フランス:酷暑と干魃と冷却水不足に苛まれる原子力大国
- 2022年 8月 25日
- 評論・紹介・意見
- グローガー理恵
はじめに
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書は、地球温暖化が、気温や水温を変化させ、海水面上昇、降水量の変化やそのパターン変化を引き起こし、洪水や干魃、猛暑やハリケーンなどの激しい異常気象を増加・増強させ、生物種の大規模な絶滅を引き起こす可能性があることを指摘している。
事実、私たちは今日、地球温暖化による異常気象の増加・増強現象を身近に目撃している。最近、ヨーロッパを襲った熱波、干魃、洪水なども地球温暖化が生じた異常気象の現象であると言えるだろう。さらに今、ヨーロッパは少なくとも、ここ500年の間で最悪の干魃を経験しているという、EU のJoint Research Centreによる報告もあった。
一方、2022年7月6日、欧州議会は原子力をEUタクソノミー基準に追加することを承認した。すなわち、欧州議会は、原子力推進者が主張する「原子力は二酸化炭素排出量の少ない、気候変動の緩和に貢献する持続可能なクリーンエネルギーである」という ”グリーンウォッシング” を認めたのである。
しかし、原子力を巡る現実は違っていた…..。最近、フランスを襲った熱波と極度の干魃が、同国の原子力発電所に恐るべきインパクトをもたらしたからである。二酸化炭素排出量云々などと言っていられない、緊急事態が原発で発したのだ。それは、原発が絶対必要とする「冷却水」の不足であった。 言うまでもなく、冷却水不足は酷暑・干魃に起因したものだった。
この懸念すべき、フランスの原子力発電所の実態を、ジャーナリスト/翻訳家であるラルフ・シュトレック氏が詳しく描写してくださっているので、その論評を抄訳してご紹介させていただく。
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論評: 危機対策チームの設置:フランスの原子力災害は続く
著者:ラルフ・シュトゥレック (Ralf Streck)
(2022年8月7日)
[抄訳:グローガー理恵]
フランスのカットノン原子力発電所
撮影:Stefan Kühn氏- Own work CC BY-SA 3.0
熱波は、原子力国とその河川をますます悩ませている。冷却水が不足しているのだ。
原子力発電国・フランスの状況は、ありとあらゆるレベルにおいて、ますます手に負えなくなっている。ー とりわけ電力供給に関してである。国中が水不足に見舞われているのだ。ーしかも今や、最悪とされるパリの深刻な干ばつに鑑みて、危機対策チームが設置されたのである。「この干ばつは、わが国の、これまでで最悪の干ばつとして記録された」とエリザベット・ボルヌ首相は発表した。この極度の干ばつは、あと2週間は続き、しかも、さらに悪化する、と彼女は警告した。
しかし今になってやっとボルヌ首相は緊急計画を策定させているのだ。そして4度めの熱波がやって来た今、飲料水の配送が調整されることになるという。フランスは来週も40度の気温にうなされることになりそうだ。
ここで、またもや、パリを支配したのは、ただお望みすることに頼る”希望の原則”だった。この政府は、国内に危機を孕んだ問題が山積していることを、遅くとも春以来、冷却水不足のために史上初めて原子力発電所(複数)が早期に停止されなければならなかったときから、わかっていたのである。それ以来、状況はますます悪化している。水温28度以上の温水が許される発電所も増えてきた。
魚の死骸のかすかな臭い
中には、魚の死骸のかすかな臭いがただよう河川も出てきている。事実、かつては河川に存在する植物や生物を保護するために、河川の水温を25度以上に温めることが禁止されていたのだ。しかし、これは、すでに2003年の”Canicule(熱波)”の後に変更された。ー そして今、 それがさらに柔弱化されたのである。
電力供給状況が急激に悪化する中、ますます多くの原子力発電所に特別許可が与えられている。原子炉は実際に必要なだけ停止されなかったし、原子力が行き詰まった状況にあるフランスは、すべてのメガワットが必要なため出力を最小にした。
フランスは、ヨーロッパからの電力やガス供給に大いに依存している国である。フランスは極度に高い電力を買い足さなければならず、コストは、上限価格の観点から消費者に転嫁されないため、国債をさらに急速に膨張させ続けている。一方、フランスが大口購入者として電力価格を吊り上げているため、ドイツの消費者にとっても電力料金は爆発的に上昇しているのである。
しかし、何十年もの間、何十億さらに何十億という資金が原子力施設につぎ込まれてきた。フラマンヴィル原子力発電所は10年前から電力を供給しているはずだったのに、いつも新しいお金を燃やしているのだ。
また今になって、フランス電力公社( Électricité de France-EDF)は、この原子炉に設計上の欠陥があることを認めているのだ。そのために中国の欧州加圧水型炉(EPR原子炉)でさえもが停止されなければならず、ヒンクリーポイントC原子力発電所【*注】の設計は、フランスの納税者に多大な負担をかけることになり、結果が不確かなまま調整されることになっている。
【*注】ヒンクリーポイントC原子力発電所(Hinkley Point C Nuclear Power Station-HPC): 英国サマセット州に建設中の2基の原子炉からなるEPR原子力発電所(Source:Wikipedia)
これだけの資金があれば、もうとっくに、海岸のある地域に風力・水力・太陽光発電施設を設けて、それらを稼働させ、拡大しつづける電力供給のギャップ問題を解消することができたはずである。そういうことが起こらなかったために、EDFは、安価な原子力発電という作り話を維持するため、完全に国有化されねばならないのだ。
一方、ドイツは、夏に燐国がブラックアウトになるのを防ぐために、大量の電力とガスを供給している。ドイツにおいて、原発の稼働寿命延長、稼働期間延長、さらにはすでに停止されている原子炉の再稼働を求めるという理に合わない滅茶苦茶な討論が行われている理由は概ね、このためなのである。とりわけドイツ自由民主党(FDP)が、このことを売り込んでいるのだ。そうすることで、彼らはエマニュエル・マクロン大統領と姉妹政党を援助したいのである。
ドイツはまだ太陽光発電でフランスの電力不足を吸収することができる。ドイツの太陽光発電だけでフランスの原子力発電による総生産量(24ギガワットしかない)を相当上回る電力を生産しているのである。しかし今、さらに(フランスの)3基の原発が冷却水問題のために出力を大幅に減らす危機にさらされている。
実際には、これらの3基の原発も、もうとっくに停止されなければならないはずだったのである。EDFは「”グリッドロード”のために、連結された2基の原子炉の稼働を続けて、少なくとも400メガワットの電力生産量を確保しなければならない」と、言及している。
フランス市民は、しきりに電力と水の節約を訴えられている。しかし、水の最大消費者は一般世帯ではなく、産業界、とりわけエネルギー供給業者であるということは、むしろ隠蔽されているのである。例えばドイツでは、水の総消費量のおよそ50%が、原子力・火力・ガス発電所における冷却プロセスのために使われている。これは冷却のプロセスで多量の水が蒸発するためである。そして、これら水の大口消費企業にとっては水の使用料金が無料になることが多いのだ。
フランスで原発を停止することは、動植物にとってばかりでなく、一般住民のための水の供給を維持することができるようにするためにも重要なことである。フランスの環境省の情報によると、すでに100以上の自治体で水の供給ができなくなったという。
12基の古い原子炉が腐食問題のために停止されている
もしかしたら、フランスはブラックアウトなしで夏を越せるのかもしれない。しかし、冬になって、ひょっとして水量が増えて数基の原子炉が再びフル稼働できることになったとしても、状況がもっと由々しくなることは、誰の目にも明らかである。また専門家たちは、この一問題がさらに他の問題を悪化させる状況にあるフランスは、ロシアからのガス供給不足よりも危険であるとみなしている。なぜなら、12基の古い原子炉が大規模な腐食問題のために停止していて、冬になっても再び稼働開始させることができないからである。
ー抄訳おわりー
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion12322:220825〕
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