朝鮮半島の危機緩和―明日2年ぶり南北対話 - 平昌オリンピック期間中は米韓軍事演習を延期 -
- 2018年 1月 8日
- 時代をみる
- トランプ伊藤力司北朝鮮
核・ミサイル開発に血道をあげる北朝鮮と、軍事力を行使してもこれを阻止しようとする米国間で緊張が高まっていた朝鮮半島で、新年とともに危機が緩和された。トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・労働党委員長のえげつない口喧嘩を当分は聞かされなくてすむと思えばほっとする。
金正恩委員長が元日にTV放送した「新年の辞」で、2月に韓国で開く「平昌(ピョンチャン)五輪の成功を願う」と語ったことから、韓国側が北の選手団受け入れなどを協議する南北当局者会談を開くことを提案。北も即座にこれを受け入れて明日9日板門店で、2年ぶりに南北当局者会談が開かれる。
この間トランプ米大統領は、1月4日に行われた文在寅・韓国大統領との電話対談で平昌オリンピックの期間中は、例年2、3月に行われてきた米韓合同軍事演習を延期することに同意した。平昌冬季オリンピックは2月9日から25日まで、平昌パラリンピックは3月9日から18日まで開かれる。
米韓軍は例年2月から3月にかけて、野外機動訓練「フォール・イーグル」と合同指揮所演習「キリングフィールド」を行ってきたが、今年は3月19日以降に延期する。北朝鮮はかねてから米韓合同演習の中止を要求してきた。米側は「平和の祭典」と言われるオリンピック期間中の延期には応じるが、演習中止などはもってのほかという構えだ。
こうして少なくとも3月18日までは朝鮮半島の緊張が緩和した状態が続くと言えるだろうが、それ以降はまた米韓合同演習が始まれば緊張が再燃しかねない。問題の根源にある核・ミサイル開発を北朝鮮が断念することは見込めないからだ。
金正恩委員長は「新年の辞」で「米本土全域が核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンが私の執務室の机の上に常にある」と豪語し、米国向けにICBM(大陸間弾道ミサイル)の実戦配備を事実上宣言した。
しかし北朝鮮は米国内に届くICBMは完成させたが、核弾頭の小型化やミサイルが大気圏に再突入する時に発生する超高温から核弾頭を保護する対策はできていないとみられている。それができるまでにあと1年はかかるだろうというのが米専門家の見方であり、だから米国としては1年以内に軍事力を行使しても北の核・ミサイル開発を止めなければならない、とする意見がこれまでにペンタゴン(米国防総省)筋から漏れていた。
昨年末にはこうした観点から、米国の一部タカ派の観測筋が北朝鮮中枢部に対する軍事攻撃を避けるべきでないとする論調を打ち出し、米国や韓国で緊張が一挙に高まった。こうした雰囲気を一変させたのが、金委員長が「新年の辞」で平昌五輪の成功を打ち出したことだ。
金委員長はこの中で「核のボタン」にも言及するなど、米国に対する好戦的姿勢も打ち出したが、それは言うなれば「常の言い草」であって、新しい要素は平昌五輪を口実にした“南北対話”の姿勢である。
彼は「わが人民が建国70周年(9月)を大慶事として記念し、南朝鮮(韓国)で冬季五輪が開催される意義深い年」と位置付け、「凍結状態にある北南関係を改善し、民族史に特筆すべき重大な年にすべきだ」と訴えたのだ。
これまで文在寅・韓国大統領が、昨年5月の就任以来続けてきた南北対話の呼びかけに冷淡な姿勢を執り続けてきた金委員長が、新年を機会に軟化したのはなぜか。おそらくは度重なる国連安保理決議による北朝鮮に対する制裁がだんだん効いてきたためではないか。
中国商務省は1月6日、国連安保理決議に基づき北朝鮮への原油や石油製品の輸出を制限すると発表した。これによると、2018年内の原油輸出量は最大400万バレルないし52・8万トン、ガソリン、ディーゼル油などの石油製品は年間50万バレルに抑制される。
北朝鮮にとって原油や石油製品の規制は痛い。トラック、バス、タクシー、まして戦車を動かすにはガソリンが不可欠だし、何よりも弾道ミサイルの燃料精製には石油製品が不可欠である。もとより禁輸にそなえてかなりのストックは用意しているだろうが。
6年前に金正日政権から金正恩政権になって以来中朝関係は目に見えて悪化してきたが、中国が北朝鮮への石油輸出の本格的規制に同意したことは、北朝鮮の国家運営にピンチを招きつつあるのではないだろうか。
一方、トランプ大統領は1月6日夕(日本時間7日朝)ワシントン郊外のキャンプ・デービッドで記者団に「金正恩委員長と電話会談する用意があるか」と聞かれ「もちろんある。私は常に対話を信じている」と述べた。
一方で「前提条件なしに対話のテーブルに着くか」と問われると「そんなことは言っていない。対話には北朝鮮の非核に向けた意思表示が必要で、圧力を最大限に強めて核の放棄を迫る方針は揺るがない」と強調した。
さらに南北当局者会談について大統領は「良い結果が出ることを望むし、私もそれをとても見てみたい。物事はそこから動くかもしれず(会談を)100%支持する」と述べた。さらに「オリンピック以外のことも取り上げることを望むし、それを見てみたい」と述べ、幅広い議題(言外に緊張緩和)について協議することを歓迎する姿勢を示した。
新年早々、トランプ・ホワイトハウスの内幕を暴露したベストセラー本「Fire and Fury(炎と怒り)」の引き起こした騒動に揺れる大統領だが、ワシントンから遠く離れた板門店での南北対話が、朝鮮半島危機にいくらかでも明るい展望をもたらすことを真剣に望んでいるようだ。
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