これぞ未曾有の「適材適所」
- 2018年 2月 18日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
何を失礼な。
未曾有をミゾユウと読んだ私だから、「適材適所」の意味が分かっていないのではないかって? 私だって、学習院を出ている。多少の知識も学問もある。ただ、生来の奥床しさから、普段は深く蔵してひけらかさないだけのこと。
中国の「清国行政法汎論」なる書物に、「適才適處」という用法が見えるそうだ。「才」とは、特別の才能もった人物のこと。その才能を生かすよう、官において、しかるべき地位・任務に配置する。これが語源のようだ。日本では、家屋の建築に際して数多い材木の種類から適材を選定して、その用途に適した使い方をすることから転じて、人材の用い方にも「適材適所」を使うようになったと心得ている。
佐川宣寿を国税庁長官に任命したことは、明らかに適材を適所に配した素晴らしい人事。いったいどこに問題がありますか。彼は、まぎれもなく「適才」ですよ。理財局長時代の国会答弁を見れば、誰の目にも明らかじゃないですか。「森友学園」への国有地売却問題に関して、あれだけ頑張った虚偽答弁。才能なくしてできることではない。その異能の才を配するに、国税庁長官は適材適所というにピッタリ、他の言葉では形容できません。
この佐川という人物。自らのプライドの保持などというケチなことを考えず、ひたすらに最高権力者の意向を忖度して、そのボロを隠すために言いつくろう、その見上げた役人魂。それこそ、尊敬に値する自己犠牲の精神。滅私奉公のお手本。論功行賞において適切にこれに報いることこそ、我が国の官僚組織を政権への忠誠に結びつける鉄則ではありませんか。
おそらく、彼も国税庁長官という職を引き受けることには、抵抗もあり葛藤もあったでしょう。彼なりに苦しかったとは思いますよ。しかし、やはり大したお人だ。納税者一揆とか、納税者の苦情爆発という世論を重々承知で、「適所」に落ちつかれた。世論の反発というごとき些事を意に介さずに、国家と政権の大義に生きようというその精神。見上げたものではありませんか。
よくお考えください。佐川宣寿が身を捨てて守り抜いたのは、首相と首相の妻ですよ。政権トップの明らかな政治私物化という最悪のスキャンダルを救ったのは彼なんです。ただ同然の国有地払い下げ。これが背後に首相夫妻なくしてあり得ないことは常識でお分かりでしょう。彼は、このことを隠蔽したというだけではない。「記録はない」「記憶もない」の一点張りで、権力犯罪を隠蔽して握り潰すというその豪腕というべき手法の確立こそが、彼を「適材」という所以ではありませんか。
いやこの「適材適所」には、それだけではない深い意味があるんですよ。彼を国税長官に据えれば、当然に納税者からの反発がある。徴税行政に支障だって考えられるではありませんか。そのくらいのことが分からぬ私ではない。でもね、そうなりゃそうなったで、なかなか面白いことではありませんか。
佐川はね、獅子身中の虫でもあるんですよ。その意味では、「『敵』材『敵』所」なのかも知れない。納税者の叛乱が安倍政権の命取りになれば、ポスト安倍に私がキングメーカーとして動く余地が大きくなる。佐川が世論の反発を押さえ切ったら上司である私の手柄にする。反対に世論につぶされたら、痛手をこうむるのは安倍政権ということ。わたしの立場としては、どちらでもよいのですよ。そういうことを可能にするのが、佐川宣寿の適材適所。お分かりかな。
(2018年2月17日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.2.17より許可を得て転載
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〔opinion7372:180218〕
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