「ローソク市民革命」について話したかったこと(2)
- 2017年 10月 23日
- 評論・紹介・意見
- ローソクデモ小原 紘韓国
韓国通信NO538
ローソクデモは韓国の民主化運動の延長線にある。
何故ローソクがあれほど激しく燃え上がったのか。韓国社会を覆っていた不満は何だったのか。大統領の退陣はゴールではなく新しい時代の始まりだ。国民は積弊の克服を新政権に強く求め、新政権はそれに応えようとしている。
世界から注目を集める「市民革命」。日本人が学ぶことは多い。
<ローソクに込めた怒り>
◆2014年のセウォル号沈没事故による政府への不信感は大きく、国民が受けた心の傷はローソクとなって燃え上がった。政府の「人命の軽視」、「無責任ぶり」は明らかだった。3年の間、怒りは全国に広がった。韓国には犠牲者を追悼し、遺家族に連帯する「黄色いリボン」を付けた市民が実に多い。福島原発事故とセウォル号事故に対する日韓政府の対応は「ウリふたつ」。「忘れるな!」を合言葉に、今でも粘り強く真相究明と責任追及の運動は続く。
◆所得の格差は広がるばかり。非正規雇用労働者の割合は40%を超える。韓国の「国難」である。日本は災害復興とオリンピックで人手不足だが首相が胸を張ることではない。非正規雇用は増え続けるばかり。6人に1人が貧困にあえぐ。韓国ではローソクが政府に雇用・貧困対策を迫った。
◆韓国政府の報道機関に対する干渉は露骨だ。報道の自由度ランキングは韓国も日本も後進国なみ。北朝鮮や中国の不自由度を笑えない。政府批判を封じるために公共放送KBS、MBCの社長を交替させ、大統領の「おともだち」を天下りさせた。放送の公正中立を主張する制作スタッフ、組合幹部が解雇された。現在、続々と解雇者された人たちが職場に復帰している。
「政府が『右』と言っているのにわれわれが『左』と言うわけにはいかない」と発言した籾井NHK会長を思いだす。NHK内部から放送の中立公正を求める声はあったのか。民放へは放送免許の取り消しという脅し。コメンテーター・アンカーの更迭が続き、安倍首相と民放・新聞各社経営者との会食が相次いだ。韓国社会は公平な報道を求めた。
◆朴槿恵は不正選挙で選ばれた大統領だった。李明博大統領の指示で国家情報院が選挙に介入した。隠蔽された事実が新政権の下で明らかになりつつある。
◆露骨で陰湿な強権政治が続いた。なかでも驚いたのは公党である統合進歩党が解散させられたことだ(2014)。民主労働党の流れを汲む統合進歩党が「従北」(北朝鮮の支配下)と断定された。解散時の同党所属議員5名。 労働組合も目の敵にされた。全国教職員労働組合(全教組)を非合法化(2013)。ここでも北朝鮮との関係が問題にされた。
◆「スラップ訴訟」が頻発した。ストライキをした組合に損害賠償を求める訴訟だ。労働組合の実質ストライキ封じである。韓国の鉄道労組がストライキで天文学的な額の賠償を求められた。それでも昨年9月、鉄道労組は「成果主義賃金体系導入反対」「労働法制改悪反対」「非正規雇用反対」を掲げてストライキに突入した。ローソクデモが始まる一カ月前だった。
◆大統領を批判したビラを播いただけで逮捕された青年もいる。
◆朴槿恵大統領は「美しい韓国を取り戻す」ために教科書の国定化方針を発表した(2015)。父親の朴正熙を「国父」にするために歴史の改ざんをもくろんだ。公私混同というべきあきれた話だが、歴史を直視しない安倍の意向を汲んだ教科書検定制度とあまり違いはない。批判にさらされ韓国の国定教科書制度は骨抜きに。学者や高校生たちが反対運動を展開した。
◆最近、大統領府が作成した文化・芸能人の「ブラックリスト」の存在が明らかになり大騒ぎになった。わが国には危険な文化人はいないのか。
◆李明博大統領の大型公共事業、「四大河川事業」は深刻な環境破壊を生んだ。膨大な税金の無駄使い。贈収賄事件も噂された。
◆福島原発事故を教訓に脱原発を主張する市民たちもローソクを掲げ参加した。
◆韓米FTAによって切り捨てられた農民たちがトラクター・耕運機に乗って全国から集まった。
<民主主義国家への高みへ>
ローソクデモは新政権とともにローソク市民革命という新たな段階に進もうとしている。政財界の癒着、官僚主義、中央集権、効率万能主義からの脱却。政治の透明性、市民参加、正義の価値観にもとづく公正な社会作りを目指している。
政権発足後の脱原発宣言、最低賃金の大幅アップ(16%)、正規雇用促進の政策が次々と発表された。「国の主人は国民だ」という大原則にもとづき、政治家や官僚まかせにしない市民との協力体制、大きすぎる大統領の権限縮小と議会の権限拡大、比例制中心の選挙制度、地方分権の推進、税制改革による格差是正、労働組合、協同組合の育成と連携などを目指している。
<戦争をさせない、戦争をしない>
発足したばかりの新政権が北朝鮮の核とミサイル問題で大きな壁にぶつかっている。日米韓の軍事同盟に踏み込み過ぎた感のある文大統領に不安を覚える市民もいる。しかし安倍、トランプとは明らかに違う。平和を真っ先に掲げ、対決の究極にある戦争をあくまでも回避する姿勢だ。
<しめくくりに>
韓国が乗り越えようとしている課題には、わが国と共通する問題がとても多い。しかし解決に歩みだした韓国とわが国は対照的だ。韓国が「希望の星」なら空虚な言葉を擦り切れたテープのように繰り返し、北の脅威を叫ぶだけの日本の首相は「絶望の星」だ。文在寅大統領は「国民は最も平和で美しい方法で民主主義を成し遂げた。暴力より平和の力が世の中を大きく変えられることを証明した」と大西洋協議会「世界市民賞」授賞のスピーチで語った。
最後は女子高校生の一人デモの映像です。 勇気づけられるとても素晴らしい映像です。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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