立憲主義と共に権力分立を対抗原理に!
- 2018年 11月 3日
- 時代をみる
- アベトランプ加藤哲郎
2018.11.1 アメリカの中間選挙投票が、11月6日に迫りました。 どのような結果になっても、国際情勢への影響は甚大です。ブラジルで、トランプ風の極右ポピュリスト政権が誕生しました。21世紀の初頭、グローバリズム下の経済発展のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一翼で、政治的にも、ルラ労働者党政権が存在感を示し、WEF(世界経済フォーラム、ダボス会議)の新自由主義的グローバリズムに対抗した「もう一つの世界は可能だ!」のWSF(世界社会フォーラム)総会は、ブラジルのポルトアレグレで開かれていました。それが経済的に停滞し、富裕層の不満も高まったところで、「ブラジルのトランプ」のバックラッシュが生まれました。中南米全体でも貧富の格差が増大しており、一部のアメリカへの移民キャラバンがメキシコへ。トランプはこれを選挙用に最大限利用し、1万5千人の軍隊をメキシコ国境に。ドイツでは移民・難民に寛容だったメルケル首相が州議会選連敗で党首を辞任、 EU全体の移民政策に暗雲です。トランプは、冷戦崩壊の一里塚となったINF(中距離核戦力)全廃条約からの脱退を表明しました。核大国ロシア、中国との軍事的対決も辞さない、核軍拡への転換です。そして、中東ではトランプの得意先サウジアラビアがトルコ国内で批判的ジャーナリストを暗殺、第一次世界大戦を導いたような危険な火種が、地球上の各所で、広がっています。
前回指摘した「日米物品貿易協定(TAG)」について、ようやく開かれた国会で、安倍首相は苦しい答弁をしています。自由貿易協定(FTA)についてもよくわかっていないらしく、官僚の作った作文をひたすら棒読み。所信表明演説には、案の定、「IoT、ロボット、人工知能、ビッグデータ。第四次産業革命のイノベーションを取り入れることで生産性の向上につなげます。その活用を阻む規制や制度を大胆に改革していきます」「相互不信の殻を破り、拉致、核、ミサイルの問題を解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交正常化を目指します」「私とプーチン大統領との信頼関係の上に、領土問題を解決し、日露平和条約を締結する。日露新時代を切り拓いてまいります」と美辞麗句と「理想」を散りばめながら、「日本と米国は、戦後一貫して、強固な同盟国であるとともに、経済大国として、世界の自由貿易体制を共に牽(けん)引してきました。この土台の上に、先月、日米物品貿易協定[TAG ]の交渉を開始することで合意しました」という嘘八百。その上で、「国の理想を語るものは憲法です。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、できるだけ幅広い合意が得られると確信しています」という、立憲主義への挑戦と改憲への前のめり。 消費増税と言い、外国人労働者受入拡大と言い、国民生活の実態を知らず、人権感覚が欠如しての暴走ですから、どこかでブレーキをかけなければなりません。高市早苗議運委員長が国会冒頭で野党に示し猛反発された法案審議の「改革案」が、ヒントになるでしょう。要するに、安倍首相とその取り巻きの徒党は、「権力分立」という民主主義の基本原理がわかっていないのです。いやわかっていても、国会も裁判所も内閣に従属させて首相に 権力を集中したいのです。「立憲主義」と共に「権力分立」を、安倍ファシズム化への対抗原理として、掲げなければなりません。無論、「第4の権力」、メディアとジャーナリズムの自立と再生も。
例えば、前回紹介した政府の将来計画の中核にある「Society 5.0」、首相の所信表明演説にも、「IoT、ロボット、人工知能、ビッグデータ」と、政府公報の①IoT(Internet of Thingsの略、あらゆるモノがインターネットに接続される世界)、② ビッグデータ(大量・多種多様・高頻度といった特徴をもつデータ)、③ AI(Artificial Intelligenceの略、人工的に作られた人間のような知能)、④ ロボット(センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する知能化した機械システム)が多少順序を変えて登場しました。これは、少子高齢化社会対策や新交通システムなどバラ色の「スマート社会」として、一見個人化や分散社会・循環社会を想定した多元的社会統合としてデザインされていますが、ここに「権力分立」ではなく「権力集中」が入り込むと、すべての個人情報が権力に把捉された「一億総監視社会」のディストピアになります。しかもそれは、いたるところに張り巡らされた監視カメラ、マイナンバー・法人番号にSNS、クレジットカードからスマホ決済まで、少なくともインフラは、確実に広がっています。そこに、エドワード・スノーデンの警告するアメリカのエシュロンやNSA(国家安全保障局)の世界監視網、「ファイブアイズ」や「PRISM」がオーバーラップすると、もはや自由も人権もなく「相互監視」が行き渡った超監視社会、あのオーウェル「1984年」に近づきます。産学協同・軍学協同から軍産学複合体が完成します。そこに集中した権力が、共謀罪やプレクライム、フェイクニュースやヘイトスピーチをインプットすると、治安維持法から戦争へと向かった時代に、逆戻りです。「権力分立」がなければ、20世紀全体主義の再来です。
「第4次産業革命」「Society 5.0」が「権力集中」のもとで進められると、知と思想の世界も、一元化へ向かいます。社会科学・人文科学の軽視、科学者・技術者・学生たちの戦争動員への道につながります。私自身は、「科学技術の軍事化」の危機感から、731部隊の細菌戦と人体実験を引き続き追いかけ、旧優生保護法の強制不妊手術の問題につなぐ回路を、西山勝夫編・731部隊『留守名簿』(不二出版)の「長友浪男」軍医少佐の解読から見つけました。10月の明治大学アカデミー連続市民講座「731部隊と現代科学の軍事化」は無事終了しましたが、11月17日(土)の八王子講演、12月16日(日)戦医研例会・東京大学講演 などで、問題提起していく予定です。なお、11月10日(土)には、多磨霊園ゾルゲ・尾崎墓前祭・記念講演で、「太田耐造関係文書」と毎日新聞スクープ「ゾルゲ事件の報道統制」について話す予定です。 いずれも公開ですから、ご関心の向きはどうぞ。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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