『アジア記者クラブ通信』294号 ~特集:メディア不信の根源に迫る~
- 2017年 5月 17日
- 評論・紹介・意見
- 森広泰平
■定例会リポート(2017年2月23日)
国立元市長への個人賠償確定を考える
景観保護が営業妨害なのか
上原公子(元国立市長)
米軍普天間飛行場の辺野古移転計画に伴い、名護市辺野古に新設される飛行場建設をめ
ぐり、県民とともに反対している翁長雄志沖縄県知事に対して国が損害賠償訴訟を検討
していると報じられ、提訴すれば恫喝的「SLAP訴訟」になるのではないかと批判の
声も上がっている。東京・築地市場の豊洲移転問題では、かねて住民が都に求めていた
石原慎太郎元都知事への580億円の損害弁済請求訴訟が、都側の対応転換によって成り
行きが注目されている。自治体首長の行政行為や政治行動は損害賠償になじむものなの
か。昨年12月、東京都国立市での高層マンション建設規制と同業者側の反発に始まった
訴訟の第二段で、同市に対して3100万円の賠償を支払う判決が最高裁で確定した元市長
の上原公子さんに、この裁判と判決が地方自治に及ぼす「意味」を語っていただいた。
(編集部)
■ベネズエラ
ベネズエラの騒乱拡大へ
クーデター策す黒幕とは
米国務省と国際金融資本
ミシオン・ヴェルダー(真実のミッション)
欧米主流メディアによれば、ベネズエラ全土に騒乱状態が拡大し、同国の人道危機は
深刻化しているという。マドゥーロ政権による独裁政治によって社会は分断され、経済
政策の失敗によって国民経済は破綻に瀕していると邦字メディアも転電を繰り返してき
た。本稿は、米国の“裏庭”で米国の意に逆らって、チャベス政権によって自国の独立
と尊厳を取り戻したベネズエラに襲いかかる米国のクーデター計画の全貌と騒乱の真相
を明らかにする。米国の石油資本と金融資本が外交問題評議会(CFR)に資金提供し
、黒幕としてCFRを後ろ盾にしながら米南方軍に作られた混沌を演出させ、国務省が
米州機構(OAS)を使って情報操作とクーデターを実行している実態を筆者は告発す
る。このベネズエラ情勢を歪めて報道しているのは、紛れもなくトランプ政権からフェ
イク・ニュース呼ばわりされている欧米主流メディアなのである。(編集部)
■ベネズエラ
ベネズエラのOAS脱退
メディアが伝えない真実
記者の読者への背信続く
テレスール
サンパウロに駐在する中南米担当記者が、ロイター通信やAP電を引用して、ベネズ
エラ情勢を「マドゥーロ政権の独裁化が加速する」と何の問題意識もなく記述する。あ
るいは、ニューヨーク駐在の記者が米国メディアから米政府の意を代弁するかのごとく
転電する。ベネズエラ政府が先月行った米州機構(OAS)からの脱退表明を伝える邦
字報道の典型的パターンがこれだ。野党が支配する議会での最高裁との攻防、街頭で広
がる破壊工作が民衆に支持されていない実情、野党が軍にクーデターを呼びかけ、そこ
に野党を擁護するようにOASが介入していることや、OAS内で右派諸国がクーデタ
ーを起こしてベネズエラ非難決議を弄したことをメディアは報道しない。米国に本部を
置くOASは、選挙で民主的に選出されたチリのアジェンデ社会主義政権に対する国境
封鎖を実施して同国の物流を麻痺させる“破壊工作”に加担した過去をもつ。本稿は、
本通信でホイットニー・ウェブが指摘触しているように、報道機関自らが「視聴率や需
要がかつてなく低迷している」理由を作り出していることに無頓着で、読者への背信を
記者が続けている深刻さを認識させる。(編集部)
■シリア
存在しなかったサリン弾
WHRの情報操作を暴露
シリア戦争煽るメディア
テオドール・ポストル(マサチューセッツ工科大学名誉教授)
シリア北西部イドリブ県のハーン・シェイフンで4月4日、シリア政府軍によってサリ
ン弾が使用されたとセンセーショナルに報道されたことは記憶に新しい。この何の証拠
もない段階で英仏独日政府は、アサド政権が化学兵器を使用したと決めつけ、米軍のシ
リア空爆を支持した。この間、マスメディアは一貫して各国政府の広報の役割を果たし
てきた。本稿は事件当日、地上と上空から撮影された静止画と動画、風向きや太陽光、
温度などの気象データ、サリンなどの残留化学物質の影響を時系列で綿密に検証し、ホ
ワイトハウスのインテリジェンスレポート(WHR)の記述が証拠と全く矛盾する虚偽
の主張であることを証明した報告書となっている。MITで化学兵器や生物兵器を含む
大量破壊兵器に関する講座を担当してきた筆者は、証拠とされる映像の多くが商業用映
像を多用した継ぎ接ぎであることを指摘した上で、サリン弾が投下されたとされるクレ
ーターを撮影した多くのジャーナリストが隣接した地域で発生したであろう犠牲者の取
材は全く行っていない謎を問い、主流メディアが政府の主張と相反する事実を伝えなく
なっている現状を、民主的統治のメカニズムがいかに機能不全となってしまったかを示
す最大の指標だと警鐘を鳴らす。(編集部)
■メディア
大量虐殺を隠蔽する
アルジャジーラ、CNN、BBC
シリア戦争とメディア
ホイットニー・ウェブ(ジャーナリスト)
6年目を迎えたシリア戦争ほど、企業内あるいは個人を問わず、ジャーナリストによ
って歪めらて伝えられてきた戦争報道はかってなかったはずだ。本稿は、邦字メディア
が転電の情報源にしてきた欧米主流メディアが、いかに露骨に事実を捻じ曲げ、怪しげ
な2つの情報源だけに依存しているのか、絶えず反政府勢力が犯した虐殺行為などの罪
を粉飾してきたのかを告発する。筆者は、シリア戦争について、報道機関が決定的に重
要な事実を切り捨て、偏った報道が常態化している現状に触れ、主流メディアの視聴率
や需要がかつてなく低迷していることは少しも不思議なことではないと結論づけている。(編集部)
■北朝鮮&シリア
“北朝鮮との対峙”は煙幕
米の真意はシリア再侵攻
ロシア次第で戦火拡大も
マイク・ホイットニー(エコノミスト、ジャーナリスト)
これまでの米朝対立の次元を越えて、北朝鮮への攻撃的姿勢と圧力が際立ったトラン
プ政権。その真意はどこにあったのか? 本稿は、米国の最終目標があくまでアサド政
権の打倒と石油資源の豊富なシリア東部の分離にあり、ワシントンが北朝鮮に対して怒
りを爆発させてきた全ては、国防費の追加と浪費、さらにはTHAADミサイル配備の
正当化を目論んだサーカスの見世物の一幕にすぎず、現在ヨルダン国境で進められてい
るシリア侵攻の兵力増強から目をそらせるための煙幕であると説く。筆者は、サリン弾
使用を口実とした米軍のシリア空軍基地空爆の意図がプーチン大統領が進める中東和平
交渉を頓挫させることにあると見抜き、シリア再侵攻が開始された場合のプーチン大統
領が取るべき選択肢を提示する。(編集部)
■北朝鮮
昨年の中朝関係を総点検
両国関係は悪化したのか
冷静なロシアの観察眼
コンスタンチン・アスモロフ(ロシア科学アカデミー極東研究所/朝鮮研究センター主
任研究員)
米国に同調して圧力を加えているとした朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)による
中国を名指しにした批判が大きなニュースになっている。中朝間の不協和音は、冷戦崩
壊後の1992年に中韓国交樹立が行われて以降、燻り続けてきた。それでも形式上の同盟
関係は解消されなかった。米韓合同軍事演習が毎年繰り返されるたびに、ミサイル発射
訓練と核実験で圧力に屈しない姿勢をDPRK指導部は示してきた。本稿は、これまで
になく朝鮮半島危機の緊張が高まった今春、中国が国連制裁決議に従って、石炭の輸入
などDPRK経済に打撃を与える制裁に踏み出した背景をロシア側の視点から探った総
括記事である。筆者は、この1年間の中朝関係を振り返りながら、中朝貿易の推移、対
北制裁の実態を数字を上げて、何がデマで何が真実かを整理する。その上で、今春も中
朝間の実務者協議が行われ、米韓の定期合同演習の停止に呼応してミサイル発射計画を
凍結するとの提案が、ここ数年ほどDPRK代表団から提起されていたことを明かして
いる。中国の外交方針、緊張緩和の糸口ははっきりしている。(編集部)
■北朝鮮
NPT条約無視する米国
北の核開発批判は偽善だ
濡れ手に粟の核兵器投資
カーラ・ステア(地政学アナリスト)
本稿は、核兵器禁止条約の制定に向けた初の交渉会議をボイコットした米英仏韓4カ
国の行動が明確に核拡散防止条約第6条に違反していることも含め、北朝鮮がせん滅さ
れる危険から自国を防衛するため核兵器を所持しようと取り組んでいるのを非難する米
英など西側諸国が演じている大きな偽善行為の数々を批判した国連からの報告である。
国連の制裁や核軍縮問題に精通した筆者は、非核兵器保有国への核兵器の移転を禁じた
核拡散防止条約第1条に明確に違反して、米国が北大西洋条約機構(NATO)5カ国に核兵
器を持ち込んでいる事実に西側諸国が沈黙を決め込み、条約違反が野放しになっている
ことを告発する。筆者は、核兵器への投資が巨額の利益をもたらす経済システムにも言
及した上で、世界にとって最優先すべきは米国の核軍縮だと説く。(編集部)
■伊藤孝司『平壌日記』
■山崎久隆(たんぽぽ舎)の原発切抜帖
■書評:キム・ジニャン著 塩田今日子訳『開城工団の人々』(地勇社)
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〔opinion6675:170517〕
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