全国党大会の外見は対照的なものの… ともに亀裂の上に立つポデモスと国民党
- 2017年 2月 15日
- 時代をみる
- 童子丸開
バルセロナの童子丸開です。
この2月12日に全国党大会の日程を終えた、スペインの政党ポデモスと国民党についてお知らせします。救いようもなく危機の様相を深めつつある世界の中で、スペインの政党の話など、ちっぽけなことなのでしょう。しかし私のごく身近な所で起こっているポデモスやスペイン国民党の変化やカタルーニャ独立運動を記録しお知らせし続けることは、たとえちっぽけでもきっと何かの意義があるのだろうと思って、情報を集めキーボードをたたいています。
(この記事は次のサイトでもご覧いただけます。)
http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-3/vistalegre-2_de_podemos.html
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全国党大会の外見は対照的なものの…
ともに亀裂の上に立つポデモスと国民党
この2月12日に、スペイン国民党とポデモスの全国党大会が終了し、それぞれの党の新しい執行部と方針案が可決された。外見上は対照的に見える。ポデモスの会場が「党分裂」の危機感と激しい緊張感に包まれていた一方で、国民党の会場は笑顔と自信に満ちた表情にあふれていた。しかし国民党の抱える内実は表向きのものとは大きく異なるだろう。実際のところを言えば、両党とも、内部に大きく広がる傷に呻き苦しんでいるのだ。
世界もまた呻き苦しんでいる。イスラエル首相ネタニヤフの訪米の直前に起こったアメリカのマイケル・フリン大統領補佐官の辞任は、戦争勢力であるマスコミと民主党・共和党にまたがるネオコン勢力の大勝利だろう。フリン将軍には個人的な死の警告以上の脅迫があったのかもしれない。ジョージ・ソロスにカネを握らされてわけもわからずに騒ぎまくっている阿呆どももまた、世界を巨大な戦争の危機に引きずっていくのだ。せっかくあの戦争ババアのクリントンが引っ込んだと思っていたら、軍産マスコミの大逆襲にトランプはあえなくダウンか。
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《ビスタレグレ2》
ポデモスは2014年1月に結成されたが、同年10月に記念すべき第1回の全国党大会が開催され、パブロ・イグレシアスを先頭とする党の組織が正式に決定された。全国党大会は正式にはAsamblea Ciudadana「市民総会」だが、会場となったマドリッド市のビスタレグレ闘牛場の名から、この大会は「ビスタレグレ1」と呼ばれる。本来なら3年ごとの開催で党首の書記局長と政治方針、組織運営などを決定するのだが、昨年来続く内部対立の深化という状況を受けて、「ビスタレグレ2」はこの2月10日~12日に行われることになった。
しかし1月になっても、当サイト『ポデモスは分裂の危機?カタルーニャは?』で書いた党内の亀裂は拡大し続け、ついに2月2日、イグレシアスと共に党の創立者となった分析・計画委員長のカロリナ・ベスカンサが、妥協点を見出そうとしないイグレシアスとエレホンに抗議して、党の役員を辞任するまでに至った。「抗議して」という以上に、両者間の調停を続けて疲れ果ててしまったのだろう。1月半ばに全国党大会の日程が1日短い2月11日と12日に変更されたのだが、これは、喧騒と大混乱をもたらすだけの会場での論争を省略したということである。昨年10月に行われた社会労働党の全国委員会のような醜態をさらすわけにはいかないのだ(参照:当サイト『社会労働党「クーデター」とラホイ政権の継続』)。
第2回全国党大会の手順は次のとおりである。1月半ばまでに、総書記への立候補と、パブロ・イグレシアス、イニゴ・エレホン、ミゲル・ウルバンのそれぞれによる市民代表委員候補者リストと党活動方針案を公表する。それらに対する全国の投票資格を持つ党員の投票が、2月11日に締め切られる。開票は締め切りと同時に開始され、翌12日の午後にその投票結果を公表して、党首(総書記Secretario General)、最高決定機関である全国市民委員会(Consejo Ciudadano Estatal)の62名の市民代表委員(consejeros ciudadanos)、そしてそれぞれの党の活動方針を決定する。11日に各グループ代表者による活動方針案紹介のための演説を行うが、質疑応答による論戦は行わない。これなら分裂の危機を決定的にするような事態は起きないだろう。
総書記選挙に立候補したのは、パブロ・イグレシアスの他に下院議員でポデモス・アンダルシアのフアン・モレノ・ヤグエだけだが、この人物は実質的な「対抗馬」ではない。単に選挙の形を整えるためだけで、以前にも書いたようにエレホン派もウルバン派も総書記にはイグレシアスを望んでいるのだ。全国市民委員会の決定は面倒である。それぞれのグループで市民代表委員の候補者リストを作成して提出し、投票者はそのリストに挙がった全ての人物を見ながら、委員に選びたい順に80点、79点、78点…と点を付けていく。そして総合得点の高い順から62名の代表委員を決めていくのである。一種の人気投票と考えればよい。そうして、この得点と順位を元にして、報道官、政策委員長、経済委員長、分析・計画委員長などの役割を、総書記と全国市民委員会の協議で決めていく。また活動方針案は、政治方針、党組織、倫理、平等化の4項目に分けて、それぞれのグループから方針案が提示され、各項目で投票者が賛成するものを一つ選ぶ形である。
この「ビスタレグレ2」では、スペイン全土にいる約46万人の投票有資格者として登録された人々のうちで16万人弱が投票した。そのうちの1万人ほどが2月11日に会場のビスタレグレ闘牛場に集まり、直接に投票したのである。11日にはイグレシアス、エレホン、ウルバンの3人と、それぞれの支持者による演説が行われたのだが、妥協点を見出すことのできないそれぞれの派の主張に対して、会場は終始「団結!団結!(Unidad! Unidad!)」を叫ぶ人々の激しい声に包まれた。一般党員と支持者たちが惨めに分裂し崩れ果てていくポデモスの姿など見たくもないのは当然である。開票は、各派からの代表者10名の管理の下で11日夕刻から開始された。
《イグレシアスの勝利だが…》
翌12日昼過ぎから開票結果の発表が開始された。まず、政治方針、党組織、倫理、平等化の4項目に分かれる活動方針では、全ての項目でイグレシアスの提案が53~61%、エレホンの提案が33~35%、ウルバンの提案が8~11%と、予想をはるかに超えてイグレシアス派の圧勝の形となった。昨年12月の時点では、イグレシアスとエレホンの支持率にほとんど差がなかったのである。書記局長は予定通りイグレシアスが89%の得票で再選された。
最も重要なのが全国市民委員会の市民代表委員に選ばれるメンバーの数と席順である。62名の総得点数を下位から順番に読み上げ、一人ずつが壇上に登っていくため随分と時間を費やしたが、夕刻までにはすべてのメンバーの発表が無事に終わった。まず、得点の総計から言えば、イグレシアス提出のリストの候補者が50.8%、エレホン提出のリストの候補者が33.7%、ウルバン提出のリストの候補者が13.1%、その他のリストが2.4%である。しかし選出された62名の市民代表委員の総得点を見ると、それぞれ、59.7%、37.1%、3.4%であり、これもイグレシアス派の圧勝といってよい。
62名の市民代表委員の内訳は、イグレシアス派が37名、エレホン派が23名、ウルバン派が2名であり、イグレシアス派が絶対過半数を制した。総得点の第1位はパブロ・イグレシアスなのだが、彼は総書記であり、このメンバーには加わらない。総得点の2位はアラゴン州書記長のパブロ・エチェニケ、そして第3位がイニゴ・エレホンである。組織内で重要な立場に立つ上から10人の中を見ると、イグレシアス派が8人、エレホン派が2人となっている。つまりイグレシアス派が党の執行部をほぼ掌握したことになる。
No.2の立場である報道官は、今まではエレホンが政策委員長兼任で行っていたのだが、これで彼が外れることは避けられないだろう。しかしイグレシアス自身はエレホンを留任させたがっている。おそらくエレホン派の離脱という最悪の事態を避けるためだろう。しかし、全国市民委員会の過半数を占めるイグレシアス派のメンバーがそれを了承する可能性は少ない。イグレシアスは2月18日に全国市民委員会を招集してこの人事について協議すると発表したが、それ次第で再び分裂の危機が訪れかねまい。
ただ、昨年12月段階でほとんど拮抗していた両者の対立が、こうして全国党大会の中でイグレシアス派の圧勝に終わったことは、分裂という悪夢を避けたいと願う一般党員と支持者の熱意によるものだろう。このビスタレグレ2の結果を見て、社会労働党や国民党はさっそく「レーニン主義」やら「ポピュリズム」やらという馬鹿げた難癖付けを開始した。また、あること無いことをネタに「スキャンダル」をでっち上げるマスコミの攻撃も続くだろう。気にすることはない。「街頭へ!」「大衆の下へ!」というイグレシアスの運動が、将来的に次の新しい政治の方向性を形作ることを祈るだけである。
《国民党の全国党大会》
スペイン国民党の第18回全国党大会(Congreso Nacional)は、2月10日~12日の3日間の日程で、マドリッドの室内競技場ラ・カハ・マヒカで開催された。全国から来た約3000人の代議員が会場を埋めたが、その中に元首相ホセ・マリア・アスナールと元マドリッド州知事エスペランサ・アギレの姿はなかった。当サイト記事『《国民党もまた実質解体・再編されつつある》』および『《バルベラーの死、アスナール離脱の動き: 中身をすり替えられた国民党》』に書いたとおり、80年代から党の屋台骨を支え続けたアスナールは、もはや国民党に未練はないのだろうか。彼の「新党結成」の話はまだ出ていないようだが、現党首で首相のマリアノ・ラホイは旧来のファランヘ党(フランコ独裁与党)の流れにおおよそとどめを刺したようである。どの国でも同じだろうが、veletas(風見鶏)やchaqueteros(日和見主義者)が多数派なのだ。
この全国党大会で唯一の緊迫した場面は党No.2の総書記マリア・ドローレス・コスペダルの信任投票だった。この勝気で気ままな女性には敵も多い。2015年の統一地方選挙まではカスティーリャ・ラ・マンチャ州知事を務めていたのだが、その足元から現れた不信任案は、11日にこの大会唯一の秘密投票にかけられた。党執行部の発表によると303対338(棄権5)の僅差で否決され、コスペダルの留任が決まったのである。しかし反コスペダル派からは「不正選挙だ」という声が上がり執行部のロヘリオ・パルドが抗議の辞任をするという事態になった。これは、ラホイ執行部を頂く国民党の内部が、一皮めくれば一枚板とは程遠いことを物語っており、ラホイは慌てて総書記の権限の一部、総合調整の役を彼女から取り上げ、No.3にあたる選挙・組織責任者のフェルナンド・マルティネス‐マイジョに渡したのである。
しかしそれ以外はシャンシャンのお祭り大会の様相だった。大半の演説にはヤジも無く大拍手がわき上がり、ラホイ執行部の出した方針案、人事案とも、総書記を除いてはだが、95%の支持でほとんど何の問題も無く可決され、「党内の一致団結」というイメージを盛り上げた。主力の党員たちは同じ日程で行われているポデモスの全国党大会と比較して、国民党の力量と安定感を誇示した。しかし古くから国民党を眺めてきた人々にとって党役員のリストは愕然とさせられるものだろう。
アスナール時代以来のベテラン政治家で23人の執行部に入っているのは、マリアノ・ラホイ以外では、自治体・地方分野の副書記であるハビエル・アレナス独りだ。ラホイとコスペダル以外の政府閣僚は、エネルギー・観光・デジタル計画相のアルバロ・マリア・ナダルと農業水産食料相イサベル・ガルシア、保健・社会事業・平等化相ドロールス・モンセラットだけであり、全て政治経験の浅い者たちばかりだ。副首相、報道官、外務、経済、法務、財務、教育、国有財産、雇用・社会保障といった重要職は党幹部にいない(経済相のギンドスは党員ですらないが)。また各州で地方政治に努めてきた古参の大物たちも党中央幹部から外されている。こうしてみると、マリアノ・ラホイただ独りが「お山の大将」状態になっていることが分かる。
《一枚めくればこちらもまた…》
この状態は別にラホイの政治力で作られたわけではない。当サイトで延々と書いてきたように、検察庁、裁判所、国家警察、グアルディア・シビル(国家警備隊)といった司法・警察当局が、政治腐敗の容疑で次々とアスナール時代の大物たちの政治生命を絶ってきたためである。かろうじて生き残っているのはラホイ、アスナール、コスペダル、アレナス以外には、現在は党のマドリッド市議員団代表を務める元教育大臣・マドリッド州知事のエスペランサ・アギレ、現在は党のアラゴン州委員長を務める元下院議長ルイサ・フェルナンダ・ルディくらいのものだろう。
そして現在、ギュルテル事件(参照:当サイト記事『《引き続く「ギュルテル」の闇》』)の核心に迫りつつある司法当局が、中断していた国民党の二重帳簿事件(参照:当サイト記事『《国民党は崩壊に向かう?》』)の捜査を再開しそうである。この捜査が十分に進む場合、マリアノ・ラホイとマリア・ドローレス・コスペダルの身もまた、ラホイ唯一の政敵アスナールとともに、無事では済むまい。さらにマドリッド州の政治腐敗(参照:当サイト記事『《腐りながら肥え太ったバブル経済の正体》』)の捜査の進展次第でアギレの手が後ろに回りそうだ。
分裂する基盤の上にかろうじて立つポデモスを揶揄する国民党だが、一枚めくればこちらもまた裂け目の入った氷の上に座る危なっかしい姿が露わになる。もう一つの政治勢力である社会労働党については、他の機会に譲るとするが、ここで一つだけ新しいニュースを。
2012年のバンキア銀行破産事件(参照:当サイト記事『バンキア銀行の成立と倒産』)の捜査を進めている全国管区裁判所は、この2月13日に、バンキアの大規模な負債とでたらめな経理を知りながら株式上場を許した職務不履行の容疑で、当時のスペイン中央銀行総裁ミゲル・アンヘル・フェルナンデス・オルドニェス、他2名を起訴した。やっとここまで来たか、という感じだが、遅きに失したようだ。失われた何兆円にも上るカネが戻ってくることはなく、肩代わりとなった公的資金はIMFや欧州中銀からの借金となって、緊縮財政による国民生活の破壊のために使われている。
起訴されたオルドニェスは、サパテロ社会労働党政権の財務相でもあり、最後までバブル経済の存在すら認めなかったサパテロ自身、バルブ経済の進展と破綻に巨大な責任を負わねばならない。(参照:当サイト記事『スペインに訪れた2段階の死』、『エスパニスタン:住宅バブル』)
ついでにいえば、ポデモスの幹部たちはこのバブル経済の正体を知っているはずである。それをどうしてもっと強力に訴えていかないのか、筆者としてはパブロ・イグレシアスの姿勢にも疑問を感じる。ひょっとして連立政権を組まねばならない社会労働党に遠慮しているのだろうか。確かに難民問題や社会的差別の問題も重要かもしれないが、スペインに住む人々にとっての最大の問題が、貧しい者たちから何もかも奪い取っていくネオリベラル経済とグローバリゼーション政策による経済的搾取であることを、本当に深刻に受け止めてもらいたいものだ。戦争も、難民問題も、差別の問題も、ここと深く結びついているのである。
2017年2月14日 バルセロナにて 童子丸開
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3900:170215〕
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