東京新聞2015-03-17付P.4 「井上能行の福島だより『学者の責任』福島通う」を読んで (続き)
- 2015年 3月 23日
- 評論・紹介・意見
- 松井英介
これは3月21日に掲載された記事 (http://chikyuza.net/archives/51789)の続きです。
3月5日付「新婦人しんぶん」記事批判文を以下に紹介しますので、お目通し下さい。
この記事も、安斎育郎氏の活動を肯定的に伝えたもので、上記貴紙記事と共振しています。
「新婦人しんぶん」記事に登場した、0.23μSv/h記述(一日8時間外にいたとして年間実効線量mSv/yを過小評価する国際原子力ロビー=国際原産協働体マフィアの悪知恵)が、貴紙のこの記事でも、残念ながら一役買っています。 松井英介
2015-03-05付新婦人しんぶん記事「ここで暮らし、子どもを育てる」を読んで 松井和子・英介
3.11核大災害からまもなく4年を迎えます。3月5日付「新婦人しんぶん」の記事を拝読いたしました。福島市渡利地区にある「さくら保育園」を取材した“福島 東日本大震災・原発事故から4年 ここで暮らし、子どもを育てる”です。エートスや国際核軍産協働体など原発推進派の主張と酷似するその論調に強い違和感を抱きました。以下、問題点を列挙します。
●安斎育郎ほか著「それでも、さくらは咲く」(2014)かもがわ出版からの引用図(グラフ)の元データはどこから持ってきたものなのでしょうか?
●1面の0.23μSv/h記述も、一日8時間外にいたとして年間実効線量mSv/yを過小評価する方式です。換言すると、IAEA・日本政府・福島県御用達の帰還政策推進の論調そのものと言わざるを得ません。
●そもそも、実効線量1mSv/yと言いますが、日本で今一般的に論じられている1mSv/yとチェルノブイリ法(1991年)が「移住の権利ゾーン(実効線量1mV/y以上の地域)」と定めた1mV/yは異なったものなのです。チェルノブイリ法は、土壌中の各種人工放射性物質(セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム239など)から照射された各種放射線(α線、β線、γ線)の測定値(kBq/m2))をもとに、実効線量を計算しているのに対して、「さくら保育園」の測定値はγ線の空間線量だけから導いた実効線量なのです。
●その結果、「さくら保育園」では、人工放射線による子どもの健康影響を過小に評価する結果を招いているのです。さらに「さくら保育園」に取材した今回の記事の場合、子どもが着けているガラスバッチによる測定結果をもとに記事が構成されています。子どもの身体の反対側(胸に着けていれば背中側)からのγ線は、その子の身体で吸収を受けるため、さらに過小評価されることになるのです。
●ちなみに、2013年に公表された国連人権理事会の特別報告者アナンド・グローヴァー勧告とその直後に発表されたIPPNW(核戦争防止国際医師会議)の声明は、ともに移住の権利保障を何よりも重視しなければならないと述べています。次世代のいのちと尊厳を守るために、彼らが尊重したのは、3.11核大災害被害者からの聞き取りと、チェルノブイリ核災害の経験と結果でした。彼らの実効線量評価がチェルノブイリ法に則っていることは、言うまでもありません。
●2面の囲み記事で、医療生協わたり病院・斎藤紀医師は、福島県の子どもの甲状腺がん多発を、3.11東電福島第一原発大惨事が撒き散らした人工放射性物質(ヨウ素131など)の影響ではなく、「自然発生性を見ている可能性」と述べています。何に基づいて述べられているのかわかりません。3.11東電福島第一原発事故以前の日本における子どもたちの甲状腺がん発症率統計データなどは、ご存じなのでしょうか。
3月14日から仙台で開かれる第3回国連防災世界会議が、原発大災害を排除し、地震と津波による災害のみを論じ、それからの復興を高らかに謳い上げようとしているとき、日本列島各地で子どもたちの健やかな成長を願って誠実に生きている草の根の女性たちの手元に、このような内容の記事が届けられるのを、私たちは黙って見過ごせません。
安斎育郎他著「それでも、さくらは咲く」(2014)かもがわ出版からの引用図(グラフ)について、関連する資料をご存知でしたら、ご教授ください。
内部被曝の際の、例えば太古の昔からある天然のカリウム40と原発大惨事が生み出した人工放射性物質のひとつセシウム137は、人体内で類似の挙動を示しますが、それらの生体影響は、セシウム137の方が腎からの排泄が遅延するなど、大きく違うのです。さらに水溶性化合物となったセシウム137と不溶性(水に溶けない)それの挙動は、体内分布や排泄速度の点で、全く異なっています。それら生体影響の違いについては、ウクライナのWBC(whole body counter) centerなどにデータの蓄積があります。
そもそも、地球上にいのちが芽生えたとき、すでにカリウム40など天然の放射性物質は、海や陸上の環境中に存在していました。そして、それら天然の放射性物質を呼吸や飲食によって取り込んでも、体内に蓄積しない構造と機能を身につけた生物種が生き延び、今日地球上に存在するわけです。私たち人類も例外ではありません。
人間が自ら核開発の結果生み出した人工放射性物質が地球上に出現し、核実験によって地球が広く汚染されるようになって、わずか70年。私たち人類にとって、人工放射性物質はあまりにも新しく、毒性の強い存在だと言わねばなりません。
したがって、天然の放射性物質と人工放射性物質を同列にあつかい、しかも計算方法も明示しない実効線量で示したグラフを一般の女性たちに示すやり方は、良くないと考えます。
溶けたウランの在り処すらわからず、いつ収束するか全く目処の立たない、しかも人口密集地で起きた東電福島第一原発大災害。人類がかつて経験したことのないこの大惨事から次世代を守る責任は、私たち同時代を生きるすべての者に問われているのではないでしょうか。
就中、科学者、医師、教育者、そしてジャーナリストの責任が重大なのは、言うまでもありません。
(2015-03-04 記)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5252:150323〕
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