外交は四面楚歌、内政は唯我独尊でも盛者必衰の安倍内閣
- 2018年 10月 2日
- 時代をみる
- アベトランプ加藤哲郎
2018.10.1 ニューヨーク国連総会・首脳会談での日本の首相、国内メディアでは、おおむね米国の自動車関税圧力を逃れて好評ですが、外から見ると、醜態です。トランプ大統領の総会演説は、各国首脳ら満員の聴衆の 失笑を買いました。「2年足らずで、現政権は米国の歴代のほぼ全ての政権よりも多くのことを成し遂げた」 という国内支持者向けの自慢話が、全然通じなかったのです。パレスチナ問題、イラン問題ではイギリスを含む欧州首脳に非難され、目玉の北朝鮮とのトップ会談も、初の安保理議長なのに貿易戦争中の中国と対立するばかりで国際的評価を得られず。そのトランプと、唯一うまくいっているはずの日本の安倍首相は、外務省HPの作文通りに読んだはずなのに、聴衆は例によってまばら、昨年はトランプに乗って北朝鮮への「圧力」一辺倒で忠犬ポチといわれたのに、今年はトランプに合わせて「北朝鮮との相互不信の殻を破り、新たなスタートを切って、金正恩委員長と直接向き合う用意」と言っても他力本願。「自由貿易の旗手」の大見栄は切っても、トランプとの日米会談では兵器購入の密約と農産物での譲歩、自動車関税を先送りし「日米物品貿易協定(TAG)」という新語を造ったつもりが、世界のメディア にはFTPと翻訳される始末、TPP交渉以上の難題を、米国からつきつけられることになりました。おまけに聴衆が少なくて話題にもされませんが、公式の国連総会演説で日本語の「背後」が読めず「せいご」と誤読して、ちゃんとルビをふらなかった外務省が恥をかく始末。かの「云々=でんでん」以来の基礎学力の無知を国際舞台でさらけ出しました。ロシアのプーチンからは領土問題抜きでの平和条約を提案され一言も返せず、北朝鮮との拉致問題では韓国文大統領の蜜月とは対照的な無為無策。近い将来に必ずやってくる中国GDPのアメリカ越え、米中逆転。日中首脳会談を10月に控えた安倍晋三は、歴史の長期的見通しを持てず、中間選挙対策のディールにうつつを抜かすトランプに寄り添って国際社会の嗤いものになり、四面楚歌です。
それでも内政では、自民党総裁選に勝利して、安倍晋三はさらに3年トップに居座ることができ、歴代宰相最長記録を射程に収めました。あすの内閣改造でも、総裁選で自分を支えたオトモダチは基本的に据え置き、反逆の意を示した者は閣外に追い出して、脛に傷持つ汚れ議員でも、日本会議の本音を漏らした口下手議員でも、安倍3選の論功行賞で、何らかの肩書きを得るかたちです。 もっとも派閥・利権・党公認・メディア支配で「安倍圧勝」を演出したにもかかわらず、党員票では28万6000票 、現職国会議員でも73人の「不届き者」が出てきて、天上天下唯我独尊のパーフェクト・ゲームは逃しました。国連総会での外交音痴と醜態をクールに見る議員や支援者も出てきます。挙げ句の果てが、内閣改造から憲法改正への号砲とするはずだった沖縄県知事選での与党支持候補の大差での敗退、自民党支持層の2割以上、公明党支持層の3割近くが、米軍基地辺野古移転への反対の意思を示しました。無党派層の7割と女性の6割が玉城候補支持といいますから、来年の参院選に向けて、深刻です。天皇代替わり、東京オリンピック、そして悲願の憲法改正への筋道に、陰りが見えてきました。驕れる者久しからず、盛者必衰の理は、安倍ファシズムでは、どのように展開するのでしょうか。もっとも安倍の唯我独尊を演出し、綻びを隠蔽してきた情報戦、マスコミの押さえ込みとネトウヨや御用学者・ジャーナリスト飼い馴らしは健在です。公共放送で政治ニュース・国際ニュースを 小さくし、災害報道やスポーツ・芸能ニュースで 訓育する手法は定着しました。民放テレビのワイドショーのコメンテーターを変えたり、安倍批判の発言・言論を極小化する手法には、企業の幹部人事やスポンサーの圧力を使うようです。東京オリンピックへの国策動員、ボランティアへの学徒動員も、粛々と進められています。
唯我独尊権力への反撃は、来夏の参院選までは、国会審議やメディアを通して消耗戦が続くでしょう。世論と文学者の抗議でようやく決まったLGBTをめぐる「新潮45」の休刊は、その端緒です。イギリスBBCが情けない日本のメディアに代わって放映した伊藤詩織さん事件、アメリカでは最高裁判事任命をめぐって攻防が始まった性暴力とMe Too運動の世界的高揚、マレーシア・マハティール首相の日本国憲法9条支持発言、こうした「外圧」風の正論、世界の常識を、閉鎖的な若者にちゃんと伝えるメディアの工夫が必要です。国内でも、モリカケ問題や原発再稼働、オスプレイの危険を持続的に追及すれば、糸口がつかめるはずです。私は、731部隊の細菌戦と人体実験を引き続き追いかけ、旧優生保護法の強制不妊手術の問題につなぐ回路を、西山勝夫編・731部隊『留守名簿』(不二出版)の「長友浪男」軍医少佐の解読から見つけました。10月の明治大学アカデミー連続市民講座「731部隊と現代科学の軍事化」 から、講演等でも問題提起を始めますが、安倍政権を危惧する市民の一人一人が 、それぞれの場で考え、いろいろなかたちで告発し表現していくことが、 政治の刷新につながるでしょう。群れる必要はありません。持続的な抵抗の意志こそ、驕れる権力の基盤を掘り崩し、新たな公共性構築への通路を拓くでしょう。新学期です。今夏私が協力した出版・新聞記事、エッセイ「バクーとゾルゲ」、「太田耐造関係文書」と毎日新聞「ゾルゲ事件の報道統制」、毎日新聞「大正生れの歌」、週刊金曜日「戦後保守政権の改憲動向」、新潟日報の旧海軍「特別年少兵」、それにアケルケ・スルタノヴァさん『核実験地に住む』読書人書評等を、アップしておきます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4462:181002〕
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