小児甲状腺ガンの発症が事故前の数十倍に増えた(公式発表) =甲状腺ガン多発の事実が示す放射線被曝の衝撃=
- 2015年 6月 27日
- スタディルーム
- 蔵田計成
第Ⅰ部 多発
(1) 甲状腺評価部会「中間とりまとめ」の意味
2015年5月18日、第19回福島県「県民健康調査」検討委員会(以下福島KKK)が開催された。その際に提出された同委員会甲状腺評価部会の「中間とりまとめ」には、以下のような注目すべき記述がある。
「これまでに112人が甲状腺ガンの『悪性ないし悪性疑い』と判定、このうち、99人が手術を受け、乳頭がん95人、低分化がん3人、良性結節1人という確定診断が得られている。こうした検査結果に関しては、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。」(注1)
この引用の末尾は重要な意味を持っている。福島県の小児甲状腺「悪性ないし悪性疑い」(以下略称)が事故前に比べて「数十倍」も多発している事実を公式に認めているからである。また、引用の前半に「良性結節1人」とある。つまり、悪性や悪性疑いの判定が覆り、「良性」となる比率は0.9%に過ぎないことも指摘している。
このように、判定当事者が「数十倍の増加」を認めたことはきわめて重要である。当局自らが小児甲状腺ガン「悪性・悪性疑い」の急増を認めたからである。
そこで筆者は、福島KKKの統計資料を援用して、公式見解を定量的に裏付け、「数十倍説」の検証を試みた。その結果、いま重汚染地域で進行している甲状腺被曝疾患の多発の実態を鮮明に浮き彫りにすることができた。
(2) 事故発生3年後、実質的罹患率、100万人当たり154人(10万人当たり15.4人)
第19回検討委員会資料(注2)によると「悪性・悪性疑い」と診断された累計罹患数は、2015年3月末現在、合計112人(2巡目を含め5月現在126人)であった。
この112人は手術前に認定された小児甲状腺ガン「悪性・悪性疑い」の罹患数(有病者数)である。なお、常識的には、「悪性・悪性疑い」はガン疾患とみなすべきであが、最終的なガン疾患の認定は、切開手術による細胞の検診や培養などを通して行われる。以下は、検査年次別の統計にみる罹患数の内訳である(カッコ内は手術済みの人数)。
◇「悪性ないし悪性疑い」
2011年度検査、事故1年後検診地域、A地区 15人 (15人)
2012年度検査、事故2年後検診地域、B地区 56人 (52人)
2013年度検査、事故3年後検診地域、C地区 41人 (32人)
上記の合計 112人、このうち手術実施 99人(88%)、残り12人手術前、良性1人(0.9%)。ところが、この合計112人は、当然ながら事故発生後3年間の累計(有病者数)ではない。なぜかというと、「この合計112人」という数字は、事故1年後、2年後の時点の検診結果を含んでいるため、それらの2地域では「3年後の時点」の検診結果が不明である。この検診年次の不足分を補正することによって、はじめて《事故発生3年後(2013年)時点における、3地域の小児甲状腺ガン罹患総数》がわかる。この実数を推計すると、「悪性・悪性疑い」罹患総数は112人ではない。0-18歳集団、3年間、推定「約170人」となる。
この「年次補正」の推計根拠は、後の第Ⅱ部、(1)表Ⅱでみる事実と傾向にもとづいている。福島KKKの3年後(1巡目)統計一覧表によると、全受診者集団に対する、A2判定の罹患率は毎年10%(10万人で1000人)ずつ高くなり、B判定の罹患率は0.2%(10万人で200人)ずつ高くなっている。また、細胞診(精密検査)受診率も1年後実施件数よりも、2年後実施件数が高くなっている。さらに、細胞診受検集団に対する「悪性・悪性疑い」群の罹患率は、検査年次についてみると、2年後検査は5%(100人に5人)、3年後検査は2%(100人に2人)ずつ増えている。
年次補正はこれらの事実にもとづいて行った。つまり、A地区における事故発生1年後の罹患数については、2年後と3年後の分(2年分)を加算した。B地区については、2年間の罹患数の半分(3年目分)を加算した。このようにして、A、B、C、3地区3年間の累計有病数を推計した。このように「数十倍説」と平行して、3年分の罹患数を算定すると、甲状腺疾患に関する実質的な罹患状態がわかる。以下は実際の計算法である。
2011年度実施 A地区 15人→累計 15+15×2 (1年分の2倍)=45人
2012年度実施 B地区 56人→累計 56+56÷2 (2年分の半分)=84人
2013年度実施 C地区 41人→41人
ゆえに3地区総計(45+84+41)=170人(3年間の累計)
したがって、年平均当たりの罹患数は170÷3=56. 6人
これは福島県子ども人口36万7685人(0-18歳、2011年3月11日現在)に対する罹患数である。これを<人口10万人当たり>に換算すると、
56.6人÷36.7685[万人]=15.4÷10[万人]
つまり、小児甲状腺ガンの年間罹患率は「10万人当たり=15.4人」(100万人で154人)
(3) 事故発生前、甲状腺ガン年齢別罹患率 「国立がん研究センターがん統計」(注3)
表Ⅰ 2007~08年、5歳階層別、年間平均罹患率(10万人当たり)
年齢 |
男 |
女 |
男女平均 |
|
0-4歳 |
0.0 |
0.0 |
0.0(人) |
|
5-9 |
0.15 |
0.15 |
0.1 |
|
10-14 |
0.15 |
0.15 |
0.15 |
|
15-19 |
0.35 |
1.35 |
0.85 |
|
0 – 19 |
|
|
0.27 |
|
20-24 |
0.85 |
3.25 |
2.0 |
|
30-34 |
1.75 |
7.25 |
4.5 |
|
40-44 |
3.95 |
15.75 |
9.8 |
|
50-54 |
5.1 |
18.75 |
11.9 |
|
60-64 |
8.25 |
23.25 |
15.9 |
|
70-74 |
10.3 |
21.85 |
16.6 |
◇ 比較基準と対象
事故前(2007~08年)の罹患状態、0-19歳集団(男女平均)で年間罹患率=0.27人
先に求めた事故後3年間の罹患状態から年間罹患率は、福島県0-18歳で平均15.4人である。
∴ 対事故前と事故後の子ども人口に対する集団罹患率を比較すると → 15.4÷0.27=57倍 (「数十倍」と整合的)
なお、事故前1998~2007年 (10年間、チェルノブイリ事故12~21年後)、0-19歳集団の平均罹患率=0.21人である。これを基準にすれば73倍となる。
以上のような分析結果は、福島KKK「中間とりまとめ」の「罹患率・数十倍」という判定とよく整合している。両者ともに多発の事実を裏付けている。
ちなみに、本稿で論考した《検診年次差の補正》を行わないで、福島KKK発表の3年間罹患数112人を鵜呑みにした場合に、その罹患倍率はどのような結果になるだろうか。3年間の名目上の112人は、実質上の170人の66%(112÷170=0.66倍)である。その結果は、対事故前38倍(=57倍×0.66)の増加ということになる。これでも、十分に異常な多発という事実は揺るがない。
(4) 福島県の小児甲状腺ガン罹患率は、事故後に急増した
上記、表Ⅰから明らかなように、事故前(通常)の自然放射線(原爆、核実験、原発事故も含めた)による成人甲状腺ガン罹患率は、思春期を過ぎた後の若年成人世代(20-34歳)から増加が目立ち、年齢とともに急増していることがわかる。たとえば、男女の差もかなりあるが、男女平均でみても年代差は大きい。50-60歳の甲状腺ガン罹患率は、5~9歳の率に比して、100~150倍も高いことがわかる。
さらに注目すべきことは、この事故前の罹患率と比べて、今回の福島県0-18歳の小児甲状腺ガン罹患率は異常な高さになっている。それは60歳世代(男女平均)の罹患率にほぼ等しくなっている。
この甲状腺ガンの異常な多発は、次に継起する惨害の序曲に過ぎない。やがて、固形ガンや非固形ガンが後に続くはずである。しかし、当局者は、なにがなんでも、この状況を「被曝影響ではない」ことにしたいらしい。彼らはさまざまな臆説を持ち出して事実を隠し、ヤミに葬り去ろうとしている。だが、いずれの所論も屁理屈の域を出ていない
§「スクリーニング説」
この説は、子ども人口全体を検査対象に組み込んだ検査過程(1巡目は受診率80%だった)で「スクリーニング効果」なる現象があらわれると主張する。彼らの想定(願望)では、この調査方式が、地方自治体の任意登録(登録府県21)に基づく「国立がんセンター統計」とちがうことが決定的であり、そのために(つまり事故影響ではなくて)発症率が異常に高くなったというのである。だが、全体検査と任意届け出の統計上に生じる差があるとしても、その「差」を定性的・定量的に解明しないかぎり、「統計上の差」を確定することはできない。まして、《どっちがどの程度高くなるか》はまったくわからない。つまり、「スクリーニング効果」というお化けがいることになる。
そもそも、仮に多発の原因が「被曝でない」とするのなら、多発の原因は「何である」のか。「被曝影響」という最強・最悪の犯人を免罪して、「調査方式のちがい」とか「スクリーニング効果」とかのあいまい模糊とした容疑者を捏造することになる。
§「過剰診断説」
過剰診断説は、ガン検診の目的が《死に至るガンを防ぐため》であることを論拠(?) にしている。そして「放置しても致死的とはならないがんが一定程度存在するから、診断や、治療が受診者に不利益をもたらす」ことを過剰診断と定義している。
これはオカシイ。いま福島県で生じているガンが《放置して致死的になるかならないか》を判断すること自体が、《診断しないとわからない》事柄である。放置しても致命的にならないガンという優しいガンを当てにできる保証はどこにもない。その意味で「過剰診断」を理由にした検診放棄によって生じる不測の事態の方がはるかに危険である。
後述するが、過剰診断論は中高年世代の甲状腺ガンに関してはひとつの理屈になり得ても、進行が速い小児甲状腺ガンに関して適用することは許されない。このことはチェルノブイリの貴重な教訓である。事故発生5~10年後、12万人の検診で得た日本調査団の知見によると、A2判定レベルと思われるが、「この小さな段階で局所リンパ節への転移がはじまっている」(注4)という。にもかかわらず、福島KKKは「過剰」という抽象的な決めつけを流布させている。これに対して「放射線被ばくを学習する会」は厳しく批判している。(注5)
「このときの議事録を見ても、どういう根拠にもとづいて、何を批判しているのか、さっぱり 分からない。その後の甲状腺評価部会でも同様だ。最近、渋谷教授がかの有名な学会誌 The Lancet に福島の甲状腺検査・「過剰診断」 批判の論文を書いたというので読んでみた。http://goo.gl/1wNjz3 『論文』ではなく、『通信』だった。…題名を翻訳すれば『福島の甲状腺がんスクリーニングを見直すべき時』となる。データは一切なく、1 頁の約 3 分の 2に渋谷教授らの意見を掲載したものだった。」
§計測技術や計器の性能による統計データの相違
この説は、《過去においては計器の開発や性能が劣っていたために統計上の数値が低く出たが、いまは精度が高いから数値も高い》という主張である。だが、こんな理屈は稚戯にも等しい。
誰にもわかることだが、ガンが実際に多発していなければ、いくら高精度・高感度の測定器で測っても多数のガン判定が出るはずがない。逆に、もし高感度の測定装置を使ったためにガン判定が多数出たのであれば、機器がつくりだした多発であり、それは単純な機器の誤診というべきである。まさか、高性能の装置を使うと、誤診(架空のガン判定)が増えるというわけではなかろう。
反対に、過去にもガンが多発していたのに、測定機の性能が低かったために、ガン判定が出なかったのか?そうであれば、これも誤診である。しかし、ガンを見逃せばいずれ手遅れになり、末期になったり死亡したりする。こうなれば、たとえ性能不足の装置でも容易に多発を突き止めたであろう。
いずれにしても、装置の性能次第で、ガンが多発したりしなかったりすることはない。現在、ガン多発がしていなければいくら高性能の装置でもガン発見はまれなはずである。A2判定に次ぐ、B判定以上の甲状腺疾患は、遅かれ早かれ顕在化し、時間差を経て統計に反映されるはずである。これらの判定結果は、今後のガン多発の予備軍だと考えてよい。
第Ⅱ部 年次経過の分析
(1) 公式統計にみる罹患率の実態
◇表Ⅱ
第19回福島県「県民健康調査」検討委員会、1巡目(2011-13年)、全受診者に対する年次別、症例別罹患率と受診率 (福島県子ども人口、事故当時36万7685人、受診者総数29万9543人、統計2015年3月31日現在)(注6)
年次区分 |
受診者 (受診率) |
A2判定 |
B判定 (二次検査へ) |
細胞診
|
悪性・疑い
|
年次補正 |
(A) |
4万1810人 (87.5%) |
1万5216人(36.4%) |
221人(0.5%) |
91人(0.2%) |
15人(0.036%) |
45人 (0.107%) |
(B) |
13万9338人 (86.5%) |
6万2154人(44.6%) |
987人(0.7%) |
263人(0.2%) |
54人(0.039%) |
84人(0.060%) |
(C) |
11万8395人 (74.6%) |
6万5566人 |
1070人(0.9%) |
175人(0.1%) |
41人(0.034%) |
41人(0.034%) |
注記
◇ 判定項目の説明
A1判定: 甲状腺疾患なし。
A2判定: 結節(しこり)5mm以下、のう胞(水ぶくれ)20mm以下。
B判定 : 上記の範囲を超えるもの、二次検査対象。
細胞診 : 保険を適用した細胞検査が必要な集団。
「悪性ないし悪性疑い」: 手術を必要とする疾患集団。ガン認定は術後。
上記表Ⅱのカッコ内(%)は対人口比ではなくて、対受診者比である。そのうち、最後の項目は対細胞診の罹患率であり、これは筆者が算定・計算した。
(2)各種の統計要素が混在
表Ⅱにはさまざまな統計上の特性要因が入り込んでいる。だが、それらを識別しつつ、このデータを分析すると、被曝の全体像が浮き彫りになる。
◆計測年次の違い
地域の区分が第1原発からの距離に対応していない
地域別の集団被曝線量を反映しているといえるほどの数字上の厳密さはない。
疾患進行の度合い、違いも一律ではない。
(3)表Ⅱが示す特徴と問題点(事故発生後3年間のデータに限定)
◆ A2判定について
この対受診者のA2判定の罹患率(累積)を、事故発生後の1年間、同2年間、同3年間の検診年次順(縦列)にみると、罹患率は年度ごとに上昇している。
1年後検査: 36.4%、
2年後検査: 44.5%(+8.1ポイント)、
3年後検査: 56.2%(+11.7ポイント)、
罹患率は年を追って高くなっている。この事実からいえることは、「小児甲状腺疾患の発症時期や成長速度は遅い」(中西準子)という研究者(注7)の論述は間違いということである。実際に、上記表Ⅱ、事故発生後3年後、(C)地区、A2判定の項でみても明らかである。小児甲状腺疾患は3年後で受診者の過半数55.5%である。なお、2巡目・4年後の統計(本稿では省略)ではさらに増えて57.5%にも達している。しかも、既述したように小児甲状腺ガンは「小さな段階で局所リンパ節への転移がはじまっている」のである。早期・全員の検診が急がれるゆえんである。
◆ B判定について
検査結果をみると、対受診者のB判定罹患率(二次検診対象者)は、事故発生1年後から年次順に増えている。
1年後検査: 0.5%、
2年後検査: 0.7%、
3年後検査: 0.9%
先にみたように、B判定前のA2判定では、それぞれ約10%増(1万人に1000人)であった。このB判定でも0.2%増(1万人に20人)であり、ここでも同じような増加傾向を示している。決して「ガンの成長が遅い」とはいえない。しかも、B地区グループよりもC地区グループは被曝線量が比較的低いにもかかわらず、B判定の罹患率は高い。明らかに、この事実は被曝線量によって生じる地域差に劣らず、検診年次で決まる年次差(潜伏期間ともいえる)が大きな要因になっていることを示している。
◆ 細胞診と年次補正について
細胞診における統計上の特徴は、地域差がはじめて明確に現れていることである。事故発生1~2年後に計測した重汚染地域A・B地域の対受診者の細胞診罹患率よりも、3年後に計測した比較的低汚染C地域の罹患率の方が低い。対受診者の「悪性・悪性疑い」罹患率についても同じである。これは計測年次の差というよりも、むしろ、被曝線量差(集団被曝線量)に起因する地域差というべきだろう。その地域差をもたらす根拠となる仮説をたてれば、A、Bグループの細胞診や「悪性・悪性疑い」を事故発生3年後に計測したとすれば、その罹患率はもっと高くなる。Cグループとの地域落差はさらに広がることが推定されるからである。ただし、被曝線量評価は皆無に等しいので、正確な地域差分析は不可能である。
このような放射性ヨウ素に起因する甲状腺被曝罹患率の経年推移をみても、チェルノブイリの教訓は重要である。住民の過去、現在、未来にわたる被曝履歴の解明と予防策は切実である。被曝・汚染地域全員の検査を行い、被曝疾患の早期発見を徹底すべきである。小児甲状腺ガンの進行は速い。多臓器への転移も早い。他の放射性核種による被曝疾患を含めて、被曝検診は半月、1年を単位に、しかも長期にわたって必要である。また小児甲状腺被曝の罹患率は高く、潜伏期間も短い。子どもに比べて中高年の成人甲状腺ガンは進行が遅く、潜伏期間も長い。放射性ヨウ素や他の核種、他の要因による自然発ガンや疾患発症が増えるため、人口放射能被曝の影響はやや判別しにくくなる。
ところが、被曝傷害の検診に関しては、はれ物に触るかのように住民への「リスク負担論」がまことしやかに論じられている。だが、真の〈命論〉を論じるとすれば、被曝傷害に正面から向き合うべきである。リスク負担論はそれを回避し、被曝無害論への伏線にも等しい。いまもさまざまな被曝影響に苦しんでいるチェルノブイリの教訓から目を背けるべきではない。
◆ チェルノブイリの知見と教訓
次の引用は重要な意味を持っている。小児甲状腺疾患は時間との競争であることを告げている。すでにみたように成長(増殖)は速く、転移(浸潤)も早く、かつ長期にわたることを示している。子どもの罹病率は「9~10年後」に最大値に達した。成人は「17年後」まで上昇を続けた。以下は『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(注8)からの引用である。
「2001年から2008年(事故15~22年後、引用者注)にかけて年平均400例の新たな登録があり、チェルノブイリ事故前の33倍(0歳から14歳の小児では60.0倍)にまで増加している(Ukrainian Ministry of Public Health 2011)。…浸潤型のがんが87.5%にのぼるのは、その腫瘍の侵襲性がきわめて強いことを示している(Vtyurin et al. 2001)。臨床的には、全身的な徴候や症状がないにもかかわらず、早期かつ高頻度にリンパ節転移が見られる。約46.9%の患者で腫瘍が甲状腺外に及んでいる。患者の55.0%に頸部リンパ節への局所転移が生じており、初回手術後まもなく切除しきれなかったために繰り返し手術を要した。さらに、患者の11.6%に肺への遠隔転移が生じた(Rybakov et al、2000; Komissarenko et al、2002)。」
補足
被曝影響の過小評価、規模縮小に向けた策動は許せない
福島KKKは、事故発生3年後までの1巡目の検査を「先行検査」と位置づけ、4年後からの2巡目検査を「本格検査」と称している。「第19回福島県「県民健康調査」検討委員会(資料3-2)」によると、1巡目検査は「先行検査」であり、2015年度からはじめた2巡目が「本格検査」ということになる。この過少な位置づけは、「子どもたちの健康を長期的に見守る」という福島県KKKの前書きが、たんなる大義名分に過ぎないことを示している。たとえば、ウクライナ政府は被災者236万人の基礎データを基に厳密な健康管理をいまも継続している。この事実と規模をくらべてみても、その出発点において雲泥の差をみせている。
被曝がもたらす危険性は被曝時の年齢に強く依存している。とくに、被曝時年齢集団ごとに被曝影響を長期間にわたって追跡調査することが絶対に必要である。このことは、最初の検査対象(コホート)集団を維持・継続することの必要性を意味している。決して1巡目は「先行検査」ではない。
厳密には、1巡目からはじまる、早期・全調査が「本格検査」である。検査の本来の目的は、最大多数の被曝検診、早期発見、他臓器転移防止、早期治療、保養、疎開、移住などの被曝傷害対策、累積被曝防止策にある。検査規模(人数、年齢)や検査地域の拡大は重要な被曝防護の初動策である。
たとえば、アメリカ政府発表によると、東京首都圏(測定:赤坂大使館、横須賀・厚木基地)の子どもたちの事故直後2ヶ月間の甲状腺被曝推定線量は、WHO(世界保険機構)が定める安定ヨウ素剤(被曝予防剤)投与・服用基準に達していた(注9)。その安定ヨウ素剤服用に関するWHO行政介入(投与・服用)基準は、甲状腺等価線量「10mSv」(日米100mSv、独仏50mSv)であった。この放射性ヨウ素の被曝線量の測定結果によれば、甲状腺被曝地域は、東日本全域に及んでいることになる。
また、「甲状腺がんの症例が1例あれば、他の種類の甲状腺疾患が約1000例存在する」(注10)という。早期・広域検診はいまもなお緊急な課題である。放射線による被曝事実や危険性を過少評価し、実態を歪め、改ざんし、隠蔽し、検診規模を縮小しようとしている。これは許されないことである。
参考文献
(注1) 「甲状腺検査に関する中間取りまとめ 」平成 27 年 3 月、 福島県県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会報告、p.1 「1 先行検査で得られた検査結果、対応、治療についての評価」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdf
(注2) 第19回福島県「県民健康調査」検討委員会、2015年8月18日開催。
資 料 3-1 県民健康調査「甲状腺検査(先行検査)」結果概要【暫定版】、 ③-3、4、5
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115357.pdf
(注3) 国立がん研究センター「がん統計」cancer_incidence(1975-2008) 「甲状腺がんの罹患率(発生率)10 万人あたり」http://ganjoho.jp/data/professional/statistics/odjrh3000000hwsa-att/cancer_incidence(1975-2008).xlsより
(注4) 山下俊一、柴田義貞、星正治、藤村欣吾ほか「チェルノブイリ原発事故の検診成績Ⅱ、“チェルノ
ブイリ笹川医療協力プロジェクト1991-1996”より」p.342、(『放射線科学』Vol.42、no.11)。
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1999/00198/contents/009.htm
(注5) 「放射線被曝を学習する会」(2014.11.24)「渋谷健司 Lancet 投稿に「過剰診断」の根拠なし ~引用文献は逆に、甲状腺検査の必要性を示している~」
http://www57.atwiki.jp/20030810?cmd=upload&act=open&pageid=183&file=%E6%B8%8B%E8%B0%B7%E6%89%B9%E5%88%A4%E5%92%8C%E6%96%87+(1).pdf
(注6) 第19回福島県「県民健康調査」検討委員会 資料3 ③-3、4、5。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115357.pdf
(注7) 中西準子、熊本日日新聞「くまにち論壇」、2015年3月15日。
(注8) ヤブロコフ、ネステレンコ、プレオブラジェンスカヤ、『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』 P.142~p.144、星川淳監訳、訳・チェルノブイリ被害実態レポート翻訳チーム、岩波書店。
(注9) OurPlanet-TV 甲状腺のヨウ素被曝、東京成人5.2mSv~米国防省推計
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1475
(注10) 同(注7)『チェルノブイリ被害の全貌』p.81。
2015年6月
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study645:150627]
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