「金額白地の領収書は、領収書ではない」ー反省せよイナダ防衛大臣
- 2016年 9月 15日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
「白馬は馬にあらず」とは詭弁である。しかし、「金額白地の領収書は、領収書ではない」は法的に正しい。これを「金額欄空欄でも白地でも、領収書は領収書」との詭弁は成り立たない。
富山市議会議員政務活動費の不正受給問題で、本日(9月14日)新たに民進系の2人の議員が辞職願を提出した。これで、辞職議員は、自民3人民進系2人の5人となった。今のところ、定数40のうちの5人だが、報道では疑惑の議員はさらに多いという。さて、これは富山市だけの特殊事情だろうか。
顕れている問題は多岐にわたるが、私の関心は、もっぱら金額欄白紙の領収書に市議自らが金額を記入する収支報告の手口。あの防衛大臣イナダが同様の悪質な手口の常連だからだ。
「自民党会派の議員が、白紙の領収書に自分でうその金額を記入するなどして、政務活動費を不正に受け取っていた」「その手口の多くは白紙領収書を使うというものだ。たとえば自民党会派の市議の場合、ストックしておいた白紙の領収書に自ら金額を記入していた。5年間で95回の市政報告会を開き、その全てで白紙領収書を使用、不正受給の総額は約469万円にのぼる」「民政クラブ(民進系会派)と取引があった富山市内の印刷会社が14日、取引の詳細を語った。『頼まれて5、6年ほど前から白紙の領収書を渡していた』『会派控室に集金に行くと、たびたび、「白紙の領収書、もう何枚かもらえんかね」と求められた』『会派の事務処理に必要だとの説明を受けた』という。」「実際の印刷費は1回あたり5万円台だったが、同会派の13~15年の領収書では、金額欄に約90万円と記入して政活費を取得していた。」
領収書の偽造や変造の違法性は明らかだ。多くは詐欺の手段とされる。では、政治家が白紙の領収証の交付を受けて、受領者の政治家側で「うそではない金額」を記入するという行為の違法性はどうだろうか。違法だろうか、可罰性はあるだろうか。政治家側で金額欄の白地を補充した領収証を、政治資金収支報告書に添付していたとして、処罰が可能だろうか。私は、処罰可能であり、当然に立件すべきだと思う。
普通、そのような事態を想定しがたい。金額欄白地の領収証に、「うそではない金額」を補充するなどということが現実にあるのだろうか。いぶかしむのが通常人の感覚だろう。イナダの事務所では、これありと言っている。「宛名と金額欄白地の領収書に事務所側で補充した」「ウソではない『宛名』と『金額』を書き込んでいる」という趣旨。そのような領収書がゾロゾロとある。イナダの政治資金収支報告書に添付された受領後金額書き込みの領収書が、確認された限りで260枚。520万円にも及ぶ。
このイナダの白紙領収書問題、最初の報道が8月14日付の赤旗日曜版だった。日刊ゲンダイやリテラ、フラッシュ、フライデーなどが、充実した続報を書いている。もちろん日刊赤旗も続いている。
法的にはこうなるだろう。
政治資金規正法第11条(会計責任者等が支出をする場合の手続)は、「政治団体の会計責任者は…当該支出の目的、金額及び年月日を記載した領収書その他の支出を証すべき書面(以下「領収書等」という。)を徴さなければならない。」とする。
また、同法第12条(報告書の提出)1項は、政治団体の会計責任者に政治資金収支報告の義務を課し、その2号で、「すべての支出について、その支出を受けた者の氏名及び住所並びに当該支出の目的、金額及び年月日」の報告義務を明記したうえ、同条2項はその報告に照応する領収書の写を添付するよう義務づけている。
法の記載は、「5万円以上の支出」となっているが、国会議員関係政治団体については、収支報告書に明細を記載すべき支出の範囲が拡大されており、人件費以外の経費のうち一件当たり1万円を超えるものについて、収支報告書に記載するとともに、領収書等の写しを併せて提出しなければならない。また、領収書の徴収義務はすべての支出に係ることとされている。
念のためだが、総務省の有権解釈は次のとおり、明快である。
「法における『領収書等』とは、『当該支出の目的、金額及び年月日を記載した領収書その他の支出を証すべき書面』のことです。」
【よくあるご質問】領収書関係
Q1 法における「領収書等」は、当該支出の「目的」、「金額」、「年月日」を記載した領収書その他の支出を証すべき書面とのことですが、これらの記載すべき事項が記載されていない場合は、「領収書等」に該当しないのですか。
A1 法における「領収書等」は、当該支出の「目的」、「金額」、「年月日」の三事項が記載されていなければなりませんので、1つでも欠ければ、法の「領収書等」に該当しません。(「国会議員関係政治団体の収支報告の手引」)
明らかに、金額も宛名も完成した領収書の徴収が義務づけられている。あとで、正しい金額を補充したという言い訳は通用しないのだ。まさしく、富山の市議諸君が見本を示したとおり、詐欺などの実質犯を誘発する法益侵害の危険を防止するために、「白紙領収証は領収証ではない」のだ。違反には、「3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金」が定められている。白紙領収証の発行者も、身分のない共同正犯と言わねばならない。
もう一度、イナダ(事務所)が何をしたのか、確認しておこう。
「しんぶん赤旗日曜版」(8月14日号)の報道によると、稲田大臣が代表を務める資金管理団体「ともみ組」の収支報告書(2012~14年分)に添付された領収書のうち、政治資金パーティーに「会費」として支出した計260枚、約520万円分の領収書の「宛名」「金額」が同じ筆跡なのだ。稲田事務所の職員が、白紙の領収書に手書きで記していたのだという。
日刊ゲンダイも領収書を入手し精査したところ、同じ筆跡で記された領収書がぞろぞろ出てきた。12年10月11日付の領収書には、丸川珠代五輪相が主催する政治資金パーティーに、13年12月19日付の領収書には高市早苗総務相のパーティー、14年10月2日付の領収書には加藤勝信1億相のパーティーにそれぞれ「¥20000」支出したことが記されている。筆跡は素人目に見ても同じ。特に、宛名に記された「ともみ組」の「と」の字、金額欄に記された「¥」マークは、どれも同じ人物が書いたものとしか見えない。
稲田事務所は赤旗に「金額は稲田事務所の事務担当者が(白紙の領収書に)書き入れている」と、シレッと認めていたからフザケている。
日刊ゲンダイが過去に、資金管理団体「ともみ組」の1件1万円以下の支出に関わる「少額領収書」の問題を調べたら、缶ビールやアイス、カップラーメンなどを政治資金で購入していたことが分かった。こんなフザケたカネの使い方や白紙の領収書が、一般企業で認められるとはとても思えない。
富山の市議諸君とイナダ防衛大臣。ちょっと似てるが、バッシングの受け方が大きく違う。この点について、リテラが次のような指摘を紹介している。
「稲田さんの件なんて取り上げられるわけがないじゃないですか。今のテレビでは、稲田さんにかぎらず内閣の閣僚や自民党幹部の不正を取り上げようとしても、絶対に上に潰されますよ。各局とも、国会で大々的に追及されるか、本人が認めない限り報道しない、というのが不文律になっていますから。ただ、知事や地方議会になると、このハードルがかなり下がるので、思い切った厳しい追及ができる。というか、舛添前知事のときもそうでしたが、安倍政権のことをやれないぶん、そのうっぷんを地方政治家にぶつけている、という構造はあるでしょうね」
もちろんイナダ自身にも、会計責任者選任監督上の刑事責任があり得る。富山の市議諸君は反省の弁頻りだが、イナダはいまだに反省も謝罪をもしていない。犯状悪質というしかないではないか。刑事事件として立件して黒白をつけてもらいたい。
(2016年9月14日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.09.14より許可を得て転載
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