2度にわたる〝裏金スクープ〟を放ちながら共産党が後退したのはなぜか、原理主義型政策選挙では有権者の心をつかめない、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その40)
- 2024年 10月 31日
- 時代をみる
- 「リベラル21」広原盛明日本共産党裏金スクープ
石破首相率いる自民党が大敗した。公明党の石井新代表、佐藤副代表も落選の憂き目を見た。自公与党は、拙ブログで紹介した報道各社の情勢分析をはるかに超える惨敗を喫したのである。選挙戦終盤になって共産党の機関紙「赤旗」(10月23日)が放った〝2千万円(裏公認料)スクープ〟が情勢を大きく変えたのがその原因だと言われている。与党幹部や落選した裏金候補者たちは、異口同音に「最後の3日間で情勢が劇的に変わった」と語り、落選候補者たちの口々から発せられた「ダメ押し」「致命傷」「とどめの一撃」といった言葉は、その衝撃が如何に大きかったかを物語っている。
本来なら、赤旗の〝2千万円スクープ〟は、共産党の追い風になるはずだった。ところが、共産はこの追い風を自分の手で捉えることができなかった。党員の高齢化と党勢後退(党員数の減少、赤旗読者数の減少)によって組織が弱体化し、赤旗のスクープを得票に結びつけことができなかったのである。追い風は共産を素通りして立憲や国民の側に回った。目の前で激しいバトルが繰り広げられる小選挙区は、選挙戦の勝ち負けの構図がわかりやすい。スポーツ観戦でも、接戦ともなれば観客は勝負に熱中する。だが、比例代表票の掘り起こしのために小選挙区に立候補した共産新人は、そのほとんどが当落線上からはるか後方に位置していたため、有権者の目には留まらなかった。お陰で立憲や国民は図らずも「漁夫の利」を占めることになり、裏金候補者たちと接戦を繰り広げていた野党候補者が一夜にして有利な立場に立つことになったのである。
共産党中央委員会常任幹部会は10月28日、「総選挙の結果について」を発表した(赤旗10月29日)。以下はその要旨である。
(1)自公両党が「与党過半数割れ」の歴史的大敗を喫したことは、国民が自民党政治に代わる新しい政治を模索し、探求する、新しい政治プロセスが始まったことを示しています。この点に関して決定的な役割を果たしたのは、自民党の政治資金パーティーによる裏金づくりを暴露し、さらに選挙の最中に裏金非公認への2千万円支給をスクープした赤旗と共産党の論戦でした。
(2)小選挙区では沖縄1区の議席を守り抜くことができましたが、比例代表選挙では改選9議席から7議席への後退となりました。比例得票数を直近の2020年参院選と比べると、361万8千票(得票率6.82%)から336万2千票(同6.16%)への後退となりました。
(3)今度の総選挙では、第29回党大会以来の理論的開拓の到達点に立ち、日本共産党の目指す未来社会――社会主義・共産主義社会が「人間の自由」が全面的に花開く社会であることを大いに訴えてたたかう、初めての選挙になりました。これらの訴えが共感を集め、とりわけ若い世代、労働者のなかで新鮮な注目と期待を呼んだことは、来年の都議選・参議院選挙のたたかいにとっても、党の世代的継承を中軸とした党づくりを進めていくうえでも大変重要な教訓だと考えます。
(4)この総選挙での対話・支持拡大は、近年の選挙と比べても半分程度にとどまり、党の訴えを有権者に十分浸透させきれないままに投票日を迎えました。その根本には、わが党の自力の後退があります。ここに総選挙から引き出すべき最大の教訓があり、この弱点の打開はいよいよ緊急で死活的課題になっています。
共産は、今回衆院選の小選挙区で213人の候補者を擁立した(前回衆院選は105人)。立憲をはじめとして野党共闘が成立しなかったために、小選挙区で大量の候補者を擁立して比例得票の拡大を目指した。だが、結果は悲惨なものだった。小選挙区で前回の2倍以上の候補者を擁立したにもかかわらず、得票数・得票率が前回を下回ったのである。これは、共産にとっては衝撃的な結果だったに違いない。これまでの選挙戦術がまったく通用しない事態に遭遇したと言ってもいいが、常任幹部会はその原因をいつものように「地力不足」というだけで、何一つ具体的な説明を示していない。産経新聞(10月29日)は、その結果を次のように報じている。
――27日に投開票された衆院選で、共産党公認で小選挙区に立候補した213人の3分の2に当たる143人の得票が有効投票数の1割に達せず、供託金没収の対象となることが29日、総務省の発表資料からわかった。1人当たり300万円で、総額は小選挙区の立候補者だけで4億2900万円。野党共闘により候補者を絞った令和3年の前回選と比べ、3倍以上の高額となる。共産は前回、立憲民主党、国民民主党、社民党との共闘により小選挙区での野党候補を一本化。全289選挙区の中で擁立を105人に絞り、沖縄1区の赤嶺政賢氏(76)を除き落選した。105人のうち供託金没収の対象は44人で総額は1億3200万円。「没収率」は約42%だった。
共産党の比例得票数・得票率を2020年代に入ってからの3回の国政選挙で比較すると、416万6千票・7.3%(21年衆院選)、361万8千票・6.8%(22年参院選)、336万2千票・6.1%(24年衆院選)と80万3千票・1.2ポイント減少している。この傾向は、ブロック別比例得票数・得票率でみても変わらない。つまり、北海道ブロックから九州沖縄ブロックに至る全国11ブロックのうち、9ブロックが3回連続して減少しており、最大の下げ幅を記録しているのは東京ブロックで、67万票・10.4%(21年衆院選)から49万8千票・7.8%(24年衆院選)へ17万1千票・2.6ポイント減少している(赤旗、同上)。大都市圏とりわけ東京圏が共産の大票田であっただけに、この数字は次期都議選の行方に大きな影を投げかけている。
以前にも書いたが、2021~22年当時は党員26万人余、赤旗読者100万人近くを擁していたにもかかわらず、400万票前後しか得票できなかった。それから党勢は後退の一途をたどっているにもかかわらず、今回の総選挙では目標を6~7割増の「650万票」、得票率は「10%以上」を目指すとしたのである。どんな根拠でそんな目標を設定したのか説明が一切ないが、過去2回の国政選挙の結果を見れば、それが如何に非現実的な目標であるかが分かるというものだ。結果は336万2千票で650万票の半分余、得票率は6.1%で6割余にとどまり、常任幹部会の「この総選挙での対話・支持拡大は近年の選挙と比べても半分程度」という数字と合致している。つまり、党の言う「地力=実力」はこれが限度というものであり、「弱点」を改善すれば伸びるといったものではないのである。この限界を認識しない限り、共産の得票数・得票率はこれからも着実に減少していくことは間違いない。
それからもう一つ、共産の議席減の原因を挙げるとすれば、〝原理主義型〟の選挙政策と選挙戦術の展開が挙げられる。マルクス主義理論の演繹的解釈(の一つ)を「理論的成果」と位置づけ、それを社会主義・共産主義の未来像として選挙政策で打ち出す戦法のことである。常任幹部会は「これらの訴えが共感を集め、とりわけ若い世代、労働者のなかで新鮮な注目と期待を呼んだことは、来年の都議選・参議院選挙のたたかいにとっても、党の世代的継承を中軸とした党づくりを進めていくうえでも大変重要な教訓だと考えます」と自画自賛しているが、果たしてそうだろうか。
朝日新聞の出口調査、年代別の比例区投票先によれば、共産の比例区投票先は18.19歳から30代までの若い世代では全て5%にとどまっている。これに対して国民民主は18.19歳19%、20代26%、30代21%、立憲は17%、15%、15%、れいわは9%、10%、11%を記録しているのである(朝日新聞10月29日)。これら3党では、抽象的な政策論争よりも若い世代が当面する具体的ニーズを重視し、それに即した政策(例えば、国民の「手取り収入を増やす」など)を重点的に打ち出している。口が悪い私の仲間が言うには、「共産は天上の福音」を説き、国民やれいわは「現世利益」を強調する。どちらが若者を引き付けるかは日を見るよりも明らかだと。私が所属する「京都3区」の結果は、次回に譲りたい。(つづく)
初出:「リベラル21」2024.10.31より許可を得て転載
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