警視庁機動隊の辺野古、高江派遣費用の差し止め請求をしよう - 辺野古基地をめぐる沖縄県敗訴の高裁判決は司法の独立を否定するもの -
- 2016年 10月 8日
- 時代をみる
- 伊藤力司沖縄辺野古
「世界一危険な」普天間飛行場を返還する代わりに辺野古に新しい基地を作るという1996年の日米合意を「唯一の解決策」とする安倍、オバマ日米政権は、「ちゅら(美しい)海を、いくさの泥で汚させない」という、ウチナワンチュ(沖縄人)の粘り強い反対闘争に辟易しつつも、計画を断念しようとはしていない。
安倍政権と沖縄県の代執行訴訟の和解によって、辺野古沖大浦湾埋め立て工事は目下ストップしているが、代わって今年7月から沖縄島北部の「やんばる(山原)」の密林地帯の集落東村(ひがしそん)高江の近くに、危険なオスプレイ用のヘリパッド(ヘリコプター発着場)を6カ所造るための工事を強引に推し進めている。オスプレイは垂直離着陸と水平飛行のできる新型ヘリコプターだが、開発段階から墜落事故が多く、米国では”widow maker”(未亡人製造機)の異名がつけられたのは、先刻ご承知のとおりだ。。
高江の住民は07年からヘリパッド工事をストップさせるために、工事車両の通る道路に毎日座り込みを続けてきた。座り込みを道路交通法違反として住民を裁判にかける国のいやがらせもあったが、ヘリパッドはこれまでに1カ所造成されただけで、沖縄防衛局も辺野古に気を取られてか、高江で動きを止めていた。ところが辺野古の工事が中断した機会を生かすかのように当局は今年7月からやんばるに襲いかかった。
やんばるの住民を先頭に全沖縄の基地に反対する人々は7月以来連日、ヘリパッド予定地に通じる道路に座り込んで、工事車両の通行を阻止した。これを排除するために実力行使をしたのが警視庁機動隊など本土の大きい県から派遣された総勢500人に上る機動隊員である。屈強な若者で構成される機動隊員に比べて、座り込んだ老壮年男女主体の反対派の物理的強弱度は明らである。反対派は一人一人屈強な機動隊員に抱きかかえられて排除される。
ウチナワ語の通じる沖縄県警の機動隊員が、座り込んでいるおじい、おばあたちの剣幕に尻込みしたがるのに比べ、警視庁や他県から送り込まれた機動隊は情け容赦がない。取材中の現地紙の記者が記者証を示しているのに一時的に拘束する、という憲法で保障された「報道の自由」をないがしろにする態度さえ示している。
日本の警察制度は都道府県警察が単位になっており、警官の人件費は都道府県の予算から支払われるが、警視正以上の官位を持つ警官の給料は国費から支払われる。戦前の警察が内務省に直属、道府県警察は内務省が任命する知事が直轄する仕組みだった。戦後米占領軍の命令でアメリカ式の国家警察と自治体警察に分離されたのを1954年に、全国にまたがる問題に対処する警察庁と地方自治体のための都道府県警察に再編成された。
警視正以上の警視庁機動隊幹部が、日米政府間の約束であるヘリパッド建設問題に関与することは合法だが、東京都予算から給料をもらっている機動隊員が東京都の公務と関係のない沖縄に長期間出張して、現地の豪華リゾートホテルに滞在しているというのはおかしい。自身のブログでこの問題を指摘している藤沢統一郎弁護士は、都民がこのことを裁判に訴えるよう助言している。
同弁護士によれば、地方自治法242条に基づき、東京都民であれば誰でも機動隊の沖縄派遣費用が東京都公安委員会ないし警視総監による違法または不当な公金の支出にあたるとして、その公金支出を差し止め、あるいは既往の損害を東京都に賠償するよう請求できる。さらに監査請求は、事実の特定が不十分でもかまわないし、違法ではなくて不当の主張でもよいとのこと。
とりあえず監査請求をすることで、派遣機動隊の規模や支出が特定できることになる。「機動隊の宿泊先は、名護市内にある1部屋1泊5万円の高級リゾートホテル」との一部報道の真偽も確認できる。そして監査結果に満足できなければ、監査請求者が原告となって、東京地裁に住民訴訟の提起もできるとのこと。(以上「澤藤統一郎の憲法日記」http://article9jp/wordpress/より)
一方、安倍政権が辺野古に米海兵隊新基地建設を巡って沖縄県の翁長雄志知事を訴えた訴訟で、福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長はさる9月16日、国側の主張を全面的に認め、翁長知事が大浦湾埋め立ての承認取り消しに応じないのは違法だとの判決を言い渡した。この訴訟は仲井真弘多・前沖縄知事が認めた「埋め立て承認」を県が自ら否定し、取り消すことが認められるかどうかという法的手続き論が争点だった。
ところがこの多見谷判決は「(北朝鮮の中距離ミサイル)ノドンの射程内となるのは、わが国内では沖縄などごく一部」「海兵隊の航空基地を沖縄本島から移設すれば機動力、即応力が失われる」「県外に移転できないという国の判断は現在の世界・地域情勢から合理性があり、尊重すべきだ」などと一方的な軍事的判断を述べている。
また翁長知事が埋め立て承認を取り消したことについては「日米間の信頼関係を破壊するもの」と裁判長個人の政治的判断を述べ、沖縄県民多数が辺野古新基地に反対している「民意」については「反対する民意に沿わないとしても、基地負担軽減を求める民意に反するとは言えない」「普天間飛行場の危険を除去するには新基地を建設する以外にない」と政府の言い分をそのまま踏襲している。
法曹関係者の間では、この多見谷寿郎判事は「行政訴訟で体制寄りの判決を下す裁判官」として知られた人物だという。この多見谷判事が福岡高裁那覇支部の裁判長に任命された日取りが2015年10月30日。辺野古新基地建設のため大浦湾埋め立てを承認した仲井間前知事の措置を取り消した翁長知事を相手取って、石井国土交通相が代執行訴訟を提起した同年11月17日の18日前のことであった。
多見谷判事は2014年8月17日から2015年10月29日まで東京地家裁立川支部総括判事の任にあったが、この代執行訴訟が提起されるわずか18日まえに福岡高裁那覇支部の裁判長に任命されたわけである。裁判官の異動は通常3年おきだが、多見谷判事の東京地家裁での在任期間はわずか1年2カ月である。
さらに福岡高裁那覇支部長の前任者須田啓之判事は「薬害C型肝炎九州訴訟」で国と製薬会社の責任を指弾して賠償を命じるというリベラル判決を出した裁判官だが、わずか1年で那覇支部長を終えて宮崎地家裁所長に転出した。こうして見ると、これまで行政関連の裁判で常に体制寄りの判決を下した経歴のある多見谷判事が、辺野古裁判のために選ばれた政治的な人事だったと言われても不思議はない。
言うまでもなく日本国憲法は、国会(立法)、内閣(行政)、裁判所(司法)の三つの独立機関が相互に抑制し合い、バランスを保つことにより国民の権利と自由を保障する三権分立の原則をさだめている。ところが最近では行政権を行使する安倍内閣が、立法、司法の分野にも介入するケースが横行している。
31年間裁判官を勤めた瀬木比呂志・明治大学教授が著わした「絶望の裁判所」(講談社現代文庫)によれば、最高裁判所事務総局という部門が全国の裁判官の人事を統括している。その結果、下級審の裁判官は上級審や上司の顔色ばかり見る“ヒラメ裁判官”だらけになり、その風潮が行政による司法への介入を許しているという。憲法に保障された裁判官の独立は風前の灯である。
(高江のヘリパッド反対闘争は、この闘争に参加している芥川賞作家目取真俊氏のブログ「海鳴りの島から」http://blog.goo.ne.jp/に詳しい)
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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