エマニュエル・マクロン著 「革命:これは僕たちのフランスのための闘争だ」(Révolution)
- 2017年 7月 14日
- カルチャー
- フランスマクロン書評村上良太
フランスの新大統領になったエマニュエル・マクロン氏は選挙運動中に己の考えと政策をまとめた「革命:これは僕たちのフランスのための闘争だ」(Révolution : C’est notre combat pour la France )という本を出版した。この本は自分の思想がどのように生まれたのか、学生時代に読んだフランスの古典の類などの回想から始まり、やがて本丸へ。CDDと呼ばれる短期雇用(有期雇用)からCDIと呼ばれる無期雇用へと労働者をどう転換していけばよいのか。今、始めようとしている労働法改革の基本的思考や今後のフランスが取るべき環境政策や外交政策などを章ごとにまとめている。実を言えば今年の大統領候補者のこうした類の本の中では最もわかりやすくまとまった本と言えるだろう。つまり、よくできた本だ。
マクロン氏の任期中の最大の政策は労働法の改革である。というよりむしろ労働法の解体、と言った方がよいかもしれない。その改革によって戦後のフランスを象徴する労働者の手厚い待遇や権利の保護を緩め、経営者の側の裁量で解雇が楽にできるように改めようというのである。正規雇用を増やすためには解雇をもっと楽にして金もかからないようにしないといけない、という理屈である。さらには労働組合の権限も大幅に狭める。これはアングロサクソン流のマネージメントを取り入れて、フランス的な制度を解体しようという試みである。そして世界の経済の趨勢に沿って、比較優位のなくなった産業分野は早くつぶして、新しい見込みのある分野への労働者の速やかな移動を進める必要があると説く。いかにも金融業界のエリートらしい発想だ。
法律で労働者と経営者を縛るのでなく、仕事によって様々な事情があるのだから、これからは労使間の企業内交渉で勤務条件や賃金などを取り決めるべきだというのである。その個々の交渉が労働法よりも優先されるべきだというのがマクロン大統領の基本姿勢である。これは一見、当事者同士のためのように響くが、実際には買い手市場の現代では雇用する側の声が絶対的になっていく可能性が高いだろう。だが、驚いたことにフランス人はマクロン氏を大統領に選んだだけでなく、マクロン氏が作った政党の候補者に議会での圧倒的多数を与えたのだった。フランス人が変化を望んでいることは確かである。しかし、この方向でフランス人は本当に幸せになれるのだろうか。日本でも管理職は残業代を請求できないように労働法の改正を進めているが、今、世界で労働法解体の波が押し寄せている。
今日の7月14日は革命記念日で、フランスでは「7月14日」とそのまま呼び祭日になっている。フランス革命は99%が1%を倒した政治変革だった。しかし、今日では1%が革命を始めたように見える。そして、大衆は圧倒的な支持を示したのだった。
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〔culture0506:170714〕
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