たんぽぽ舎から TMM:No3117
- 2017年 7月 3日
- 交流の広場
- たんぽぽ舎
たんぽぽ舎です。【TMM:No3117】
2017年7月1日(土)その2 地震と原発事故情報-
1つの情報をお知らせします
転送歓迎
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┗■1.小林麻央さんの逝去を悼んで
| この悲劇はすべての人々にがんと原発事故による東京圏の
| 放射能汚染との関連を考えてみるように改めて迫っている
└──── 渡辺悦司(市民と科学者の内部被曝問題研究会)
フリーアナウンサーで、歌舞伎役者市川海老蔵さんの妻である小林麻央さんが
乳がんのため34歳の若さで亡くなりました。非常に痛ましく悲しい出来事です.
この悲劇は、すべての人々に、がんと原発事故による東京圏の放射能汚染との
関連を考えてみるように改めて迫っていると感じます。
マスコミでは、彼女のがんは「家族性」とされ、急速な病気の進行は「想定外
のスピード」とされ、早期に「精密検査」を受けなかった麻央さん・海老蔵さん
側あるいは医師側の判断に責任があるかのように、多く報道されています。
海老蔵さん・麻央さんが、原発事故直後に福岡や京都に「避難」したことによ
り、多くのマスコミからバッシングを受けたことなどは、まるで忘れ去られてい
るかのようです。
がんと福島第一原発事故の放射能による放射線被曝との関連は、慎重に避けら
れ、何もなかったかのように「印象操作」が行われているように感じるのは、私
だけでしょうか。
1つの典型として、産経新聞の論説を引用しておきましょう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170624-00000088-san-hlth
ここで、問題は3つあります。
(1)家族性がんの遺伝子変異を持っているかその可能性のある人々の放射線感
受性、つまり放射線によりがんに罹患しやすい体質(易罹患性)、
(2)そのような放射線高感受性の人々の避難・移住の権利、
(3)放射線影響によるがんの進行と悪性化の速度、です。
実際には、彼女の個別的な症例について、放射線影響がどの程度の作用を果た
したかをはっきりさせることは不可能です。
ですから、きわめて一般的に、今回のような家族性の遺伝子変異をもつ可能性
の高い人々の集団(たとえば乳がんの場合は約400人に1人いるとされる)に対す
る、放射線被曝影響の特別な性質という問題として、考えてみましょう。
(1)家族性がん遺伝子変異と放射線感受性
麻央さんのお母様も乳がんの既往歴があり、がんは「家族性」のものではない
かと疑われています。
確かに麻央さんは、ブログで、BRCA1とBRCA2の遺伝子変異について
検査したところ「陰性」だったとして、遺伝性のがんであることを否定していま
す。
https://ameblo.jp/maokobayashi0721/entry-12207314239.html
ですが、この2つの遺伝子変異は、家族性乳がんの40%程度であり、ほかに、
CHEK2、TP53、PTEN、ATM、STK11など数多くの遺伝子変異
もありえます。
また、残りの50%ほどの家族性遺伝子変異は、まだ十分解明されていません。
つまり、麻央さんが、遺伝的に乳がんになりやすい遺伝子変異を持っていた可
能性は、2つの遺伝子の陰性によっては否定できないわけです。
この点は、上記の産経論説は問題を正しく提起していますが、問題はここから
です。
いま重要なことは、これら家族性乳がんの変異遺伝子のほとんどが、損傷した
DNAを修復する機能に関連しているがん抑制遺伝子である点です。
私が参照したのは、デヴィータ編『がんの分子生物学 第2版』メディカル・
サイエンス・インターナショナル(2017年)です(334~335頁、534~544頁を見
てください)。
つまり、麻央さんが家族性乳がんの遺伝子変異を持っていた可能性があるとい
うことは、麻央さんは、生まれつき、遺伝子損傷に対する生体の遺伝子修復機能
が弱く、したがって、「放射線感受性が高かった」「放射線影響によるがん易罹
患性であった」可能性があるということを示しています。
放射線被曝一般は、過剰ながん発症とがん死を引き起こすリスクを持っており、
ICRP(国際放射線防護委員会)はそれを認めて、そのリスク係数を定めていま
す。
ちなみに、10万人が100ミリシーベルト被曝した場合(つまり1000万人が1
mSv被曝した場合)、ICRP2007勧告の現行のリスク係数は、がん全体で、
1700件の発がん・400人のがん死です。
そのうち、乳がんは、110件の発がん・33人のがん死です(ICRP同勧告
138~9頁)。
乳がんは、発がんの放射線関連性では、皮膚がん、肺がんに次いで高いレベル
です。
すなわち、乳がんも含めて放射線被ばくにより健康被害と犠牲者が出ることは、
政府の施策の基礎となっている国際的な基本文書において、すでに「分かってい
る」のです。
われわれは、ICRPを批判的に検討してきたECRR(欧州放射線リスク委員
会)にしたがって、これらが、およそ40分の1の過小評価であると考えています。
この一般的な発がん・がん死リスクに加えて、家族性の遺伝的がん要因を持っ
ている人々は、それよりも高いリスク要因をもっているわけです。
つまり、たとえ低線量でも放射線被曝をした場合に、他の人々よりも、影響を
受けやすい、がんになりやすい体質を持っているかもしれないということです。
最近のがん生物学の発展のもう一つの重要な成果は、がんは「遺伝子(ゲノム
・エピゲノム)変異の蓄積」によって生じるということです。
ここで、キーワードは「蓄積」です。
したがって、放射能による汚染が高ければ、それによる遺伝子変異の「蓄積」
の速度もまた急速になるし、またがんの進行と悪性化の速度も速くなるという一
般的結論が出てきます。
(2)高感受性の人々の避難・移住の権利
福島第一原発事故直後に、海老蔵さんと麻央さんは、福岡に避難しました。
だが、マスコミや右翼がこの避難をさかんにバッシングしたことは、記憶に新
しいところです。
いまや、マスコミは、この事実さえも、黙って隠そうとしているようです。
それらの記事の多くは、今ではネット上から削除されていますが、『女性セブ
ン』の記事は、まだ残っていましたので、下に引用しておきます。
http://www.news-postseven.com/archives/20110729_26924.html?PAGE=1
ここでは、「放射能が心配で逃げて何が悪いんだよ。妊婦なんだから、避難さ
せるのは当たり前じゃないか」という海老蔵さんの切実な発言が引用されていま
すが、全くその通りです。
このバッシングについてのコメントの方は、まだいくつか残っています。
http://dreblog.dreamlog.jp/archives/5049976.html
http://hitomi.2ch.net/test/read.cgi/poverty/1465452500/l50
ですから、もしも、実際に生じたようなマスコミと推進派による無責任なバッ
シングがなかったら、もしも、ご夫妻が東京都内で住み続けるという選択ではな
く、放射線レベルの低い、したがって遺伝子変異が体内に蓄積するテンポの低い
環境で、彼女が静かに生活することができていれば、あくまでも一般的に言って
ですが、病気が発症しなかったか、病気の経過が変わった可能性はあったと考え
られます。
今はっきり言えるのは、福島第一原発事故の直後に、海老蔵さんと麻央さんを
バッシングしたマスコミ、右翼論客、原発推進派、福島第一原発事故の健康被害
ゼロ論の主唱者たちは、今こそ恥を知るべきだということです。
放射線感受性の高い人々の生存権、健康で人間的な生活を送る基本的権利を、
無残にも踏みにじった事実をいったい何と考えているのか、ということです。
また、別な言い方をすれば、彼らは、放射線の健康影響を否定し、それを指摘
する人々を「風評被害」や「放射脳」などと誹謗することによって、自分で自分
の首を絞めているようなものなのです。
遺伝子的に放射線高感受性の人は、ICRP・放医研によっても人口の1%、
ECRRによれば人口の6%(つまり16人に1人)にも上るとされています。
さらに、遺伝子変異がなくても、受精した胎芽や胎児、乳幼児や子供、若い女
性などは、家族性がん遺伝子の変異を持つ人々と同様、高い放射性感受性を持っ
ています。
政府やマスコミ、推進派の人々にも、自分の愛する人、自分の家族や親族、子
供や孫、自分の友人や知人、ファンである役者や歌手やスポーツ選手やアナウン
サーなどがあり、それらの人々の中には、かならずこのような高感受性の人がい
るはずなのです。
彼らの発言は、自分の愛する近しい人々の運命に、自分で暗い影を落としてい
るに等しいのです。
いま、マスコミは、かつてのバッシングのことなど忘れて、麻央さんの追悼番
組や特集を組み、いわば「偽りの涙」を流しているかのようです。
家族性の遺伝子変異を持つ可能性のある人々こそ、放射線高感受性であり、が
んやいろいろな病気への易罹患性であるリスクがあり、汚染の高い地域から、真
っ先に避難しなければならなかったし、今でもそうなのです。
その権利を認め、社会的経済的に保障するのは当然のことです。
(3)がん進行の「想定外のスピード」と放射線被曝との関連
もちろん、くりかえしになりますが、麻央さんの具体的な症例から放射線影響
を証明することは不可能ですが、彼女のがんの進行が、「想定外のスピード」
(産経新聞)というように極めて速かったことは、福島の子供の甲状腺がんの進
行速度を連想させます。
福島の子供の甲状腺がんの場合、1年前の検診では、「異常なし」だったのに、
1年後にはリンパ節転移した甲状腺がんが見つかっている人たちがたくさんいる
という現実との共通性を感じるほかありません。
この問題は、まだ未解決で今後の課題ですが、若年層の家族性がんは一般的に
進行速度が速いという点に加えて、内部被曝によるがんの発症には極めて急速に
進行するという特殊な機序があると考えるべきでしょう。
(4)家族性の放射線高感受性および放射線誘発がんの特殊性
これらすべてから、麻央さんの悲劇が教えるものは、家族性の放射線高感受性
および放射線誘発がんの特殊性という、日本政府もICRPも無視しているこの
問題のもつ、深淵を見るような深刻性なのです。
小林麻央さんは、放射線影響のがんの犠牲者であった可能性の高い事例の一つ
として、一時ではなく永遠に、記憶され追悼されることになると確信いたします。
それこそがわれわれとして小林麻央さんを追悼するのに最もふさわしい道だと。
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