあがく日本と、強制収容所などを保存し、公開しているドイツとの違いは、ぼくにとって大きな問題なのだが、この本は、ずばりその問題を在独20年の日本人歴史学者が書いたものである。一読をお勧めする。
著者の子息がドイツのギムナージウム(中等高等学校)に通学していて、その教室での近代史の授業料の様子から始まる。
1933年にナチスが政権を掌握したときの事情を生徒が調べてきて発表する。先生が補足する。生徒が積極的に調べてきて、事実を詳細に把握している様子がわかる。
そして、ナチスが大衆把握に力を注いでいたことが報告される。生徒たちが、ナチスの実態をよく学んでいる様子がわかる。
「ナチスは青少年にナチスのイデオロギーを吹き込み、忠誠、仲間意識、義務の遂行、義務の遂行、強い意志といったナチスの価値観を植え付けていきました」などの生徒の発表が報告されている。その後、先生が、ゲッベルス宣伝相などについて詳しく説明していく。
ギムナージウムでの歴史教育では、現代史に重点が置かれているという。日本とはまさに正反対である。日本では現代史はほとんど教えない。
ドイツは1990年に再統一を果たした。統一されたドイツでは、ナチスのいわゆる第三帝国とならんで戦後冷戦時代の東西ドイツ分割の時代、東西冷戦とその終結、ヨーロッパの統合というテーマも同様に重要になってきている。「過去として第三帝国時代が絶対でなくなり、相対化されてきた」と述べられている。
それに比して日本は、あの戦争を未だに相対化できないどころか、中国、韓国と未だになまなましく対立している。
本書では、ホロコーストで生き延びた一人のユダヤ人女性の数奇な運命を描いた『ゲルダの沈黙』という本が紹介されている。動物のように扱われながらもホロコーストで不倫の子を生み、しかも2週間でその子を餓死させてしまった女性のすさまじい実話である。
本書の後半では、ドイツがポーランドと共同の歴史教科書を作り、さらにフランスとも作った努力が、詳しく報告されている。特にポーランドは、歴史上常にドイツにいじめられていた国である。したがって共同の歴史教科書を作ることは、世論として認められなかったが、強い意志を持った両国の歴史学者の粘り強い努力で出来上がったとのことである。その時、成功への道をひらいたのは、当時のドイツ首相、ヴィリー・ブラントの決断だったとのことである。ブラントはポーランドに謝罪し、個人への慰謝料も多額に出したとのことである。首相が本気で和解をしなければ、いつまでも戦争を引きずるのである。今、中国、韓国とそういう状態から抜け出せないでいる日本と比べてみると、政治家の力量の大きな差を感じてしまう。
本書の題名からして、現在の日本人を惹きつける。ぜひ、一読をお勧めしたい。(2015.01.08)
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