天皇と天皇制を語るーやっぱりない方がよい
- 2017年 12月 8日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎
気の置けない同年配(70代)の弁護士数名との歓談の機会があり、話題が天皇のことになった。誰もが、天皇制を歓迎はしていないが、温度差がある。
A 敗戦後の天皇の人間宣言は、当時の人々にどう受け止められたのだろうか。人間宣言後も「天皇の神聖は揺るがず」と思われていたのではないだろうか。
B 天皇の神格化は、戦前の政府がでっちあげた人民統治のための演出に過ぎない。敗戦によって、こんな信仰を維持することができなくなったから、神格放棄を宣言したというだけの話だろう。
C 神風は吹かなかった。誰の目にも神州不滅はウソと分かった。敗戦によって、天皇の化けの皮が剥がれた結果の人間宣言だろう。
A とは言うけれど、戦後も多くの人が天皇制を支持し、天皇に好意を寄せたのはどうしてだろうか。
B 戦後の国民の多くが天皇に好意を寄せていたというのは本当だろうか。天皇に対する深い幻滅から天皇に対する嫌悪感も強かったのではないのか。
C それでも、戦後における天皇の全国各地訪問には大勢の人が集まった。物見高さもあったろうが、刷り込まれた感情じゃないのか。戦前の永きにわたって刷り込まれてきた天皇に対する敬意の国民感情は、軽々に払拭できないということだと思う。
A だから、天皇の戦争責任を厳しく問う国民世論は生まれてこなかったというわけか。
C 昭和天皇が戦争責任を負うべきは当然だ。彼は、戦争遂行のすべてについて報告を受け是認してきた。310万の日本人の死と、2000万人の被侵略地人民の死に責任を持たなければならない。
D 「戦争遂行のすべてについて報告を受け是認してきた」というものの見方は、形式的にはそうかも知れない。しかし、実質的には彼に歴史の流れを変えうる力があったとは思えない。戦争責任は飽くまで軍部にあって、昭和天皇の罪は副次的なものではないか。
E 天皇の例の記者会見での発言にショックを受けた。戦争責任問題を問われて「そういう言葉のアヤについては、よく分からない」と述べ、原爆投下について「やむをえない」という発言。
B 現実に天皇がやってきたことが、最近の資料発掘で明るみに出ている。昭和天皇が反省していたなどとはとうてい考えられない。
A 昭和天皇裕仁の責任は重いとしても、現在の天皇明仁についてはどうだろうか。
明仁については、戦争責任の問題ない。憲法擁護の姿勢において、安倍晋三よりもずっとマシだという評価が定着しつつあるように思えるが。
C それは危ない考え方だ。国民に好感を持たれる天皇ほど、実は国民主権の危機となる危険な天皇と考えなければならないと思う。
A 結局、天皇制とは必要なものだろうか。なくしてしまうべきものだろうか。
B 天皇制は国民主権思想と矛盾する。人間の平等にも反する。当然に廃止すべきだと思う。
E なにも性急になくす必要もないのではないか。近い将来、国民の総意によって廃止する日が来るだろう。それまでは、社会の安定のためにあってよいと思う。
C 私は反対だ。天皇とは権威だ。単に、権力に利用される恐れとして危険というだけではなく、社会にこのような権威が存在すること自体が危険なのだ。天皇の存在が、権威尊重の風潮や国民意識の根源となっている。企業や、役所や、地域や、民主団体や、あらゆる部分社会の権威主義を払拭するには、天皇という存在をなくすることか効果的だと思う。
A ところで、日の丸や君が代についてはどう思う?
D 日の丸・君が代ともに、国民の圧倒的支持がある。これを尊重すべきは社会通念としてやむをえないのではないか。
C 「日の丸・君が代」はともに天皇賛美だ。特に君が代の歌詞は馬鹿げている。また、兵士や戦争体験者の憎悪、嫌悪の念が強い。けっして、国民の圧倒的支持があるとは言えないと思う。
B 問題は、価値の多様性を認めるかどうかだ。強制は間違っているということが、多数派ではないだろうか。
A で、生前退位には賛成? 反対?
E 天皇にも人権があるだろう。高齢で公務の負担が大きいとなれば、生前退位は結構ではないか。
B 公務は皇太子が代理できるし、摂政をおいてもよい。生前退位を認める必要はさっぱり分からない。
C 生前退位問題は、天皇制イデオロギー再生産の材料として使われているという印象がある。天皇の「公的行為」や「象徴的行為」という形で、天皇の存在感が拡大することを警戒しなくてはならない。
(2017年12月7日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.12.7より許可を得て転載
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