「国威発揚」と「共謀罪」でも内閣支持率62%の憂鬱
- 2016年 9月 4日
- 時代をみる
- 加藤哲郎政治
参院選での改憲可能議席獲得、高い内閣支持率回復、野党のふがいなさを背景に、いよいよ登場しそうなのが「共謀罪」。「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変えて、これまで3度も廃案になっていたのに、「組織的犯罪集団」を600以上指定して、実行行為ではなく「複数の人が犯罪を行うことを話し合って合意(共謀)しただけで罪に問えるようにする」というのです。「国威発揚」は容易に「国体護持」に連なり、戦前の治安維持法の亡霊になります。特定秘密保護法の運用実態や大分別府署の労働組合監視カメラ設置、防衛省概算要求の軍事研究助成予算18倍110億円を見ると、亡霊どころか、現実かもしれません。ウェブ上で誰かの意見に賛意を示したり、「イイネ!」をクリックしただけで、「共謀」にされかねませんから。すでに参院選では、「自民党ネット対策チーム」が「成果」をあげたといいます。「日本会議」や「J-NSC(自民党ネットサポートクラブ)」ばかりでなく、日本マイクロソフトなどITベンダー6社が加わっているとか。台風一過の残暑の後には、「物言えば唇寒し秋の風」が近づいています。
7月16日に明治大学で行われた伊藤淳さんの『父・伊藤律 -ある家族の「戦後」-』(講談社)出版記念シンポジウムでの私の報告「ゾルゲ事件と伊藤律ーー歴史としての占領期共産党」のレジメ・資料が、論文ではなく「覚え書」のかたちで、活字になりました。国書刊行会から、『近代日本博覧会資料集成《紀元二千六百年日本万国博覧会》」全4巻+補巻が刊行されました。高価な本ですので、監修者の私の解説のみ、本サイトにアップしておきます。昨年現代史料出版から刊行した加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻についても、高価な資料集ですので、「解説」のみ本サイトにアップしました。概要は、「機密解除文書が明かす戦後日本の真の姿:GHQ文書」(『週刊 新発見 日本の歴史』44号、2014年5月18日)に書き解説しています。幸い好評で、国内外の大学図書館等に入れていただき、さらに要望があるとのことで、この3月に刊行された続編『CIA日本問題ファイル』全2巻の概要も、ビラと「解説」で紹介しておきます。 この間、情報収集センター(歴史探偵)の「731部隊二木秀雄の免責と復権」(2015夏版)の延長上で、2015年10月15日に神田・如水会館・新三木会で「戦争の記憶」、10月18日に日本ユーラシア協会で「ゾルゲ事件と731部隊」の公開講演を行いました。このうち「戦争の記憶」の話のテープ起こし原稿をもとに、講演内容を吟味し、画像付きで臨場感ある講演記録「戦争の記憶」になりましたので、公開しておきます。『図書新聞』2015年6月20日号に松田武『対米依存の起源–アメリカのソフト・パワー戦略』(岩波現代全書)の書評、『週刊読書人』10月9日号にロベルト・ユンク『原子力帝国』再刊本(日本経済評論社)の書評を書きましたのでアップ。平凡社の隔月刊雑誌『こころ』30号(2016/4)には、「『五族協和』の内実を追う」と題して、話題の三浦英之『五色の虹ーー満州建国大学卒業生たちの戦後』(集英社)へのやや長めの書評を寄せています。
ゾルゲ事件関係のファイルが増えてきたので、「情報学研究室」カリキュラムに、情報学研究<専門課程2ーー世界史のなかのゾルゲ事件> をつくりました。それをも下敷きにした新著が、 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)です。正誤表を作りましたので、ご参照ください。チャルマーズ・ジョンソンの新訳『ゾルゲ事件とは何か』(岩波現代文庫)に寄せた「解説」、上海国際シンポジウム報告「国際情報戦としてのゾルゲ事件」(『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』38号、2013年12月刊)なども活字になっています。昨年12月オーストラリアでの第9回ゾルゲ事件国際シンポジウムの参加記が、日露歴史研究センター『ゾルゲ事件関係外国語文献翻訳集』第45号に掲載され、ウェブ上では「ちきゅう座」サイトに転載されて、すでに公開されています。ブランコ・ヴケリッチというゾルゲ事件被告と、その妻エディット、長男ポールの流浪の物語ですが、同じく「ちきゅう座」に発表された渡部富哉さんの「ゾルゲ事件とヴケリッチの真実」上下とあわせて、ご笑覧ください。講演記録で読みやすい「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」(法政大学『大原社会問題研究所雑誌』2014年8月号)も、私の「国際歴史探偵 」の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。 本HP歴史探偵データベースの老舗「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」で、新たに3名の犠牲者の消息がわかりました。もともと2013年に産経新聞モスクワ支局と共に解読したロシアのNPOメモリアルのリストから見いだされた、日本人5人のうちの3人で、「千葉県出身・富川敬三」「栃木県出身・恩田茂三郎」「鹿児島県出身・前島武夫」でした。昨年東京外語出身の「富川敬三」を官報から見つけてくれた新潟県の匿名希望Sさんのお手柄で、今度は外務省外交史料館の膨大な記録がウェブ上で読めるようになった「アジア歴史資料センター」を詳しく探求して、教えてくれました。3人の本籍地・家族の名前などが、わかりました。詳しくは「旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」の更新版を、ごらんください。
戦前日本の実力者後藤新平の孫、鶴見和子・俊輔の従兄にあたる演出家・佐野碩を多角的に論じた、菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』(藤原書店)が刊行されました。日本でのプロレタリア演劇運動の出発から、ソ連でのスタニスラフスキーとメイエルホリドからの吸収、亡命先メキシコで「メキシコ演劇の父」とよばれながらも、一度も日本に戻ることなく異郷で終えたコスモポリタンな生涯を、国際的・学際的に研究した決定版で、私も「佐野碩とコミンテルン」を寄稿しています。高価ですが、各紙で書評に取り上げられ、好評です。この間の原爆・原発研究を踏まえた岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』では、(1)労働力を摩滅・破壊する放射線被曝労働の不可避、(2)絶対安全はありえない巨大なリスクを持つ装置産業で、人間の完全制御はありえない、(3)10万年後も残される「未来への暴力」としての核廃棄物、をあげて「核と人類は共存できない」と主張しました。地震列島の日本国民全体が当事者であるのみならず、地球と文明そのものが危機にさらされている、という意味です。その観点から20世紀日本の平和運動・社会主義を見直し、「原子力は、日本の社会主義のアキレス腱だった」と結論づけました。私の脱原発宣言本で、いろいろご意見もあろうかと思いますが、ご笑覧ください。その延長上で、、「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」(波多野・東郷編『歴史問題ハンドブック』岩波現代全書、2015年6月)、「占領期における原爆・原子力言説と検閲」(木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像』(明石書店、2015年7月)を発表しています。日本ペンクラブでのシンポジウム「島崎藤村と日本ペンクラブ』の報告(『P.E.N.』2014年2月号)と、その後の日本近代文学館への資料寄贈報告「島崎藤村・蓊助資料の寄贈に寄せて」(『日本近代文学館報』第265号、2015年5月)が活字になっています。平凡社創業100年記念『こころ』19号特集「私の思い出の1冊」(2014年6月)に寄せた「「私の思い出の1冊・石堂清倫『20世紀の意味』」と共に、アップしておきました。2014年春の勝野金政(かつの・きんまさ)の生涯をロシアに伝えるために、人類学者の故山口昌男さんにならって「日本のソルジェニツィン」としてロシアの人々に紹介し、再評価するモスクワ・ソルジェニツィン・センターでの講演会は、現地でそれなりの関心を惹き、日本の共同通信やロシアの日本語放送「ロシアの声」、それに東京新聞がとりあげてくれました。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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