2018年 春 夢を語って悪いのか?
- 2018年 1月 16日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘朝鮮半島韓国
韓国通信NO544
米・英・中三か国首脳会談にもとづくカイロ宣言(1943年11月27日)は日本の領土と朝鮮について次のように述べている。
「日本国は、また、暴力及び強慾により略取した他のすべての地域から駆逐される。前記三大国は、朝鮮人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自由独立のものにする決意を有する」
また日本の無条件降伏を求めた米・英・ソ首脳によるポツダム宣言(1945年7月26日)は――
「8. カイロ宣言の条項は履行されるべきであり、又日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国ならびに我々の決定する諸小島に限られなければならない」
しかしマッカーサー布告第1号(1945年9月7日)は――
「第1条 北緯38度線以南の朝鮮領土およびその住民に対する全統治権は、当分の間、本官の権限の下に施行する」
植民地からの「解放」のはずが「占領」になってしまった。敗戦国が戦勝国に占領されるのは理解できるが朝鮮が占領されるのは全く理不尽なことだった。ここに日本の敗戦処理とかかわりながら、米ソ対立がからみあって韓半島分断の歴史が生まれた。統一の努力(済州島4.3抗争もそのひとつ)にもかかわらず、国内諸勢力の対立と米ソ中の力関係のなかで1948年、南には大韓民国、北には朝鮮民主主義人民共和国が生まれた。
今年、分断70年を迎える。
2年後の1950年に起きた朝鮮戦争には中国義勇軍とアメリカを中心とする国連軍が参戦する国際戦争に発展した。敗戦国のわが国は分断を免れ、アメリカに占領された後独立したが、日米安保条約、日米行政協定(日米地位協定)によって、半独立国という屈辱の中にあるのは現在も変わらない。
70年もたつと何故同じ民族が分断されているのか忘れがちだ。決して好き好んで分かれたわけではない。最近の過激な米国トランプ政権とわが国の指導者たちの発言を聞いていると、「北」は憎悪の対象、消えてほしい存在にも聞こえるが、私たちもそんな雰囲気のなかにいる。
<統一を望む声に耳を傾けたい>
どんなに北朝鮮が嫌いでも、分断が好ましいと思っている韓国人に会ったことがない。南も北も武力によって統一を図ったため戦争の悲劇が生まれた。その後はさまざまな平和的な統一構想が模索された。現在は北の核とミサイル問題で統一問題はあまり聞こえなくなったが、統一が民族の「宿願」であることに変りはない。韓国の憲法前文と第4条には平和的統一が明記されている。韓国の人たちは武力衝突が現実味をおびても戦争だけは絶対に避けるべきと考えている。事実、北がどれほど挑発的な発言をしても、「強がり」程度に受け止め本気にしない。ずっとそれに慣らされてきたからかもしれない。圧倒的な米韓の軍事力に囲まれて「吼えている」ぐらいに理解しているようで、韓国人は信じられないくらい冷静だ。
金正恩体制への評価は別にして、韓国人に日本と北朝鮮のどちらが大切か聞いてみたらよい。北は同じ民族だから日本と比べようがないと答えるに違いない。日本人の軽々しい北朝鮮批判などは聞きたくないと答えるかもしれない。70年たっても同胞は同胞である。
<統一を望まない人たち>
韓半島に統一国家が実現したら、国土は22万㎡k、人口は7500万人になる。ちなみに日本は 37万8千㎡㎞、1億2600万人である。小国という事実に変りはないが、統一したらまたたく間に経済力で日本を上回るにちがいない。既にOECDは韓国が20年後に日本を抜き去って世界第三位の経済大国になると予想している。つまらないことかも知れないが、オリンピックのメダル数で日本を凌駕している韓国が北と一緒になれば日本が足元に及ばない「スポーツ大国」になるはずだ。「統一コリア」はまばゆいほどの可能性と発展が約束されている。
韓半島の統一はこれまでアメリカと中ソの大国の利害と思惑によって阻まれてきた。韓国は日本とともに東西対立の最前線として位置付けられ、自由主義反共国家の道を歩んできた。
冷戦構造の崩壊は半島統一のチャンスだったが、現実は統一を許さなかった。アメリカの巨大軍需産業は韓半島の「火だね」を消すことを望まなかった。領土、宗教、イデオロギー、人種問題による紛争の背後にはいつも軍需産業がある。
トランプ大統領が日本と韓国を訪れ、北朝鮮の脅威を理由に高額の武器を売り込んだのは記憶に新しい。世界最強の国の指導者が死の商人のセールスマンを務めた。最近のアメリカの景気と株価高騰はロッキード、ホーイングを筆頭とするアメリカの軍需産業によるものといわれている。ここでも「金正恩サマサマ」である。戦争が金儲けにつながるという政財軍一体の構造だ。このことからも北と南が戦争を回避しようとしてもアメリカが反対する理由は明らかだろう。まさしく軍需産業にとって平和は敵だ。「人権国家」を標榜しながら「戦争紛争屋」まるだしの姿勢である。アメリカはいつまで南北統一の前に立ちはだかり続けるのか。
日本はどうだろうか。「平壌宣言」(2002年)は過去の清算にも触れた画期的な宣言と評価された。日朝間の国交正常化が半島の安定と平和に寄与し、将来的には南北統一に貢献することが期待された。だが拉致問題がクローズアップされると、「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」という声が巷にあふれ、国交正常化と真逆の道を歩んだ。日朝関係は平壌宣言以前よりむしろ悪化した。一体何が起きたのか。
拉致問題は政治目的に利用された。国交正常化後に拉致問題の解決は十分可能だった。政治利用されただけでいまだに解決の目途も立たず被害者家族を苦しめ続けている。
拉致被害を口実に北朝鮮に対する憎悪を煽り、戦争ができる国、平和憲法を変えることまでも画策されている。拉致問題も北朝鮮もその目的のために利用されてきた。
南北が平和統一したら武器輸出の商機を失うのがアメリカなら、わが国は憲法改悪も軍備増強もその根拠を失う。もちろん安倍首相やその後継をめざす政治家たちの出番もなくなる。刻々伝えられる危機的状況とかけ離れた提案かも知れないが、北朝鮮との関係改善、南北の統一の促進がわが国の平和にとって最高最善の道だということを確認しておきたい。私の夢を笑わないで欲しい。
<政府間合意(従軍慰安婦問題)は振り出しに>
文在寅新政権が提起した二年前の政府間合意の見直し提案を日本側は一蹴した。被害者側である韓国からの疑問に対して、謝罪した側が異議を唱えるという異常事態だ。「10億円払った」といえば、「返す」という話まで聞こえる。子どもじみたあきれた話だ。どのような交渉が行われたのか私も疑問を抱き続けてきた。何故、安倍首相が従軍慰安婦問題について持説を曲げて「謝罪」までして解決しようとしたのか。韓国側が当時の交渉過程を調査したように、わが国も明らかにして欲しい。「最終的かつ不可逆的に解決」はあくまでも政府間の合意である。謝罪された側の国民の大多数が反対すれば解決にはならない。
安倍首相の「謝罪」は両国外相の発表文書に盛られただけで、首相本人が直接謝罪する意思はさらさらなく、「平和の像(少女像)」の撤去ばかりを日本側は求めた。形だけの謝罪、不誠実な決着に当事者のハルモニたちはもちろん韓国社会は激昂した。安倍政権に解決の意思があったことは評価できるが、これでは無意味な決着だったとしかいいようがない。
このような政治決着の背景には日韓両国に解決を迫ったアメリカの意思が感じられる。
証拠はないが根拠はある。
ブッシュ大統領から従軍慰安婦問題で安倍首相が問い詰められ「謝罪」したことがある。2007年4月27日、訪米した安倍首相とブッシュ大統領(当時)の共同記者会見で、何故元慰安婦のハルモニではなく、ブッシュに謝ったのか不思議がられた。しかし安倍首相は帰国後、謝罪しなかったと釈明した。これも不思議なことだ。これからもわかるように、米国政府が慰安婦問題について重大な関心を寄せていたことがわかる。国連人権理事会の勧告、アメリカ州議会での謝罪決議などが相次ぐなか、日本政府は国際的にも窮地に追い込まれていた。次のオバマ大統領も重大な関心を寄せ、アジアでの股肱とも頼む日韓がギクシャクすることに神経をとがらせ、対北朝鮮、中国との緊張が高まる中、早期の解決を望んでいた。オバマ退任直前の年末に急遽「政府間決着」がはかられたと読める。政府間合意発表後もアメリカ政府高官が合意の「ほころび」を憂慮して日本政府に働きかけたことが報じられた。強引に問題を解決させようとしたアメリカの傲慢ぶりがさらに日韓関係を悪化させることになった。
「話を蒸し返すな」といわんばかりの菅官房長官の態度からは謝罪した側とは思えない傲慢さが感じられる。高宗皇帝の反対を押し切って強行された日韓併合(1910年)を彷彿とさせる日本側の居丈高な態度では日韓の友好関係は悪化の道をたどるだけだ。
年明けの5日、韓国の挺対協からハルモニがまた一人亡くなられたという訃報が届いた。解決は急がなければいけない。早急に振り出しに戻した真摯な交渉と結論を望みたい。
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