構造的腐蝕・犯罪は、歴史により裁かれる!
- 2016年 2月 16日
- 時代をみる
- 加藤哲郎政治
2016.2.15 甘利経済再生大臣辞任のニュースに合わせたような、アベノミクスのバズーカ砲、黒田日銀総裁のマイナス金利導入は、裏目に出ました。株価はあっという間に1万5000円割れ、円は一時110円まで上がりました。誰も想定外の、グローバル市場の動きです。いや前回紹介した金子勝・児玉龍彦さんの新著『日本病ーー長期衰退のダイナミクス』(岩波新書)の診断を延長すれば、人為的なマネー垂れ流し政策の効果に限界がきて、麻薬が効かなくなって副作用が表に出てきたと言うことでしょう。長期的には構造的な世界金融危機への対応の稚拙ですが、短期的には、中国経済にも、原油安にも、ドイツ銀行や欧州危機にも責任転嫁できない、安倍内閣と黒田日銀の失政です。為替も株価もまだまだ動くでしょうが、私たちに直接関係あるのは、むしろ実質賃金4年連続のマイナスとGDPマイナス成長の景気後退、トリクルダウン理論の破綻です。折から国会では、支持率回復と戦争法反対運動の息切れに乗じた安倍首相の9条2項改憲の決意表明、かつてならこれだけでも大問題になるところですが、甘利大臣に続いて遠藤スポーツ大臣の口利き疑惑、高市総務相は放送法を歪めて気に入らない番組の電波停止宣言、法がわからず答弁不能の岩城法相、丸川環境相は福島県民の不安を逆なでする被曝線量無責任発言、島尻北方領土担当大臣は担当する焦点の歯舞を読めず、 そういえば宮崎イクメン議員の不倫は議員辞職になったが、高木下着泥棒復興大臣は居座ったまま。野党の追及点はいくらでもあるのに、与党絶対多数議席のもとで暖簾に腕押し、ふがいない政治と政治家の劣化、スキャンダルというより、構造的腐蝕です。
米英の報道さえ「ロケット」となっているのに、なぜか日本のマスコミは「事実上の長距離弾道ミサイル」と一斉に報じた、北朝鮮の核実験に続く自称「人工衛星」打ち上げ。確かに米国東海岸まで核弾頭を搭載すれば「ミサイル」になるという点では正しいのですが、かつて「飛翔体」などとよんできたものに、日曜なのに首相以下政府が素早く動き、石垣島にPAC3を配備したものものしい体制を見ると、どうやら自民党改憲草案にいう「緊急事態」の予行演習と「有事」宣伝の情報戦だったようです。北朝鮮が国際的に非難されるのは当然ですが、そもそもロケット開発そのものが、核開発と一体の軍事技術であったことを振り返れば、宇宙ロケット・人工衛星は「平和利用」で、ミサイルは「軍事利用」という使い分けそのものが、情報戦です。まもなく福島原発事故から5年、終わりなき核被害を経験しつつある私たちは、核についての「原子力の平和利用」=「原爆反対・原発推進の論理」と併せて、核運搬手段として開発・推進されてきたロケットや宇宙開発技術の「軍民両用」「中立性」にも、疑いの眼を向けるべきでしょう。どちらも第二次世界大戦期の米英原爆製造「マンハッタン計画」に始まります。学術書としては鈴木一人さん『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)ぐらいしかありませんが、米英のナチス核技術者監視・獲得計画、アルゾス作戦からペーパークリップ作戦まで追いかけてゆくと、ナチスV2ロケット開発者ヴェルナー・フォン・ブラウン博士の戦犯訴追を免責したアメリカ移住、「米国宇宙開発の父」へと転身する歴史が、刻印されています。アメリカ留学中にマンハッタン計画下でミサイル開発に動員された中国人科学者銭学森博士は、戦後マッカーシズムにより5年間軟禁されましたが、55年に朝鮮戦争の米軍人捕虜と引き換えに中国に帰還し、中国の核開発とミサイル開発の双方をリードして、今では「中国宇宙開発の父」とよばれます。日本の本格的な「原子力の平和利用」と糸川英夫博士のロケット開発は、なぜか1955年頃に一緒に始まり、共に予算規模の巨大な科学技術庁の管轄におかれてきました。「事実上の長距離弾道ミサイル」が、「事実上の核兵器開発」と一体だったのは、どこかの国だけの話ではありません。
入学試験の季節です。昨年大きな問題になった明治大学法科大学院教授の司法試験問題漏洩事件は、すでに有罪判決が確定しています。ところが今頃になって、実は通常講義の中でも試験問題を受講生全体に教えていたという新たなニュース。司法の問題として決着しても、歴史の問題としては書き換えられていく一例です。5回目の「あの日」を前に、福島第一原発の被災者たちが、国や東電に損害賠償を求めて、「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」を結成しました。1月発足の「福島原発刑事訴訟支援団」と、21原告団1万人の民事訴訟が一つになり、21世紀の一大国家犯罪を刑事・民事双方で司法的に裁く、原告側の体制が整いました。これから長い長い、事実の全体的解明が始まります。国書刊行会から、『近代日本博覧会資料集成《紀元二千六百年日本万国博覧会》」全4巻+補巻が刊行されました。高価な本ですので、監修者の私の解説のみ、本サイトにアップしておきます。昨年現代史料出版から刊行した加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻についても、高価な資料集ですので、「解説」のみ本サイトにアップしました。昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載され、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載されて、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語ですが、同じく「ちきゅう座」に発表された渡部富哉さんの「ゾルゲ事件とヴケリッチの真実」上下とあわせて、ご笑覧ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3296:160216〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。