なぜこんな最悪の戦争犯罪が犯されたのか ― アフガン米軍の病院爆撃は誤爆か作戦か
- 2015年 10月 7日
- 評論・紹介・意見
- アフガニスタン坂井定雄
アフガニスタン北部クンドゥズの、「国境なき医師団(MSF)」病院への米軍の爆撃事件(3日未明)。少なくともMSFの医師、看護師らスタッフ12人、患者10人が死亡、37人が重傷で、うち19人がスタッフだとMSFが発表した。2011年10月に、ブッシュ政権下の米国がアフガニスタンへの戦争を開始して以来、おそらく最悪の米軍による病院爆撃事件だ。米軍はMSFとアフガン当局から、同病院の所在地、建物ごとの役割を詳細に通知されており、米軍自身の航空機と衛星の偵察情報で綿密な位置を掌握しているのに、なぜこんな爆撃をしたのか、それとも誤爆か。しかも、集中治療室、救急対処室・病室がある病院の中央建物が繰り返し爆撃され、周辺の建物への爆撃はほとんど被害を受けなかったという。
アフガニスタン政府国防省は爆撃があった3日、「あの病院は武装テロリストたちが政府軍と市民たちを攻撃する拠点として使っているからだ」と説明した。これに対しMSFは声明で「これの説明は、アフガン政府軍と米軍が、タリバンのメンバーがいると主張して、このスタッフと患者180人がいるフル活動の病院の壊滅を、共同して決めたことを示している」と非難した。この病院はMSFの最も重要な原則に従って、住民でも、政府軍でもタリバンでも、武装していない限り敵味方にかかわらず、平等に受け入れてきた。タリバン側もそれを尊重し、治療を受けてきた。だから、タリバンがここを軍事拠点にしていたという政府軍の説明は信じられない。それなのになぜ米軍は、政府軍の説明を信じたのか。それならば、政府軍に騙された誤爆になる。
2001年からアフガニスタンで軍事行動を続けてきた米軍と国際治安支援部隊は、昨年末までに、約1万人の米軍とごく少数の英軍などを残して撤退、アフガン政府軍の訓練と限られた支援作戦を来年いっぱい継続することになっている。これまでにも、アフガンでは米軍機による誤爆が繰り返されてきた。山間部の部落などでの結婚式など、住民の集合への誤爆で数百人の死傷者を出したことが何回もあった。それらの誤爆は、空からの偵察情報、住民内の協力者情報が無いか少ない場所での出来事だった。今回のように、所在地、活動内容が明確に公表されている固定した施設で、まして、「国境なき医師団(MSF)」の病院で、住民だけでなく政府軍や米軍と敵対するタリバン兵士でも、つまり敵味方だれでも、武器を持たない限り、受け入れ医療を施す病院を、犠牲者が多数出ることが分かり切っているのに爆撃した理由を米軍はどう説明するのか。
MSFは、「あらゆる証拠は国際部隊が空爆したことを示している」として(医療施設への攻撃を禁じた)「国際人道法の重大な違反だ」と非難、「戦争犯罪が犯された明確な容疑に基づく、国際機関による独立した調査」を要求した。国連の潘基文事務総長は病院爆撃を厳しく非難、国連人権機関のトップ、ザイド・ラード高等弁務官は「悲劇的、冷酷極まる行為であり、犯罪的ですらある」と非難した。
オバマ大統領は、まだ米軍機の誤爆だとは認めてはいないが、徹底的な原因調査を指示した。米国が自国による調査だけでなく、国際的の調査に全面的に協力し、原因と責任を明確にしなければ、大統領と米国政府、米軍に対する国際的な不信感を大きく深めるのは必至だ。
「国境なき医師団(MSF)」は1971年にフランスで創設。世界各国の医療スタッフがボランティアで参加し、2014年実績では、約60か国の紛争地域、貧困地域で現地スタッフを含め約3万8千人が献身的な活動を展開した医療・人道援助の民間・非営利のNGO。昨年夏のガザに対するイスラエル軍の残虐な攻撃の中で、パレスチナ人医師・看護師たちとともに医療にあたったMSFの活動について、本欄でも紹介した。さまざまな分野で活躍する国際NGOのなかでも、最も信頼、尊敬され、生命を護るために役立っている組織であり、1999年にノーベル平和賞を受賞している。日本事務局は92年に発足、2014年には日本から87人を派遣した。もちろん私もささやかな支援を続けている。
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