「忍び寄るファシズム」の足音に耳を澄まして!
- 2018年 9月 2日
- 時代をみる
- ファシズム加藤哲郎
2018.9.1 政治支配の究極は、時間と空間の支配です。時間と言えば選挙やイベントの日程、首相の任期、祝祭日の制定、労働時間の上限等が浮かびますが、究極は暦日の支配です。太陰暦から太陽暦、自然の時間から時計の時間へ、教会の鐘から工場の機械時計へ、農業のリズムから工業のリズムへという近代化・西欧化の動きに合わせて、時間支配の様態も変わってきました。ITによるデジタル時間化は、グローバリズムの「24時間たたかえますか」、瞬間芸によるカジノ資本主義・金融マネー支配を創り出し、空間も、古典的なイエ・ムラ・ローカル社会から、近代的な国民国家と領土・国境、帝国と植民地、今日のグローバル市場と人種・民族を含む重層的国際関係の世界へと、広がってきました。そんな時代に、しかもファシスト安倍晋三が長く権力者となった時代に、西暦より天皇代替わりによる新元号、オリンピックのためのサマータイム設定といった、バックラッシュが出てきました。
そもそも象徴天皇制自体が、 第二次世界大戦の勝者である米国によるスムーズな占領支配のために、基本的人権・民主主義・平和主義の憲法とのバーターで認められた、世界システム上の時間的・空間的「仕切り」です。 それは日本国憲法がまがりなりにも機能していた20世紀後半には、昭和天皇の戦争責任や核兵器廃絶が国内外で自由に議論される限りで、68年明治100年、79年元号法制化後も公論の対象となってきました。昭和天皇の死とソ連崩壊、99年国旗国歌法あたりから、日本会議主導のファッショ的国民運動に乗って「仕切り」が高くなり、言論・メディア界を侵食し、新たな菊タブー、教科書・靖国・慰安婦問題などでの戦前回帰・近隣諸民族蔑視、ヘイトスピーチとフェイクニュースの温床となってきました。これに、日米安保を日米同盟に格上げした自衛隊海外派遣、新安保法制、特定秘密保護法、国家安全保障会議(日本版NSC)法、省庁再編・内閣府肥大化・官邸権力集中私物化がオーバーラップし、中国や北朝鮮を仮想敵とした「新たなる戦前」が 、体制的に確立しました。先日ETV特集で放映された「治安維持法ーー自由はこうして奪われた」の時代再来の足音が聞こえます。無論、安倍晋三内閣の出現がメルクマールで、米国トランプ政権のいうメキシコ国境にならった高い国境、ナショナリズムの「仕切り」壁を構築しつつあります。ただし選択的で、低賃金外国人労働者や訪日観光客は歓迎しますし、アメリカに対してだけは無条件従属ですから、20世紀日独伊枢軸型の戦前回帰ではありません。象徴天皇制と同調的世論に支えられた、「忍びよるファシズム」です。「アベノミクス」経済下の格差拡大・福祉縮減・地方疲弊・原発再稼働、地震・台風・豪雨対策の不作為も、まやかしの経済統計と若年労働市場就職率にごまかされて、米中関係基軸のグローバル市場再編の動きから隔離・隠蔽され、「アベ・ファースト」に呑み込まれています。
「ファシズムの初期兆候」は、いたるところに見られます。今や国際環境が変化した「北朝鮮の脅威」を口実に、当初1基800億円といわれた防衛省の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・ アショア」2基が5000億円近くにふくれあがって、アメリカから購入されそうです。防衛費の概算要求は過去最大の5兆 2986億円。9月自民党総裁選の争点は、日本会議起源の安倍首相自衛隊明記早期改正案と石破茂の憲法9条2項改訂本格改正案に設定され、日本国憲法改正・国民投票実施の圧力が強まることは、まちがいありません。世界的なme too 運動から隔離された構造的女性差別も、財務官僚トップのセクハラや杉田水脈議員の「LGBTは生産性がない」発言と共に、うやむやにされそうです。何よりも、7月までの政局・国会論議で大きな問題だったウソ・偽りの森友・加計学園疑惑が、「アベ・ファースト」の検察捜査と マスコミ操作によりスルーされ、自民党総裁選に「正直、公正」スローガンで出馬した極右核武装論者・石破茂に対して、自民党選管が「アベ・ファースト」でマスコミに圧力をかけ、 ネトウヨは「サヨク」と批判・攻撃する倒錯、文科省官僚の東京医科大「裏口入学」疑惑さえ、野党攻撃と反アベ勢力狩りに利用される不条理、そして、民間企業に法的規制・罰金さえ義務づけながら、官庁・自治体では水増し雇用が恒常化していた障害者雇用促進法執行の無法・無責任。この国では、初期兆候の「身びいきの横行と腐敗」が、文化・スポーツ界にまで広がっています。そして本土からの差別を一身に受けてきた南の沖縄では、「オール沖縄」を一身で体現してきた翁長雄志知事の急逝で、政府の辺野古新基地建設計画への反対派の「壁」が崩壊寸前、翁長知事の「遺言」により後継候補が決まりましたが、本土の野党第一党・立憲民主党の支持率も低迷ですから、「オール野党」が「オール沖縄」たりうるか、予断を許しません。北の北海道では、20世紀優生学・優生思想を体現してきた旧優生保護法の強制不妊手術が突出して全国一だった過去が明るみに出て、アイヌの人権差別や旧731部隊との関係まで問題にされたのに、政府の対応は「当時は適法だった」という逃げの対応。95歳の元ナチス看守を国外追放にしたアメリカと比べても異様な、歴史認識と人権思想の貧困、人間性と倫理の頽廃です。 そこに、新しい天皇即位・改元と首相が「天皇陛下万歳」を叫ぶ神道儀礼、翌年東京オリンピックに、サマータイムばかりでなくボランティアという名の学徒動員の悪夢。「仕切り」はいっそう高くなり、従わない者は「非国民」にされそうです。
「忍びよるファシズム」は、歴史を歪曲し、記録や証言を隠蔽・改竄します。 昭和天皇の戦争責任への執着を記録した小林忍の侍従日記は西暦で書かれていましたが、産経新聞は年号を元号に直して「原文のまま」と報じました。財務省のあからさまな公文書改竄を受けた、経産省の管理対策は、省内記録に「個別の発言まで記録する必要はない」「政治家の発言は記録に残すな」というものでした。古くは沖縄返還時「核密約」のように半世紀以上隠される事例がありましたが、防衛省の自衛隊「日誌」隠蔽も、首相官邸の訪問者名簿抹消も、同じ体質です。政府広報と公営放送で頻繁に報じられる安倍首相とトランプ大統領の首脳会談の内容も、北朝鮮問題でも経済摩擦でもいかに粉飾されごまかされてきたかは、「パールハーバーを忘れない」とさえ脅されたという最近の米国紙報道で、暴かれたばかりです。北朝鮮との接触も、外務省の関与しない水面下の諜報機関レベルで進められているとも、報じられました。日本のマスメディアの統制・退廃と、NSC・内調のインテリジェンス諜報が、「アベ・ファシズム」の基軸なようです。9月は、旧満州731部隊の足跡を追って、中国東北部の調査旅行です。『「飽食した悪魔」の戦後』『731部隊と戦後日本』(共に花伝社)の延長上で、旧満鉄関係の跡地もたどります。その一端は、10月明治大学アカデミーの秋の連続市民講座「731部隊と現代科学の軍事化」 で、報告する予定です。10月3日から5回、毎週水曜日午後5時ー6時半で、ウェブでの受付も始まっています。有料ですが、 ご関心のある方は、ぜひどうぞ。今夏私が協力した出版・新聞記事、エッセイ「バクーとゾルゲ」、「太田耐造関係文書」と毎日新聞「ゾルゲ事件の報道統制」、毎日新聞「大正生れの歌」、週刊金曜日「戦後保守政権の改憲動向」、新潟日報の旧海軍「特別年少兵」、それにアケルケ・スルタノヴァさん『核実験地に住む』読書人書評等を、アップしておきます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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