イギリスは悲惨な混乱を避けて欲しい
- 2019年 2月 28日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
国民的スターを出迎えたグズマン夫妻
知らなかったのはわたしぐらいだけだったかもしれませんが、知ってちょっとびっくりしました。2015年3月に離婚したシャナナ=グズマン氏とクリスティさん(*)が縒りを戻していたのです。新聞『東チモールの声』(2019年1月3日)に、ポルトガルの歌番組で優勝した東チモール人女性歌手を「シャナナ=グズマンと妻のクリスティ」が空港で出迎えたと書かれていた記事があったので、おやっ、あの二人は離婚したのではなかったの?と疑問に思い、東チモール人に尋ねてみると、周囲に説得されて2017年12月ごろに二人は縒りを戻したのだそうです。子どものことを考えてのことだといいます。他人様の夫婦関係なのでどうでもよいとはいえ、「東チモールだより第297号参照」でこの二人が離婚したことを書いた関係上、縒りを戻していたことを一言添えておきます。
(*)英語読みすれば「カースティ」だが、東チモールでは「クリスティ」が一般的なので、それに従うことにする。
新聞記事の写真
『東チモールの声』(2019年1月3日)より。
「東チモールの国民的英雄マルビ、シャナナが直接出迎える」。「ディリ:国民的歌手のマリア=ビトリア(マルビ)は、黄金の・美しい・味わいある声で、再び海外の目をチモールに向けさせた。ポルトガルの音楽コンテスト番組『ポルトガルの声』で日曜日、優勝したのである」。「2019年1月2日、指導者シャナナ=グズマンと妻のクリスティが、第8次立憲政府のネリオ=イザック青年スポーツ庁長官とテオフィロ=カルダス芸術文化庁長官ともにニコラ=ウロバト国際空港に12時に到着し、国民的歌手マリア=ビトリアを出迎えた…」。
この記事でわたしはつい「シャナナ=グズマンと妻のクリスティ」という記述に注目してしまったが、注目すべきは戦争を知らない新世代の東チモール人・マリア=ビトリアさんの活躍だ。マルビさんはまだ10代の女の子。最初、インドネシアの歌番組で活躍し、一躍東チモールのスターになり、そして今度はポルトガルの歌番組で優勝した。御多分に洩れず、スターの宿命か、その後、女性マネージャーの解雇問題が大きく報道された。
シャナナ=グズマン氏とクリスティさんの並んだ報道写真を目にすることがなかったので、二人が夫婦に戻ったことは1年以上も気が付きませんでした。去年2018年5月に実施された「前倒し選挙」の選挙運動期間中、二人はすでに夫婦に戻っていたわけですが、この二人が揃って選挙運動会場に現れた写真や映像を少なくともわたしは目にしませんでした。シャナナ=グズマンAMP(進歩改革連盟)議長が精力的に選挙運動をしていたとき、妻のクリスティさんはAMPを応援せず、息子が所属する東チモール選抜サッカーチームの応援をしていたとのことです。なお離婚した当時、クリスティさんは乳ガンを患っていましたが、早期発見のおかげで現在普段どおりの生活をしているようです。東チモールのスーパーマーケットなどの出入り口に乳ガンの早期発見の啓発活動をする基金への募金箱が設置され、クリスティさんのポスターが寄付を呼びかけています。
イギリスへ渡ったロザさんに幸あれ
わたしの知り合いのロザさんがイギリス行きを目指していることを「東チモールだより第383号」で書きましたが、彼女はその後、去年10月、念願叶ってイギリスへ渡たりました。
ロザさんはインドネシアへいったことがあるので海外旅行は初めてではありませんが、東チモール→バリ島→シンガポール→ロンドンという長い一人旅となると初体験でした。ロザさんと電話で話した東チモール人の知人などによれば、ロザさんは現在、一足先にイギリス入りしていた姪と一緒にマンチェスターに近い町にアパートで暮らし(東チモール人が多く住む場所らしい)、食品会社で野菜加工の仕事をしているとのことです。仕事はフルタイムなのですでにお金が貯まりはじめ、ロザさんはいま満足しているといいます。慣れないイギリスの外気の冷たさには、「外でも冷えるとはよく効くエアコンだこと」といって姪に笑われたそうです。このような話を故郷の仲間に電話で話すロザさんの顔を想像するに、イギリスでの生活に充実感を覚えている様子がうかがえます。恙無く、たくさん働き、たくさんお金が貯まりますように!
現在、ロザさんの次女・セレーナちゃん(東チモールだより第28号で登場、2006年[東チモール危機]の混乱した状況下であっけらかんとしていた希望の光)はインドネシア領西チモール・クーパンの高校で勉強していますが、高校を卒業したらセレーナちゃんをイギリスに呼び寄せたいとロザさんは考えているとのことです。念願のイギリス生活が叶っても子どもたちと離れ離れの生活は母親としてやはり辛くないはずがありません。
ロザさんのようにイギリスで働いているポルトガル国籍をもつEU(ヨーロッパ連合)市民としての東チモール人は、3月29日に期限が迫ったイギリスのEU離脱による影響をどのように被ることになるでしょうか。
EUと取りまとめた離脱合意案は議会に否決され、来月3月12日までに修正した離脱合意案がイギリス議会で採決される見込みになりましたが、もし再び否決されたら、「合意なき離脱」となってイギリスは大混乱に陥ってしまうかもしれません。メイ首相が「私欲を脇に置くときだ」とか「好き嫌いは別にして…」などと云えば云うだけ反発されるように、野党・労働党からだけでなく与党・保守党からも離党者が出て、混迷の度合いを深めるありさまでです。EU離脱の賛否を問う国民投票の再実施を求める意見も依然として残り、離脱期限延期もおおいにあり得る話で、先を見通せないイギリス自体が混沌とするなか東チモール人の被る影響などわかる人は誰もいないことでしょう。イギリスがEUを離脱したとして、まさか東チモール人労働者を追い出すことはしないと思いますが、EU離脱による経済への悪影響から外国人労働者が職を失うことは考えられます。
「合意なき離脱」はイギリスを悲惨な混乱に巻き込むとも報道されていますが、それだけは避けて欲しいし、在イギリスEU市民の東チモール人が在イギリスの東チモール市民となったとしても、かれらの権利が十分に保障されることを切に願います。
~次号に続く~
初出:青山森人の東チモールだより 第390号(2019年2月25日)より許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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