話ははっきりさせなければならない。 被曝線量その3
- 2011年 5月 15日
- 時代をみる
- たんぽぽ舎
この間の学校の放射線許容量が大混乱を来している。その間の事情は、週刊ダイヤモンド誌に詳しいが、要は「2007年ICRP勧告の国内法整備が出来ていないうちに重大放射性物質拡散事故が発生したため、ICRP勧告に沿った考えを持つ専門家とそういう考えに反対する専門家が時々で報道で、あるいは国の会議などで個々が勝手な主張をするため、何が正しいか誰にも分からなくなっている」ことが大きかったということ。
勝手な主張の最たるものは「100ミリシーベルトまでの被曝は何の影響もない」というもの。さらに加えて「低線量の放射線は人体に有益」ということを付け加えるものさえいる。
実際のところはその1とその2で述べたとおり低線量の放射線はむしろ直線モデルの影響よりも有害性が高い可能性さえある。
ICRPは、ではどう言っているのだろうか。これについても、人によっては大きなすり替えをしている場合がある。
ICRP2007年勧告においては、「緊急時被ばく状況」から「現存被ばくの状況」という概念を用い、緊急時で逃げ惑うような状況「緊急時被ばく」から、一定の落ち着きを取り戻した、事故収束段階に移行し、その段階で一定の濃度の放射性物質による汚染が残った状態を「現存被ばく」という。
では、勧告本文の重要部分を訳してみる。
この項目は、現存被ばくの基準を勧告している部分だ。
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ICRP Publication 111
P11
(o) The reference level for the optimisation of protection of people living in-contaminated areas should be selected in the lower part of the 1-20 mSv/year band recommended in Publication 103 (ICRP, 2007) for the management of this category of exposure situations. Past experience has demonstrated that a typical value used for constraining the optimisation process in long-term post-accident situations is 1 mSv/year. National authorities may take into account the prevailing circumstances, and also take advantage of the timing of the overall rehabilitation programme to adopt intermediate reference levels to improve the situation progressively.
http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP%20Publication%20111
(o) 汚染地区内に生活している人々の防護の最適化のための基準レベルは、この被ばく状態の区分に関する管理についてパブリケーション103(国際放射線防護委員会2007)で勧告された1~20mSv/年の幅の下の方で選択されるべきです。過去の経験により長期間にわたる事故後の状況で最適化過程を拘束するために使われる典型的な値が1mSv/年であることが明示されています。国の機関は現地の一般的状況を考慮に入れて、そして次第に状態を改善するために中間の基準レベルを採用するため全体的な復興計画の時間を設定することを採用してもよいです。
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敢えて直訳にしているが、これにより、ICRPは「20ミリシーベルトを基準」になどしていないことが分かる。あくまでも1~20の間で「下の方」と言っているから、まともに読めば1~10ミリシーベルトに相当する。原子力安全委員の中に10ミリシーベルトを基準にすべきといった人がいたようだが、おそらくICRP勧告をそのまま適用しようと思ったのかもしれない。
10ミリシーベルトを一般居住の基準とし、10~20ミリシーベルトまでについては、他の項目から推察するに「個人被ばく管理をしたうえで、汚染除去や原状回復などの特定の作業過程において暫定的に居住を認めても良い」とも読める。
もちろん子供の被ばく基準など、この中では一切言っていない。
このどこをどう読めば「20ミリシーベルトまで許容される」と読めるのか。
ICRPの基準さえ逸脱しているのが、今の文科省・厚労省基準なのである。
福島原発震災は、まだ終息さえしていない。従って、「現存被ばく」と呼べる状況にさえなってない。緊急避難を必要としている段階なのだから、むしろもっと厳しい基準を特に乳幼児、子供や妊婦、免疫機能が弱い人たちに対して適用すべきであろう。それは年間1ミリシーベルトを超えてはならないとすべきだろう。
なお、筆者はICRP勧告は低線量被曝リスクを過小評価しており、採用すべきでは無いと考えている。しかしながら現状はICRP勧告さえ逸脱したとんでもない状況なので、敢えてICRP勧告の内容解説を試みた。
その3の掲載が遅くなりました。1,2と合わせお読みください。
(その1は、http://chikyuza.net/archives/9426
その2は、http://chikyuza.net/archives/9405
をご覧ください。-ちきゅう座編集部)
たんぽぽ舎 「地震と原発事故情報 その69 」より転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1407:110515〕
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