アフガニスタン 2001年以来最悪の危機に(下) - 国家破綻を救う、周辺諸国と米、ロの協調ができるか
- 2017年 7月 6日
- 評論・紹介・意見
- アフガニスタン坂井定雄
たびたび本欄でも紹介しているパキスタンの国際的ジャーナリスト、アハメド・ラシッドは、1978年に王族出身のアフガン政権が、若い左翼民族主義勢力のクーデターで打倒され、翌79年末には後継の親ソ連政権を支援するためソ連軍が大規模に介入して以来のアフガン・ウオッチャーだ。現在、アフガニスタンのニュースと分析を、おもに英BBC,ウォールストリート・ジャーナル、NYレビュー・オブ・ブックなどに書き続けている。
そのラシッドは、カブールの政府・外交特別警戒地区での大規模爆弾テロ(死者170人以上)の後の6月5日、BBC電子版での分析を次のように書き出しているー「カブールで先週発生した破滅的な自爆テロは、政府、その政策そして何より、アシュラフ・ガニ大統領への国民の信頼に危機をもたらした。アフガンスタンは、破綻しつつある国家から、破綻した国家へと急速に動いている。爆弾テロは、経済の混乱を一層深め、野党勢力のガニ大統領への辞任要求とデモをさらに強めさせることになった」
さらにラシッドは18日、NYレビュー・オブ・ブック掲載の「アフガニスタン:それは遅すぎる」でさらに詳細に分析し、次のように書いているー「アフガニスタンは、いまや、多くの人が理解しているよりも、はるかに深刻な危機に直面している。軍閥の指導者たちや閣僚を含む政治家たちは、ガニ大統領と軍事・治安担当の閣僚たちが無能で傲慢そして民族間の憎悪を煽ると非難して、辞任を要求している。カブールの街頭では、毎日十ものデモが、若者たちや最近の爆弾テロの犠牲者の家族たちによって行われている」
本稿の(上)で書いたように、2014年、米国の強い介入で発足できたガニ大統領の政権は、大統領と同格のアブドラ官房長官以下が離反して弱体化、大統領選挙をやり直して、挙国体制を作り直さなければ、経済再建も、30万人余の国軍・警察のタリバンとの戦いも進められない状態になった。米国以外にはNATO諸国さえも軍の再増派は見込めず、米国のトランプ政権も、現在の8千人態勢に3-5千人の増派をやっと国防長官が口にし、軍にその規模などの策定を委ねた。
アフガニスタンでは、89年のソ連軍撤退後、パシュトゥン、タジク、ハザラ、ウズベク各民族ごとの軍閥が割拠して流血の権力争いをやった時期も、国家として破綻状態だった。国民がその状態に苦しむなか、98年にパシュトゥン人の硬直したイスラム主義武装集団タリバンがほぼ全土を支配して、3年間のタリバン政権時代を維持した。しかし2001年9月、米同時多発テロ事件を起こしたとされる、国際テロ組織アルカイダの本拠地がアフガニスタンにあったため、ブッシュ(子)政権下の米国が主導して、大規模な戦争を開始、タリバン政権は崩壊した。
それ以後、米国中心に、NATO諸国はじめ日本を含む諸国が、2004-14年のカルザイ政権による国家再建を支援してきた。
一方、01年の戦争で政権が壊滅、辛うじてパキスタンの山岳地帯に逃れたタリバン指導部は、パキスタンのイスラム過激派の支援を受けて組織を徐々に再建。カルザイ政権下のアフガンの農村部に再潜入し始めた。2014年からのガニ政権下、とくに農村部、地方都市で行政の不備、役人の腐敗行為などへの国民の様々な不満の強まりをくみ取って、タリバンはさらに影響力、支配地域を再建していった。カタールはじめ湾岸諸国の一部王族や金持ちの秘密資金供与がタリバン再建を助けている、という情報もあった。
本稿(中)で紹介した、BBCが現地報道したタリバン支配地域は、タリバンにとって最も進んだ、安定した地域で、他の地域では競合地域も多いが、政府支配地域が57%に減少したという米政府の見方は楽観的過ぎるかもしれない。タリバン自身は国土の80%を支配したと言っている。現に、農村部だけでなく、北部の省都クンドゥーズ(人口30万人)などもタリバンの支配下になる形勢だ。
タリバンは、2001年の壊滅的敗北と、その後の再建の過程、支配地域での住民との接触の中で、多くのことを学び、現代の人々の生活、要求、希望をくみ取る寛容が必要なことを、ある程度理解したのではないだろうか。それによって、国家再建への挙国一致政権を作り直す過程に、タリバンが参加する可能性が生まれた。
アフガニスタンには、別な危険も迫っている。それは、シリア、イラクで壊滅しつつある偏狭なイスラム過激派「イスラム国(IS)」の残党が、アフガニスタンに逃げ込みつつあることだ。すでにISは数年前からアフガンに拠点を築いた。ただ、タリバンの協力が得られず、支配地域を東部の1州にしか拡大することができなかった。トランプ政権になって、米軍はアフガンのIS拠点を、巨大な爆風と音響を発生する爆風爆弾の実験場に使った。一方ISは、カブールでの軍病院襲撃(3月、医師、患者ら50人以上死亡)に犯行声明をだした。ISは、アフガンでの再建を狙っている。
ロシアがアフガニスタン、パキスタンへの影響力を強める「新グレートゲーム」に取り組み始めたことを、1月に本欄に書いた。プーチン政権が、アジア中枢部進出の野心を抱いていることは確かだと思う。アフガニスタンを「破綻国家」転落から救い、再建するためには、隣接国でタリバンを保護してきたパキスタンをはじめ、タリバンをひそかに支援しているロシアとイラン、インドそして中国、もちろん米国とNATO諸国すべてが参加するアフガン再建国際会議がどうしても必要ではないだろうか。ラシッドは、国際的な「外交努力」によって、公正な大統領選挙をやり直し、挙国政権を作り直すことに望みを託している。タリバンを含めた挙国体制、あるいは協調を得た政権ができれば、アフガニスタンを国家破綻から救うことができる、かもしれない。トランプ政権が約束した米軍増派などでは、何の役にも立たない。(了)
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