いよいよ日本列島のクルーズ化、安倍「ワクチン村」に任せず、いのちとくらしの防衛を![パンデミックの政治4]
- 2020年 4月 2日
- 時代をみる
- パンデミック加藤哲郎新型コロナウィルス
2020.4.1 3月15日にWHOのパンデミック宣言を受けて本サイトを緊急更新しましたが、その際は「世界120ヵ国以上、14万人感染」でした。それから2週間で、ヨーロッパ・アメリカでの感染が爆発し、184か国、757,944人感染、死者も36,674人(3月31日午前4時現在)となりました。ジョンズ・ホプキンス大学調査(4月1日)では、世界の感染者85万人・死者4万人超と報告されています。AFP通信のCOVID-19特集が毎日更新されますが、世界は2週間で一変しています。ドイツのように毎週50万人の大量検査をしても、医療システムが機能し死亡者を最小限にしている国もありますが、イタリア、スペインのように院内感染で医療従事者が身動きできなった国、アメリカのように、そもそも健康保険制度が未整備で、社会的弱者・貧困者・移民労働者が検査も受けられず無防備なまま、感染爆発した国もあります。
iPS 細胞のノーベル賞受賞者・山中伸弥教授は、自ら「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」を立ち上げました。そこに「新型コロナウイルスとの闘いは短距離走ではありません。1年は続く可能性のある長いマラソンです」「今年のお花見は、人混みは避け、近くで咲いている桜の周りを散歩するだけにしてください」「桜は来年も帰ってきます。人の命は帰ってきません」といったメッセージと共に、「エビデンスの強さによる情報分類」というページが設けられています。「病態・感染・対策」に分けて、「手洗いやマスクしていても感染することがある」といった「正しい情報」、「暖かくなると感染は終息する」といった「エビデンスのない情報」が仕分けされていて、私たちの自衛策にきわめて有益です。よくいわれる「致死率がクルーズ船や韓国と同程度と仮定し死亡者数から逆すると、報告されている日本の感染者数は少なすぎる」「多くの感染者が無症状、もしくは軽症なのは、自然免疫が関与している」「感染しても80%の人は、他人に感染させない」等は、「正しいかもしれないが、さらなるエビデンスが必要な情報」とされています。今回のパンデミックには、多様な情報戦が、複雑にからみあっています。小倉利丸さんの「リスク回避のサボタージュ――資本と国家の利益のために人々が殺される」が、社会運動の困難を含めて、その深部での動きを解きほぐそうとしていて、参考になります。
ウィルスには、国籍も国境もありません。確かなことは、気候変動・環境変化とグローバル経済が、新たなウィルス出現を加速していることです。AFPデータは、大陸別ででています。アジア、ヨーロッパ、アメリカがほぼ10万人以上で大きく広がり、アフリカとオセアニアがこれからです。その正体は、いまだにわかっていません。潜伏期間とか無症状感染とか、ワクチン・治療薬がないといった感染症の特徴ばかりではなく、今日COVID-19とされるウィルスがどこから来たかのかが、初めて感染が確認された中国と、あっという間に世界一の感染国となったアメリカとの間で、より正確には、共産党の独裁者習近平と、アメリカ第一主義で次々と国際秩序を壊してきたトランプ大統領の間で、起こっています。トランプは、「武漢ウィルス」から「チャイナ・ウィルス」と名付けて、発症国中国の責任を追及し、世界への影響力をおとしめようとし、中国の側は、米軍生物兵器の疑いをほのめかしています。秋の大統領選向けとはいえ、トランプは「チャイナ・ウィルス」というネーミングで「パールハーバー」を想起させ(彼にとっては、日本も中国も韓国も「イェロー」です)、日本の国家予算の2倍2兆ドルで「戦争」に立ち向かおうとしています。世界恐慌をニューディールで乗り切ったF・ルーズベルト大統領のような知性も計画性もありませんが、あやかろうとしています。中国側の感染源追跡も諸説が有り、すでに武漢の海鮮市場からの動物感染説は否定され、昨年11月にはヒト・ヒト感染が始まっていたとも言われ、いまだ藪の中です。
本連載は、中国から感染が広がったので、毛沢東の「調査なくして発言権なし」になぞらえて、「検査なくして対策なし」と訴えてきました。いまやサンプルは、世界大に広がり、症状についても、対策についても、応急治療薬についても、さまざまな成功例・失敗例が出ています。初期の中国の事例から抽出され、日本政府が「湖北省水際対策」と「クルーズ船」のみに集中していた時期に流布した、「風邪のようなもので高齢者以外は恐れる必要がない」といった情報は誤りで、感染力が強く、致死率も高く、若者でも幼児でも感染し、臭覚・味覚なしなど多様な症状があることが、わかってきました。「37.5度以上の熱が4日間続いたら相談を」などという重症者・基礎疾患患者に限定するPCR検査や、小さなクラスターつぶしにのみ検査が使える「日本方式」が、日本医学の先進的医学水準でも、検査の精度と確実性の保証でもなく、たんに検査装置と要員の不足、病院統廃合で専門病院もベッド数も減らしてきた新自由主義健康・医療政策の帰結、日本の対策の遅れであることがわかってきました。オリンピック延期決定後に増えた東京都の市中感染者数は、多くは検査件数の増加によるもので、しかも10倍以上の検査を断られた「検査難民」や無症状感染者が、巷にあふれていると考えられます。
たしかに積極的疫学検査で医療崩壊を招いたイタリア・スペインの事例もありますが、徹底的検査によってピークを過ぎ、致死率も低く抑えた湖北省以外の中国、韓国の事例、何よりも毎週50万件の積極的検査から早期に感染者を見出し、症状に応じた対策で致死率1%以下に抑え、国民生活へのきめ細かい生活補償を打ち出したドイツや、早期に封じ込めた台湾の事例もあります。このような事態に、各国の指導者の知性と国民統合の、指導力が問われます。水島朝穂さんの「平和憲法のメッセージ」に「コロナ危機における法と政治ーードイツと日本」が発表されました。メルケル首相の真剣な内容ある国民への訴えと、安倍首相の危機に向き合わない無責任でご都合主義的な対応が、対比されています。当初はBCR検査ミニマムでクラスター追跡の「日本方式」に関心を示していたフランス、イギリス、アメリカ等も、いざ自国の感染爆発が始まると、ドイツや韓国に学んだ「早期発見・早期治療」、徹底検査から感染者を見出し隔離する方式に転換しました。かつて20世紀の国民皆保険と高度医療技術で「医療大国」とさえいわれた日本は、2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染で世界から「失敗した実験」と疑われ、本格的パンデミック期に入っても国際比較可能な疫学調査がおこなわれず、マスクも消毒液も入手できない庶民からは、国内感染者数ばかりでなく、死亡者数さえ信頼されていません。2か月たっても、一方でPCRで診てもらえない「検査難民」、他方で庶民の生活のかかった「感染隠し」、オリンピックと生活補償のがれの政府レベルでの情報操作が語られています。
小倉利丸さんのサイトに、シャロン・ラーナー「大手製薬会社はコロナウイルスから利益を上げる準備をしている」が、日本語で紹介されています。グローバルな医療・製薬資本のあいだで、「パンデミックが悪化すればするほど、最終的な利益は高くなる」として、熾烈なワクチン・治療薬開発競争が行われているのです。その競争への日本の参入に焦点を合わせて、この間の安倍内閣の後手後手の対応、PCR検査のサボタージュの背後の秘密に迫ったのが、前回紹介した上昌広さんの『フォーサイト』寄稿論文「帝国陸海軍の「亡霊」が支配する新型コロナ「専門家会議」に物申す」(上)(下)です。そこでは、戦時陸海軍防疫体制を担ってきた旧731部隊・東大伝研等の流れの後継で、①「国立感染症研究所」(感染研)、②「東京大学医科学研究所」(医科研)、③「国立国際医療研究センター」(医療センター)、④「東京慈恵会医科大学」(慈恵医大)出自の医学者が、厚生労働省医療官僚と共に安倍内閣「専門家会議」の主流となり、それが感染者の治療ではなく、国産ワクチン製造のためのデータ独占、医薬産業との癒着に結びついているのではないか、と問題提起されています。私はこれを、3/11原発事故時に語られた産官学「原子力村」になぞらえて、「ワクチン村」とよびたいところです。
「ワクチン村」とは、安倍内閣の「健康・医療戦略」予算に群がる、医・薬・獣医学研究者、ウィルス研究機関、医薬産業、厚生労働省健康・医療部局、それに自衛隊衛生科を含む、利益協同体のことです。中心は、首相官邸の健康・医療戦略室、健康・医療戦略推進本部です。もともと医師・病院を監督する厚生省でも、科学技術研究を担う文部科学省でもなく、アベノミクスの「成長戦略」を推進する経済産業省主導でつくられたものです。高齢化に伴う福祉・医療経費増大を最小限にし、健康・医療システムを再編・効率化し、2013 年6月 に「日本再興戦略」の一環として「健康・医療戦略」を策定、そのもとで「医療分野の研究開発に関する総合戦略」を立案しました。「日本再興戦略」とは、本サイトで幾度か紹介してきた、デジタル化・ロボット化の第4次産業革命、人工知能AIや自動走行のSociety5.0を柱とする、グローバル経済下の国際競争に対処する成長戦略で、原発再稼働や新幹線輸出で突破口を開こうとしました。それに従属する「健康・医療戦略」とは、端的に「世界最先端の医療技術の開発」「健康・医療分野に係る産業を戦略産業として育成し、経済成長へ」です。そこに乏しい研究予算を重点的に国策として投入し、既存の高齢者対策・感染症対策は厚生労働省・国立研究機関・大学病院・医師会等に任せて、「効率化」の名で予算・要員を削減してきました。健康・医療における「選択と集中」、新自由主義とアベノミクスの戦略です。
「日本再興戦略」を官邸で指揮したのは、経産省出身の今井尚哉首相秘書官・現補佐官です。官邸「健康・医療戦略室長」には、国土交通省出身だが今井の腹心である和泉洋人首相補佐官が就任し、後に慈恵医大から国立感染研を経て厚生労働省審議官となった大坪寛子を次長に取り立てます。ゲノム医療を推進する大坪は、内閣官房審議官として、日本医療研究開発機構(AMED)・医療情報基盤担当室の室長も兼任します。詳しくは、首相官邸の「健康・医療戦略推進本部」ホームページに出ていますが、「健康・医療戦略参与会」の副座長が今井絵理子と和泉洋人のスキャンダル・コンビで、2020年日本医療研究開発大賞の「健康・医療戦略担当大臣賞」は、731部隊研究では細菌戦・人体実験の後継組織として知られる、公益財団法人「実験動物中央研究所」でした。受賞理由に「1952年創設以来、 実験動物の飼育技術の確立、動物の品質 管理研究を行い、日本の実験動物学の発展に大きく寄与」とありますが、朝鮮戦争時の創設者は、731部隊大連支部長で帰国後東大伝研教授・武田薬品顧問であった安東洪次でした。私の戦医研論文に書きましたが、米軍細菌戦406部隊とも深い関係がありました。
日本国民にとっての大いなる不幸は、中国武漢から新型コロナウィルスの第一報が入って始まって以降の日本政府の初動対応が、今井・和泉・大坪に任された首相官邸「健康・医療戦略」に沿って始まり、武漢・湖北省滞在者への「水際対策」とクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」封じ込めに特化されたことです。厚生労働省の担当する感染症対策のオーソドクスな「早期発見・早期治療」、医療機器補充・要員増よりも、日本経済停滞突破の「成長戦略」への影響が重視され、少なくとも2月6日の大坪審議官記者会見までは、大坪のAMEDとの対立や和泉補佐官とのスキャンダルがあっても、厚生労働省ではなく、官邸主導で進められました。だからこそ、まだ政府の「対策本部」も「専門家会議」も立ち上がっていない段階での2月13日「緊急対応策」の目玉には「検査キット、抗ウイルス薬、ワクチン等の研究開発の促進 」が「マスク、医薬品等の迅速かつ円滑な供給体制の確保」よりも上位におかれ、特別予算も配分されたのです。和泉・大坪スキャンダルへの世論の反発で、以後二人は表舞台から消えましたが、「陰の首相」「総理の振付師」である今井補佐官は、安倍首相の信任厚い北村滋国家安全保障局長、秋葉剛男外務事務次官と組んで、官邸主導のパンデミック対策の中枢にすわります。厚生労働省や国立感染症研究所中心の「専門家会議」、内閣対策本部を立ち上げ、国家の危機を逆手にとって、あくまで「成長戦略」に使おうとしています。それが「国産検査キット、抗ウイルス薬、ワクチン開発」にこだわり、「ワクチン村」の御用学者と医薬企業を登用し、反対意見の情報発信を抑えて「大本営発表」風の情報統制を強め、ついには「緊急事態宣言」で官邸に権限を集中させ、改憲を準備する背景です。
そのとばっちりが、政府の後手後手の対応と、「日本列島のクルーズ船化」です。つまり、海外からの感染隔離に資源と人員を割いている内に、国内感染が拡大し、爆発的拡大の前夜なのに、医療用マスク・防護服・人工呼吸器も、隔離病棟・集中治療室ICU・ベッド数も整わず、大人の満員電車をそのままにした思いつきの全国一斉休校に不満が強まると、いまだ入手できないマスクや消毒液の供給をそのままに、児童生徒に手作りマスク奨励の新学期開始です。何よりも、生活補償も企業補償も認めないまま「自粛」要請を繰り返し、他国に比すれば予算の使い方も最悪の「緊急対策」です。あいかわらずPCR検査「帰国者・接触者相談センター」仕分けで疫学調査が進んでいませんから、すでに爆発した欧米諸国に学んだ医療崩壊対策、医療従事者救済策も、時間的には準備できたはずなのに、きわめて不十分です。今年の安倍首相年頭会見の目玉であった東京オリンピック開催にこだわり続けて、感染者数を低めに小出しできたものが、「中止」ではなく1年「延期」となった途端に、大都市での感染者急増と緊急事態法です。しかも、記者会見嫌いの知性なき安倍首相は、今井補佐官任せの危機感なき応急手当、その夫人は「3密」満載の芸能人との花見、世界のパンデミックの海に漂う、漂流クルーズ船です。新自由主義の「成長戦略」優先と「自己責任」論が生んだ、究極の人体実験です。自衛が必要です。
世界経済と世界恐慌の見通し、感染症の文明史と差別史、中国・韓国とのワンヘルス連帯のあり方、731部隊医学ばかりでなく100部隊獣医学をも重要な起源とする日本ウィルス学・ワクチン学の歴史など、語るべき問題は多々ありますが、長くなったので、今回はここまでに。幸か不幸か講演・研究会等も軒並み中止・延期で、自宅で綴る本連載も、しばらくは1日15日の月二回更新を復活し、長期連載になりそうです。「パンデミックの政治1.2」はカレッジ日誌に移し、「3」のみ下に残します。私の731部隊研究と並ぶパンデミック研究の原点、2009年メキシコでの新型インフルエンザ体験「パンデミックの政治学2009」、及び法政大学『大原社会問題研究所雑誌』最新3月号に寄稿した「20世紀社会主義・革命運動史を21世紀にどう描くか」 をアップ。もう忘れられていますが、2009年春のインフルエンザ・パンデミックは、麻生内閣末期で、やはり後手後手のお粗末な対応、秋の政権交代、民主党政権成立に、道を拓きました。もっとも当時の自公麻生内閣は支持率10%台、今年の安倍内閣はなお40%を維持しています。パンデミックは、世界の社会運動・市民運動にも沈黙を強いるようになっており、インターネットが、情報戦とインテリジェンスの新たな舞台ともなっています。自粛用お勧め図書として、カミュの『ペスト』で、不条理の世界を。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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〔eye4700:200402〕
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