福島の小児甲状腺がん多発と被ばく影響 (Our PlanetーTV・白石草氏の『週刊金曜日』 掲載レポートより)
- 2015年 7月 18日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
今週号の『週刊金曜日』(2015.7.17)に掲載されたOUR PLANET TVの白石草氏のレポートです。福島県の「県民健康調査」における子ども甲状腺ガン検査結果をめぐる直近の状況をコンパクトに伝えています。ご参考までにご紹介いたします。
●福島の小児甲状腺がん多発と被ばく影響(白石草『週刊金曜日 2015.7.17』)
<参考サイト>
(1)甲状腺検査に関する中間取りまとめ [PDFファイル/183KB]
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdf
(2)「福島県民健康調査検討委員会」HP
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai.html
(3)▶ 20130829 UPLAN 白石草 第12回福島県民健康管理調査の甲状腺検査結果 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Po9RHyud_zU&feature=youtu.be&t=29m26s
これまで「福島県民健康調査検討委員会」は、福島県内に限定されたわずか30万人の子どもたちを調査しただけで120人を超える子ども甲状腺ガンが発見されているにもかかわらず、その子ども甲状腺ガンの多発そのものを認めず、単なるスクリーニング効果であるとうそぶいてきました。従ってまた、この子ども甲状腺ガンは福島第1原発事故による放射能の影響とは関係がない(「あるとは考えにくい」という中途半端で逃げ腰の,のちのち責任回避をするための表現を使っています)と、事実上、被ばく影響を否定し、その根拠に、放射性ヨウ素による初期被ばく線量が小さいことや、チェルノブイリ原発事故では子ども甲状腺ガンの多発は4年目以降だったこと、あるいは甲状腺ガンは進行の遅いガンで事故後の4年程度では大きくならないと思われるため、今現在発見されているものは福島第1原発事故前に発生していたもの、あるいは発生の原因があったものと考えられる、などを挙げています。
しかし、この「福島県民健康調査検討委員会」の説明は、子ども甲状腺ガンが1巡目検査と2巡目検査を併せて126人となり、かつ2巡目検査において、1巡目ではA1、A2判定で基本的には問題なしの判定だった子どもたちが(わずか2年後の再検査で)14人も甲状腺ガンを発症していること、また、126人のうち103人が、何らかの重症症状(将来的に生命維持や身体に重大なマイナス影響をもたらす可能性が高いと診断された)があったことから、甲状腺ガンの摘出手術を受けていること、などの事実によって破たんの様相をきたしていた。
そして、ここにきて、「福島県民健康調査検討委員会」のこれまでの無理な説明について下記のような変化が見られるようになった。これは重大な変化とみていい。
(1)「福島県民健康調査検討委員会」の下部委員会である「甲状腺評価部会」が、甲状腺検査に関する報告書の「中間とりまとめ」を策定したが、そこでは、当初の文案にあった記載内容(子ども甲状腺ガンの多発の否定など)を一部修正し、公的な機関としては初めて「多発」であることを認めた。しかも、単なる多発ではなく「数十倍のオーダーで多い」としている。
(2)そしてその「多発」の原因として、被ばく影響と「過剰診断」の2つを挙げ、前者を否定し後者を肯定する説明を行った。
(3)しかし、これまで福島県の子ども甲状腺ガンの臨床に携わり、この問題については事実上第一の責任者とみなされていた鈴木真一福島県立医科大学教授は「過剰診断」を否定、手術をした子どもたちには、それぞれ手術をせざるを得ない症状の深刻さなどの理由が具体的にあり、「過剰診断」=「過剰治療」などということは心外であるとした。そして、その鈴木真一氏は,直近の第19回の「福島県民健康調査検討委員会」以降、その役職を辞任してしまっている。(これまで「多発ではない」「放射能や被ばくとは関係がない」を強く言い続けてきたのが,この鈴木真一氏であることから,近い将来の子ども甲状腺ガンの多発を見越して,責任追及を避けるため,早めに辞任した(逃亡した)可能性もある)
(4)また,第1巡目でA1,A2判定で,特に懸念なしとされた子どもたちが14人も,わずか2年間の間に甲状腺ガンを発症しており,甲状腺ガンは進行が遅いというこれまでの成人に見られた従来型の甲状腺ガンの知見は,少なくとも原発事故に伴う放射線被曝による子どもの甲状腺ガンには当てはまらないことが事実を持って証明された。子どもの被ばくによる甲状腺ガンは進行が速く,アメリカの科学アカデミーなどでは,その潜伏期間を1年以上としている。
(5)鈴木真一福島県立医科大学教授の後任には、長崎大学の教授で、山下俊一の門下生の大津留晶教授が就任した。
以上のバックグラウンドを抑えたうえで、この白石氏のレポートをご覧いただければと思います。以下、一部抜粋します。
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(中略)鈴木真一教授らは、「どれも適切な手術であった」と、繰り返し反論してきた。その反論の過程で、次第に浮き彫りになってきたのは、子どもたちの深刻な症例である。鈴木教授によると、手術を終えた症例のうち、7割の子どもは腫瘍の大きさが1センチ以上かまたはリンパ節転移があり、「手術をしなくてよい微小がんはない」と主張する。中には、肺に転移しているケースもあるという。また、残りも反回神経に近いなど、手術は必要だったと主張する。
(中略)子どもたちの甲状腺がんの実態が明らかになるにつれ、これまでのような単なる数値だけでなく、一人ひとりの症例を検討できる仕組みが重要になってきている。しかし、5月18日の検討委員会に、その全てを把握している鈴木教授の姿はなかった。甲状腺がんの治療に専念するために、3月いっぱいで「甲状腺検査」の責任者を退任したという。
後任には、長崎大学から福阜県立医科大学に移った大津留晶教授が就任した。大津留教授は、県の「甲状腺検査」を制度化した同医大の山下俊一副学長の門下生だが、専門は内科で、手術は専門外だ。この日、はじめて検討委員会で説明に立ったが、臨床に関する個別の質問については何一つ答えることができなかった。
筆者が「責任者交代により、情報の透明性が低下するのではないか」と福島県の小林弘幸県民健康調査課長に問うと、こんな回答が帰ってきた。「この部分の説明は県立医大の業務委託には入っていない。データは県立医大のもの」「今後も公開を求める考えはありません」ーーー。
津田教授(津田敏秀岡山大学大学院教授(疫学・公衆衛生学):田中一郎注)は忠告する。「WHOの報告書では、甲状腺がんだけでなく、白血病、乳がん、その他のがんも多発すると予想されています。福島の甲状腺がんの数はその予想を上回っています。症例把握の準備をし、対策を立てる必要があります」
津田教授が具体的に提言するのは、18歳以上の年代への甲状腺検査の拡大と、福島県外地域の住民の症例把握だ。また白血病をはじめ、放射線感受性の高い疾病に関しても、早急に症例を把握する必要があるという。そして、何よりも「避難指示解除の延期」をし、妊婦や子どもを優先した被ばく対策を急ぐべきだとする。
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(それにしても、上記の白石氏の問いに対する福島県庁の役人(小林弘幸県民健康調査課長)の回答は一体何なのだろう。この人はいったい何のために仕事をしているのか、ということだ。私のかつての仕事の経験でも、地方公務員には、こういうタイプが少なからずいた記憶がある。公務員バッシングを招いている一つの原因にもなっている可能性もある。ともあれ、こういう役人の態度に対しては猛烈に腹が立ちますね:田中一郎)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5498:150718〕
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