米軍属による女性暴行殺人事件に対する抗議・追悼県民大会 ー 闘いは新しい段階へ ー
- 2016年 6月 27日
- 時代をみる
- 宮里政充沖縄米軍
4月24日夜、元米海兵隊員で米軍属のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン・32歳)という男性が、うるま市でウォーキング中だった女性(20歳)を乱暴しようと考え、県道沿いの草むらに連れ込んで暴行し、首を絞め刃物で胴体を刺すなどして殺害した。遺体は5月19日、恩納村の雑木林で発見された。
6月19日、この女性暴行殺人事件に抗議し犠牲者を追悼する県民大会が開かれたのは周知のとおりである。ただ、この大会に自民党と公明党は参加しなかった。決議文の内容をめぐって主催者である「辺野古基地を造らせないオール沖縄会議」と自民・公明の主張が折り合わなかったようである。
島尻安伊子沖縄担当相は6月14日に、自民党沖縄県連としては参加しないことを明らかにしていた。
辺野古移設に賛成し、海兵隊撤去などまかりならぬと考えている彼女にとって「オール沖縄会議」が主張する「海兵隊撤去」「日米地位協定の抜本的改定」を呑めるはずがなかったのである。だが、仮に超党派の大会になったとしてもおそらく彼女は参加しなかったであろう。なぜなら、公明党が18日午後単独で「元海兵隊員による女性殺人・遺体遺棄事件に抗議し、哀悼の意を表する追悼集会」を那覇市のパレットくもじ前で開いた(主催者発表1500人参加)のに対し、沖縄自民党県連会長である彼女は自民党独自の抗議集会を開く気などさらさらないらしいからだ。
坂本龍一氏、赤川次郎氏、津田大介氏、春香クリスティーンさんなど多くの本土著名人が沖縄タイムスや琉球新報に哀悼の言葉を寄せ、大石芳野氏や高橋哲哉東大大学院教授などが会場の奥武山(おおのやま)陸上競技場へ馳せ参じた。また国会前では「怒りと悲しみの沖縄県民大会に呼応するいのちと平和のための6・19大行動」(約一万人・主催者発表)が開かれ、札幌、京都、横田、名古屋、岐阜などの各地でも同様の集会が開かれた。
琉球新報(6月20日)はこの大会について海外メディアがこぞって報道したことを紹介している。それによれば、米国テレビ局CBS、中国とロシアの国営テレビ、フランスの通信社、オランダの新聞社、ニューヨークタイムス、ワシントンポスト、米ABCテレビ、英BBC放送など少なくとも11社の海外メディアが取材に来ている。「英ロイター通信は那覇発で記事を配信。翁長雄志知事が辺野古移設阻止に向けて闘いを続けていくことを表明したと伝えた。『安倍晋三首相は沖縄の痛みを感じてほしい』と訴える70歳の県出身者男性の声も紹介した。」またアメリカでは主要メディアが「海兵隊は撤退を」と書かれたプラカードを掲げ、会場を埋め尽くす参加者の写真を掲載した。
大会の翌日(20日)、現地の沖縄タイムスは32ページ中12ページ、琉球新報は28ページ中12ページを大会関連記事で埋めた。
会場で共同代表によって読み上げられた、被害者の父親のメッセージを紹介する。。
「ご来場の皆さまへ。米軍人・軍属による事件、事故が多い中、私の娘も被害者の一人となりました。なぜ娘なのか、なぜ殺されなければならなかったのか。今まで被害に遭った遺族の思いも同じだと思います。被害者の無念は、計り知れない悲しみ、苦しみ、怒りとなっていくのです。それでも、遺族は、安らかに成仏してくれることだけを願っているのです。次の被害者を出さないためにも「全基地撤去」「辺野古新基地建設に反対」。県民が一つになれば、可能だと思っています。県民、名護市民として強く願っています。ご来場の皆さまには、心より感謝申し上げます。平成28年6月19日 娘の父より」
大会決議文は次のとおりである。
<元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾! 被害者を追悼し、沖縄からの撤退を求める県民大会>大会決議(全文)
元海兵隊員の凶悪な犯罪により、20歳の未来ある女性の命が奪われた。これは米軍基地あるが故の事件であり、断じて許されるものではない。
繰り返される米軍人・軍属による事件や事故に対し、県民の怒りと悲しみは限界を超えた。
私たちは遺族とともに、被害者を追悼し、二度と繰り返させないために、この県民大会に結集した。
日米両政府は、事件・事故が起きるたびに、「綱紀粛正」、「再発防止」を徹底すると釈明してきたが、実行されたためしはない。このような犯罪などを防止するには、もはや「基地をなくすべきだ」との県民の怒りの声はおさまらない・
戦後71年にわたって米軍が存在している結果、復帰後だけでも、米軍の犯罪事件が5910件発生し、そのうち凶悪事件は575件にのぼる異常事態である。
県民の人権といのちを守るためには、米軍基地の大幅な整理、縮小、なかでも海兵隊の撤退は急務である。
私たちは、今県民大会において、以下決議し、日米両政府に対し、強く要求する。
記
1 日米両政府は、遺族及び県民に対して改めて謝罪し完全な補償を行うこと。
2 在沖米海兵隊の撤退及び米軍基地の大幅な整理・縮小、県内移設によらない普天間飛行場の閉鎖・撤去を行うこと。
3 日米地位協定の抜本的改定を行うこと。
宛先
内閣総理大臣
外務大臣
防衛大臣
沖縄及び北方対策担当大臣
米国大統領
駐日米国大使
2016年6月19日
元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾! 被害者を追悼し、海兵隊の撤退を求める県民大会
佐藤優氏は6月20日の琉球新報に次の文章を寄せている。少々長くなるがご勘弁願いたい。
「今回の県民大会における意思表示を日本の中央政府が無視するであろうことにも大会参加者の多くが気付いている。東京の政治エリート(国会議員、官僚)だけでなく、全国紙の関心も低い。その理由は今回の米軍属による女性暴行殺人事件を引き起こした構造について掘り下げて考えると、自分たちが差別者として被告人席に座らされることになると東京の政治エリートとマスメディア関係者は怯えているからだと思う。翁長雄志知事は、普天間基地の閉鎖、辺野古新基地建設阻止、日米地位協定の抜本改定に加え沖縄からの海兵隊撤退を訴えた。首相官邸は、『海兵撤退などという非現実的要求をする翁長知事とは交渉不能だ』という認識を抱き、翁長県政を打倒するための画策をいろいろ行うと思う。すべての沖縄人が団結しなければ、中央政府に付け込まれる」
さて、今後また同じような事件が起こった場合、県民や追悼と抗議の集会をリードする勢力はどう反応するであろうか。加害者が米軍・米軍属で被害者が沖縄人である限り、基地問題という政治色を払拭することは難しい。今回と同じく、決議文が「米軍基地の整理縮小」「綱紀粛正」「再発防止」などの要求の範囲に留まることはあり得ない。かといって今回のように米軍基地に対する明確な意思表示をすれば、超党派は実現しない。そうなれば中央政府は大会を過小評価する。佐藤氏が危惧するように「中央政府に付け込まれる」恐れは十分にある。それではどうするか。
少なくとも、今回の大会で基地問題に関わる運動は新しい段階を迎えたという感じがする。闘いの争点が明確になってきたのだ。そうなれば沖縄県民も米軍基地反対で連帯しようとする本土の個人・団体も立ち位置を明確にしなければならない。
理想は今回の決議文の内容を維持しつつ超党派の実現させることであるが、これは至難なことだ。しかし沖縄ではその至難を日常的に生きなければならない。
今回の大会は世界も本土も注目した。沖縄からの発信はようやく届きつつあるように思える。
期待したい。心から期待したい。 (2016.6.22記す)
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