トランプ政権のUNRWA拠出金完全停止に抗議する ―数々の国際的責任放棄の中でも最悪
- 2018年 9月 5日
- 評論・紹介・意見
- トランプパレスチナ坂井定雄
米国のトランプ政権は、現在約530万人のパレスチナ難民の教育と医療、貧困家庭への支援活動をしているUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金の全額停止を発表した。米国の拠出額はUNRWAへの各国からの年間拠出金12億4千万ドル(2016年)の約3分の1を占める3億6千万ドルで、難民支援の事業は大きな打撃を受ける。UNRWAのグンネス主席広報官によると、まず現在難民の子どもたち52万6千人が毎日通学しているUNRWA経営の学校の、教員給与が支払えなくなる。さらに170万人の貧しい難民への食糧支援が打撃を受けるという。
UNRWAは、第2次世界大戦後、47年11月に、米国が中心となって実現した国連パレスチナ分割決議、48年5月のイスラエル建国、その翌日に始まった第1次中東戦争、イスラエルによるアラブ領土の広い地域の占領とアラブ人(パレスチナ人)住民の追い出し・難民化への対策として、1949年の国連総会決議で設立された。この歴史的経緯、アラブ諸国とパレスチナ人の敵意を抑え、イスラエルの安全を支援するために、以後米国はUNRWAの事業を支えるために経費のほぼ3分の1を負担してきたのだ。
国連パレスチナ分割決議では、歴史都市エルサレムを国際管理都市と決定、実情は同市の東側とヨルダン川西岸地区をヨルダン、西側をイスラエルが支配した。その後、1967年の第3次戦争でエルサレム東側とヨルダン川西岸地区をイスラエルが占領、東西エルサレムを統一首都と宣言した。
しかし国連は、イスラエルの占領・併合を認めず、あくまでパレスチナ分割決議に基づいてエルサレムを国際管理都市とする立場を貫き、米国も大使館を第2の都市テルアビブに置いたままだった。
だが昨年1月にスタートしたと米国のトランプ政権は、支持基盤のキリスト教福音派、ユダヤ人勢力など親イスラエル勢力に同調。イスラエルの首都としてエルサレムを認めることを宣言、5月には大使館のテルアビブからの移転を強行した。
そしてこんどは、米国が運営費の3分の1を負担してきたUNRWAへの拠出金を全額停止したのである。
トランプはSNSで、UNRWA支援の全面停止の理由としてー
1. 米国の負担の割合が極めて多すぎる
2. パレスチナ側は、和平交渉を拒否している
―をあげた。1については、上記の通り、1947年の国連パレスチナ分割決議以来、米国が担ってきた責任と大きな発言権、そしてイスラエルの安全保障のために必要だと、米国自身がみなしていたからだ。そのために歴代の米政権は、UNRWAへの財政的支援を止める、あるいは大幅に減額しようとはしなかった。
2については、トランプが女婿のクシュナー大統領上級顧問のまとめた和平案で交渉するよう、イスラエルとパレスチナ自治政府に要求していることを米国メディアが伝えている。そのポイントは、イスラエル占領下の東エルサレムとヨルダン川西岸地区の3分の1ないし半分近くをイスラエル領として承認し、パレスチナ側は西岸の残りの地域とガザを領土として国家を樹立し、パレスチナ紛争を最終的に解決するという案だという。この解決案は公表されていないが、イスラエルは異議を唱えず、パレスチナ側のアッバス議長は明確に拒否を表明している。
このような、パレスチナ側が明確に拒否し、交渉するはずが絶対にないことを知りながら、トランプはUNRWAへの拠出全面停止の理由にしたのだ。
ここまで、だれもが知っているパレスチナ問題の経過を、改めて書いたのは、第2次大戦後の世界で担ってきた、また、それによって最大の利益を受けてきた米国の責任を、トランプ政権が放り出したことの、重大な犯罪性を確認するためだ。米国の責任放棄によるパレスチナ人たち、とくに子供たちと極貧層への打撃がどれほど深刻なのか、本当に心配だ、まさか、トランプに世界一追随している安倍政権下の日本も、パレスチナ支援については、大丈夫だろうと願い、維持以上に一部でも米国減額分の肩代わりを求めたい。それ以上に、サウジアラビアはじめアラブ産油国にパレスチナ支援の強化を要求する。(了)
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