「チェルノブイリ法日本版の条例制定を一緒にやりませんか」
- 2018年 1月 17日
- 評論・紹介・意見
- 柳原敏夫
「チェルノブイリ法日本版の条例制定を一緒にやりませんか」
岡田俊子(脱被ばく実現ネット)
柳原敏夫(ふくしま集団疎開裁判・元弁護団長)
1、私たちは‥‥
昨年5月、三重県伊勢市のお母さんが、全国の市民に向けて、「チェルノブイリ法日本版の条例制定を一緒にやりませんか」という呼びかけをしました。私たちはこの呼びかけに賛同し、原発事故による被ばくから命、健康、暮らしを守る最低限のセイフティネットとして、国際基準に基づき避難の権利を保障したチェルノブイリ法をモデルとして、市民の手で法律を制定しようと市民運動をスタートした全国の有志です。
2、私たちから世界への呼びかけ
翌6月、私たちは世界に向けて、次の呼びかけをしました――チェルノブイリ原発事故のあと、日本政府はこう断言しました「ソ連とちがい、高度の技術を持っている日本では、チェルノブイリのような事故は絶対起きない」と。15年後、福島原発事故が発生したとき、日本はもとよりどの国ももう日本政府のように断言しませんでした。むしろ、事態はチェルノブイリ原発事故直後にIAEAのブリックス事務局長が断言した方向に進みました--世界でチェルノブイリのような事故が毎年起こっても我々はびくともしない、と。つまり、彼らは世界に500基近くある原発が500年に一度、事故を起こす確率を覚悟したのです。そして、チェルノブイリと福島の事故により次のことが証明されました、原発事故のあと事故は小さくされ、最大の被害を被るのは私たち市民であり、子どもであることが。今、チェルノブイリと福島の市民はその苦しみの中に置かれています。
そして、今日のチェルノブイリと福島の姿は明日の世界中の私たちの姿です。二度とこの悲劇を繰り返してはなりません。
そのためには、原発事故から命と健康を守る最低限のセイフティネットとして、国際基準に基づき避難の権利を保障したチェルノブイリ法を国際条約として制定する必要があります。私たちは世界の皆さんに、この国際条約の締結の推進を呼びかけます。
3、私たちから日本各地への呼びかけ
今、私たちが日本各地とりわけ再稼動の問題に直面している地域の人たちに訴えたいことも、この世界への呼びかけと同じです。――IAEAの考えによれは、日本が地震大国という事情を無視したとしても日本で10年に1回、チェルノブイリ級の事故があってもびくともしないという覚悟です。つまり、今後10年に1回、日本のどこかで原発事故が起きても事故は小さくされ、最大の被害を被るのは私たち市民であり、子どもです。今日のチェルノブイリと福島の姿は明日の再稼動した地域の人たちの姿です。二度とこの悲劇を繰り返してはなりません。
そのためには、原発事故から命と健康を守る最低限のセイフティネットとして、国際基準に基づき避難の権利を保障したチェルノブイリ法をモデルとして救済法を制定する必要があります。これがチェルノブイリ法日本版を市民の手で制定することです。
4、チェルノブイリ法日本版制定までのロードマップ
チェルノブイリ法日本版を市民の手で制定するため、幸い私たちにはお手本があります。「情報公開」の法律を日本各地の市民の手で制定した経験です。日本各地の自治体で地元市民と議員と首長が協力して情報公開の条例を制定し、その条例制定の積み重ねの中から1999年に情報公開法が制定されました。私たちはこの経験を参考にして、チェルノブイリ法日本版を条例制定からスタートしようと準備しています。再稼動の問題に直面している地域に住む皆さんも、今すぐ自分たちの住む町でできる対策として、原発事故から命・健康を守る最低限のセイフティネットの条例制定を、私たちと一緒に取り組みませんか。
【チェルノブイリ法日本版】伊勢市条例のモデル案(柳原案)
【前 文】
伊勢市民は、全世界の市民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに健やかに生存する権利を有することを確認し、なにびとといえども、原子力発電所事故に代表される放射能災害から命と健康と生活が保障される権利をあることをここに宣言し、この条例を制定する。
他方、原子力発電所等の設置を認可した国は、放射能災害に対して無条件で加害責任を免れず、住民が放射能災害により受けた被害を補償する責任のみならず住民の「移住の権利」の実現を履行する責任を有すると確信する。その結果、この条例の施行により伊勢市が出費する経費は本来国が負担すべきものであり、この点を明らかにするため、国は、すみやかに地方財政法10条17号、同法28号に準ずる法改正を行なう責務を有すると確信する。
加えて、放射能災害に対して無条件の加害責任を負う国は、事故が発生した原子力発電所等の収束に従事する作業員に対しても、放射能災害により被害を被った住民と同様、当該作業員が放射能災害により受けた被害を補償する責任のみならず当該作業員の命・健康を保全する責任を有すると確信する。
もっとも、今日の原子力発電所事故の巨大な破壊力を考えれば、この条例の制定だけで放射能災害から伊勢市民の命と健康と生活を保障することが不可能であることを認めざるを得ない。したがって、私たちは、三重県の自治体、さらには日本の全自治体に対して、各自治体の住民の名において、この条例と同様の条例を制定すること、さらにはこれらの条例の集大成として、日本国民の名において同様の日本国法律を制定することを呼びかける。
さらに、原子力発電所事故が国境なき過酷事故であることを考えれば、わが国の法律の制定だけで放射能災害から日本国民の命と健康と生活を完全に保障することが困難であることも認めざるを得ない。したがって、私たちは、この条例制定を日本のみならず、全世界の自治体、各国に対して、原子力発電所を有する世界の住民の命と健康と生活が保障する自治体の条例、法律の制定を呼びかける。
この呼びかけが放射能災害から全世界の市民の命と健康と生活を保障する条約を成立させるための基盤となることを確信する。
伊勢市民は市の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第1章 総則
第1条 (条例の目的)
この条例は、原発事故その他の放射能災害の発生から伊勢市の市民及び事故収束作業員の命、健康及び暮らしを守ることを目的とする。
第2条 (定義)
この条例において、次の各号に掲げる用語の定義は当該各号に定めるところによる。
①「放射能災害」とは、原子力発電所事故など、放射性物質が施設外に大量に放出される事故
をいう。
②「事業者」とは、原子力発電所等を所有し、放射能災害を発生させた事業者をいう。
③「放射能汚染地域」とは、放射能災害で放出された放射性物質により汚染された地域のことをいい、その区分は第8条に定めるものとする。
④「汚染地域住民」とは、放射能汚染地域に住居を定め、居住する市民をいう‥‥略‥‥
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7275 :180117〕
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