辺野古新基地建設が唯一の解決策ではない - 本土移設の可能性は残されている ー
- 2015年 9月 4日
- 評論・紹介・意見
- 宮里政充沖縄
世界は見ている
菅義偉官房長官は8月4日の記者会見で、辺野古新基地建設に伴う海底ボーリング作業を8月10日から9月9日までの1か月間中断し、その期間中に移設問題について沖縄県側と集中協議をおこなう考えを表明した。日本政府はこれまで辺野古移設以外に解決策はないと言い切り、沖縄の民意に全く耳を貸さずにボーリング作業を続けてきた。それではここへきて強権的な態度を和らげて妥協策をさぐろうとしているのか。沖縄側で行っている海底調査の結果によっては辺野古移設を断念することがあり得るのか。それはあり得ないし、安倍政権は別の思惑を持っていると私は思っている。
それは、安保関連法案に対する反対運動が高まりつつある中で、海底ボーリングを続けることは得策ではないと判断したこと。つまり、沖縄県側と協議する姿勢を見せることで、安保関連法案が成立するまでの間、世論が幾分かでも鎮まることを期待したのである。さらに言えば、仲井真前知事による埋め立て承認(2013年12月)を取り消す姿勢を見せている翁長知事と話し合うことで、決定的な対立の時期を遅らせたいと判断したものだ。日本政府の基本的な姿勢に変化があったわけではない。そのことは協議を重ねるごとに沖縄県と本土政府との間に横たわる溝がいかに深いかということがさらに明らかになってきたことでもわかる。
ところで、政府が時間稼ぎをしている間に、国の内外から新基地建設反対の動きが高まってきている。次は8月17日の琉球新報の記事である。
沖縄を訪問中の国連特別報告者のビクトリア・タウリ=コープス氏は8月16日、沖縄大学で講演し、辺野古新基地建設問題を巡り9月に翁長雄志知事が国連で演説することに触れた上で「国際的な場で声を上げることでさまざまな好機が出てくる」と述べた。コープス氏は「知事の後押しができると思う」と述べ、新基地建設阻止に向け行動する沖縄の民意を支援していく考えを示した。この講演会は「国連特別報告者緊急来沖シンポジウム『沖縄における人権侵害―自己決定権の視座から―』と題して沖縄大学地域研究所が主催、「沖縄『建白書』を実現し未来を拓く島ぐるみ会議」が共催して行われたものである。
コープス氏はまた島ぐるみ会議国連部会長の島袋純琉球大学教授との対談で、島袋氏が「沖縄の土地や辺野古の海の保全や利用について決める権利は沖縄にあるという理解でいいか」という質問に対し、「その通りだ。国連宣言を踏まえれば土地や資源だけでなく、海域や空域についても先住民に権利があるとうたわれている」と答えたという。
2番目の動きは、海外の著名人や文化人74人が辺野古新基地建設をめぐって声明を発表したことである。8月23日の沖縄タイムスの記事を紹介する。
オリバー・ストーン氏(米映画監督)やノーム・チョムスキー氏(米マサチューセッ
ツ工科大学言語学名誉教授)、モートン・ハルペリン氏(元米政府高官)ら海外の著名人や文化人、運動家ら74人は22日、名護市辺野古の新基地建設計画をめぐる声明を発表した。同計画を阻止する鍵を握るのは、翁長雄志知事による埋め立て承認の取り消し・撤
回だと主張し、「知事が無条件で妥協や取引を全く伴わない埋め立て承認の取り消しを行う ことを求め、期待する沖縄の人々を支持する」と表明している。
さらにこの声明は、政府が大きな経済振興計画を約束して知事の決意をくじこうとすることは、沖縄の人々に対する侮辱であるとし、翁長知事が節を曲げることがあってはならないとくぎを刺し、「われわれは沖縄の人々のこの要望を支持する。世界は見ている」と結んでいる。
3つ目の動きは、「SEALDs RYUKYU(シールズ琉球)」が23日から活動を始めたことである。このグループは「WAR IS OVER」「辺野古NO」などのプラカードを掲げ、23日に全国64か所で行われた「全国若者一斉行動」と連動してデモ行進を行った。この活動について沖縄タイムスと琉球新報は大きく取り上げたが、ここでは東京新聞の報告記事(8月24日)を紹介する。
沖縄県北谷(チャタン)町では、今年の終戦の日の8月15日に設立されたばかりのの「SEALDs RYUKYU(シールズ琉球)」が初めてとなる集会を開いた。県内の学生や一般市民ら約500人(主催者発表)が集結。青年会によるエイサーが披露された後、ラップ調の掛け声に合わせ、参加者が安保法案や辺野古への新基地建設反対を訴えた。
安倍政権がこれまで有無を言わせず強行してきた辺野古新基地建設問題はこのようにして今や国際的な問題へと発展している。ということは、世界の人々は8月14日に安倍首相が発表した「70年談話」と彼が強権的な政治手法で推し進める新基地建設との間に整合性はあるのか、あえて言えば、「安倍首相は言っていることとやっていることが違うじゃないか」と疑う人々が世界中に広がり始めるということである。
たとえば、談話の中で「すべての民族の自決の権利の尊重」「自由で民主的な国づくり」「法の支配の尊重」などと言いながら、沖縄県民の民意を無視し、憲法より「日米地位協定」を優先させてきた。「法的安定性は関係ない」と言った塩崎陽輔首相補佐官の言葉は法治国家の根幹を揺るがす内容であるが、安倍首相は彼を辞任させなかったし、沖縄の地元新聞を潰そうと公言して憚らない人物などを自分の身近に集めている現実とは矛盾しないのかなどなど、「70年談話」の美辞麗句とは真逆の現実があまりにも多すぎる。
安倍政権が持つ、これらの矛盾はおそらく、翁長知事が9月に国連で行う演説によってさらに明らかになるはずである。
本土に移設の受け皿はある
翁長知事と日本政府との集中協議について普天間基地を抱える宜野湾市長は普天間基地の固定化に危機感を持ち、集中協議に参加したいと要望している。これは沖縄の基地問題の複雑さを示しているが、翁長知事の主張が実現され宜野湾市長の危機感が解消されるためには、普天間基地の県外移設しかない。
そこで私は次のように考える。長崎県議会は、安保関連法案について反対もしくは慎重審議を求める地方自治体が300を超えている中で、7月9日、先頭を切って法案の今国会での成立を求める意見書案を可決した。同じ日に秋田県議会、翌10日には安倍首相と高村正彦衆議院議員の地元山口県議会が同様の議決を行っている。
人類史上はじめて被爆した長崎県が今なお苦しみ続けている被爆者をしり目にいち早く安保法案の早期成立を国に要請したということは、法案の抑止力を期待してのことであろう。離島を多く抱え、しかも中国大陸に近い地理的な環境からすれば、他県に比べ中国や北朝鮮に対する脅威が強いことは納得できる。となれば、沖縄の海兵隊を佐世保港の近くへ移設させたらどうか。その方が軍事的機能性も抑止力もはるかに高まるというものだ。
さもなければ、普天間基地を安倍首相と高村正彦自民党副総裁の地元である山口県の米海兵隊岩国航空基地に移設させたらどうか。そうすれば世界一危険な普天間基地が沖縄からなくなり、岩国の基地も強化され、九州・四国・中国地方の人たちは安心して暮らせることになる。安倍首相の積極的平和主義をまず地元で実践してもらいたい。もし県民が反対したら「沖縄の人たちの痛みや苦しみを分かち合おうではないか。それに、基地強化はさらなる抑止力になり、それだけ皆さんは平和で安心した暮らしができるわけだから」と言えばよい。
一国の総理と副総理がその実力を発揮すれば愛国心と平和を愛する県民は必ずや普天間を受け入れてくれるものと期待している。アメリカにおける安倍政権の評価もぐんと上がるはずだ。
最後に、リチャード・アーミテージ元米国務副長官に対する琉球新報記者のインタビュー記事を紹介する(8月27日、ryukyushimpo.jp)。
(アーミテージ氏は)米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画について「日本政府が別のアイデアを持ってくるのであれば、間違いなく米国は耳を傾ける」と述べ、翁長雄志知事が県内移設に反対していることを踏まえ、計画見直しに柔軟な姿勢を示した。<中略>アーミテージ氏は「国防次官補の時、私は普天間飛行場の移設を協議事項として持っていた。だが、冷戦だったし、アフガニスタンで、ソ連と戦争していた。すべてがテロの対処に向かっていた。沖縄から気がそれてしまった、大変、申し訳ない」 と述べた。
アーミテージ氏と言えば、山本太郎参議院議員が8月19日の国会で「安倍政権は米国の『指示書』通りに政策を進めている」と批判したが、その時山本議員が突きつけた「指示書」が「第3次アーミテージレポート」なのであった。その内容は原発再稼働、TPP推進、秘密保護法、武器輸出原則の撤廃、集団的自衛権の行使容認を日本政府に提言するものであった。岸田外務大臣はもちろん「日本の自主的な取り組みだ」と否定したが、安倍政権の強硬な政治手法を考えると、何としてもアメリカの意向通りに政策を実現させたいという姿勢は誰の目にも明らかであろう。
アーミテージ氏が「アメリカは間違いなく傾ける耳を持っている」と答えているということはすなわち、これまで日本政府はアメリカに対して普天間基地移設についての外交努力をしてこなかったということではないか。交渉のために、情熱をもって、何度も何度もアメリカ政府へ足を運んでいれば、普天間基地移設問題は解決していたかもしれないのである。今からでも遅くはない。安倍首相は「70年談話」で世界に向かって宣言した「民族自立の決定権の尊重」が空言ではないことを証明すべきである。逃げてはいけない。 (2015.09.01)
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