安倍首相の演説をじっくりと読んでみました
- 2018年 10月 26日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
安倍首相の演説をじっくりと読んでみました。 聞くだけなら、誤魔化されるから、です。
何をか、と言いますと「第百九十七回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説」です。
首相は、最初にノーベル賞を受賞された本庶佑特別教授を引き合いに出されます。 何と、教授に学び、「これまでの『常識』にとらわれない、全く新しいアプローチ」を取ることを宣言されるのです。
何に対してか。 「新しい日本の国創り」に対して、と首相は高らかに宣言されます。
そしてそれが何を意味するのか、と言いますと、突如として、「強い日本」と断定されます。 加えてそれが意味する処は、「激動する世界を、そのど真ん中でリードする日本」と定義されます。
勝手に定義された目標に向かって猪突猛進宣言をされて、国民に向かって突撃するように煽られるのです。
私は、何時か来た道に連れて行かれる無知蒙昧な国民ではありませんので、嘗ての「聖戦」を煽られて死屍累々の道に連れて行かれるのは願い下げなのです。
それに世界の科学者総数に占めるノーベル賞受賞者の数を比較すれば、殆どの科学者が披歴すべき実績をノーベル賞選定者に認定されていない事実を認めない訳には参りません。
ここは、如何に功利的と言われようとも、「最大多数の最大幸福」を目標に国民の大多数に幸せを齎す政策を掲げて頂きたいものです。
それに、安倍首相に、突如として「強い日本」と言われますと、どうしても軍備を整えて世界に覇権を、と言われているような恐ろしい意味合いがします。
次に、首相は、「強靱(じん)な故郷(ふるさと)」と此処でもやはり「強さ」に拘りを持たれます。 何に対してか、と言いますと、「国土」です。
次から次とあの「土建国家」の再来の如く、建設事業の名目を掲げられるのですが、「土建」のみでは無いのが今世紀風なのです。 でも心配になります。 予算はあるの? と。 それは、日銀の財布、と言われるのでしょうか。
お次は、「地方創生」です。 この国の中央集権を物語る如く、官僚機構が取り纏められた地方で一応表面的には成功している事例を散りばめられて「地方創生」を高らかに宣言されるのですが、統計的には存在そのものが無くなる地方自治体が多数なのは御存じなのでしょうか。
一例を挙げれば、少子高齢化の下では、過去に新興住宅地として栄えた街々が買物難民や医療難民、それに行政難民化する時代が直ぐそこにあるのです。 それは、国の持家住宅政策に原因があり、また都市整備政策、それも根本的には、地方自治制度改変の方向が間違っていたからです。
誤謬を認めずしては、地方創生も有り得ないのです。
最後の項目である「四 外交・安全保障」では、よく言うね、と嘆息せずには居られません。
例えば、対北朝鮮で「私自身が金正恩委員長と向き合わなければならない」と言われますが、首相が拉致問題を最重要課題と位置づけられても、相手が別問題を想定されていることは明らかなのです。
また、対ロシアでは、「プーチン大統領との信頼関係」を言われますが、私には、大統領には首相に対する信頼は無いように思えます。 それが証拠に領土問題では済し崩しに経済協力が先決になりました。 それで良いのでしょうか。
対中国では、「日中平和友好条約締結四十周年の節目」を持ち出されますが、されていることは、米軍のB52爆撃機との演習を航空自衛隊が中国牽制の目的を持って実施しているように現実と言葉との間に齟齬が見られる訳であり、中国としては猜疑心を持つのは当然の成り行きです。
米国との関係では、トランプ大統領が明言されたように、真珠湾の如く攻撃され続ける米国としては、自由貿易の成り行きに異議を唱えざるを得ず、その行く末には暗雲が垂れ込めている今日であり、同時に米国製武器のセールスマン化された大統領に大量の米国製武器を押し売りされる危険がある、と言わざるを得ませんし、事実、賞味期限切れの武器の纏め買いをされたばかりでしょう。
首相がいくらTPPを云々されてもトランプ大統領は、俺は、知らない、と明言されるでしょうし、世界のリーダーでは無くて、俺は米国のリーダーだ、と言われるでしょう。 そう御自身が書かれています。
首相の空虚な言葉にお付き合いをするのが面倒くさくなりました。 それに後は美辞麗句に過ぎません。 読者の皆様は如何にお読みになるでしょうか。
ただ、一つだけ付加します。 憲法は、「国の理想を語るもの」ではありません。 憲法は、国の成立ちと国民の権利を実質から定める極めて現実的な取り決め、契約文書です。
第百九十七回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説 首相官邸 平成30年10月24日
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement2/20181024shoshinhyomei.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8108:181026〕
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