歴史の「負の遺産」も真摯に継承しないと、亡霊がよみがえる!
- 2017年 3月 2日
- 時代をみる
- トランプ加藤哲郎北朝鮮安倍森友学園
◆2017.3.1 春休みの2月は、ここ数年はアメリカでしたが、今年は古巣のドイツに滞在し、トランプがアメリカ大統領になった世界を、日本の外から見てきました。といっても、45年前のベルリン留学時はもとより、89年の「ベルリンの壁」崩壊直後とも大きく異なり、「壁」をはじめ冷戦時代の遺物は、いまや博物館になって観光地、東西分裂時代を知らない若い人々、中東欧諸国からの移民、中東諸国からの難民も入り交じって、アメリカ並みの異文化「サラダボール」です。ちょうどベルリン国際映画祭が重なって、「冷蔵庫の中のような寒さ」でしたが、ノスタルジックな旅では、しばしば「中国人か」と間違えられました。世界の大都市や観光地で目立つアジア系は、日本ばかりでなく、どこでも中国人というのが、相場になっています。ただし、昨年のイギリスEU離脱(Brexit)、アメリカのトランプ大統領誕生は、ヨーロッパを揺さぶっています。3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選挙の結果次第では、EUの要石ドイツのメルケル政権にも、9月の総選挙の試練が待っています。
◆もっともオランダ、フランスのような極右の台頭ほどには、ドイツの排外主義が強いわけではありません。いわゆるネオナチに対する反発は強く、保守対社民の政権争いに加わるほどではありません。ヒトラー『わが闘争』が注釈付だが読めるようになり、米国トランプの「NATOは時代遅れ」発言に対してドイツでも独自核武装論が現れたと言いますが、ナチ支配を断罪する「テロのトポロジー」、 ホロコーストの記憶は、しっかり受け継がれています。 ドイツの場合はもう一つ、「壁」の時代の旧東独シュタージ(国家保安省)による『1984年』風監視国家の近過去の記憶が、多様性と自由と寛容を重んじる歴史意識を、根付かせています。ナチスと共産主義、ゲシュタポ(秘密国家警察)とシュタージという、自国の「二つの全体主義体験」が、さまざまな博物館・記念館・メモリアルを通じて、こどもたち・孫たちに、伝えられていきます。こどもたちへの教材作り、体験学習も盛んで、戦後70年の世代に、継承されています。 日本には、ヒロシマ・ナガサキの原爆はともかく、戦前治安維持法や特高警察の恐怖、3/11フクシマ原発事故の悲惨など、負の遺産をこどもたちに伝える場(トポス)・記念館(メモリアル)が、ほとんどないのではないでしょうか?
◆そんなことを考えて日本に帰国すると、この国では、とんでもない教育をすすめる幼稚園・小学校の存在が、政治ニュースになっていました。もともとヨーロッパのテレビでは、アジアはほとんど出てきません。トランプと中国は話題になりますが、マレーシアの金正男暗殺事件のニュースも小さなものでした。もっともいまは、インターネットがありますから、テレビや新聞はなくても、ニュースそのものは 簡単に知ることができます。金正男暗殺事件は、北朝鮮の秘密警察・国家保衛省が関わった可能性大ですが、シュタージや戦前特高警察と重ね合わせる分析はないようです。 それどころか、治安維持法の亡霊というべき共謀罪が、東京オリンピック向け「テロ対策法」という名目で、国会に出てきそうです。一昨年の安保法制に続く、重大な局面です。そういえば、2015年9月の戦争法案反対の声が国会前で盛り上がっていた最終局面で、安倍首相が国会をサボり、大阪のテレビ番組に出演する奇妙な一日がありました。 2015年9月4日、大阪読売テレビでワイドショー「ミヤネ屋」に出演、緊迫する参院平和安全法制特別委員会の鴻池祥肇委員長(自民党)も、理事懇談会で「一国の首相としてどういったものか」と不快感を示しました。
◆今回、大阪府豊中市の森友学園の国有地払下げ疑惑、幼児の思想教育問題で明らかになったのは、安倍首相「ミヤネ屋」テレビ出演の前日、2015年9月3日、安倍首相が財務省の岡本薫明官房長、迫田英典理財局長と面会(産経ニュース)、安倍首相が大阪に向かった当日4日に「瑞穂の国記念小学院」校舎の補助金6200万円交付決定(国土交通省HP) 、同日に森友学園の小学校建設工事を請け負った設計会社所長、建設会社所長が近畿財務局の統括管理官、大阪航空局調査係と会合(しんぶん赤旗) 、そして翌9月5日、塚本幼稚園で安倍首相夫人安倍昭恵が講演し名誉校長に就任(NAVER まとめ)。直接のキーパースンは、当時の財務省理財局長で安倍首相の同郷、現在国税庁長官の迫田英展です。確定申告の時期ですから、アメリカならtaxpayer の反乱がおこるところ。そこを追究すると、官邸・大阪府のほか、官庁では財務省、国土交通省、文部科学省、政党では自民党のほかに公明党、大阪維新の会、それに、かの日本会議が、見えてきます。国会前の「15年安保闘争」最高潮の裏側で進んでいた、憲法改正、教育勅語・軍人勅諭・治安維持法・特高警察時代再興の、おどろおどろしい動き。野党、ジャーナリストと社会科学・歴史学の出番です。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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