ていこう原理 5 教育への政治介入と映画『教育と愛国』
- 2022年 9月 21日
- 時代をみる
- 長谷川孝
◆教育の〈政治の道具化〉示す検定介入
「教育の自由、独立が脅かされ、教科書が書き換えられていく。かつて日本でも、教師が目の前の子どものためではなく、国家の代弁者となった時代があった。危機的状況だと感じています」。
この五月に公開される映画『教育と愛国』を監督した斉加尚代さん(毎日放送ディレクター)の言葉です(毎日新聞2022・4・13夕刊)。
映画はまだ観ていませんが、新聞記事を読みながら、本誌750号掲載の拙稿「教育改悪《施す教育へ》の15年」で書いた危機感と重なる現実を、映像で追っているように感じました。
「特別の教科」として導入された道徳の小学校教科書への〈おかしな〉検定をきっかけに制作したドキュメント番組に、その後の取材も加えての映画化とのことです。先の拙稿では詳しくは触れませんでしたが、教科書への露骨な政治介入は学校教育の政府による〈政治の道具化〉が、よく見える事例だと言えます。
◆「ちゃんとした日本人」を育てる?
斉加さんに取材した東京新聞「こちら特報部」の記事(2022・4・17)では、こんなことも紹介しています。
「保守系教科書を執筆し、『ちゃんとした日本人をつくる』のが目標だという学者に理想の日本人像を問うと、虚を突かれた様子で『左翼ではない』」。
この学者の頭の中では、天皇の赤子たる子どもや皇国民たる国民の像がこびりついているのかもしれません。道徳教育や愛国心などを叫ぶ右翼・保守系の連中の思考です。これが、教育基本法の大改悪、道徳教育の復活、教科書への政治介入、戦前の教育勅語の利用容認などなどとして、具体化してきたのです。
「道徳教育は、本来、学校教育の中核として位置づけられるべきもの」(道徳の教科化を認めた中教審の答申)という教育観が、着々と具体化されています。その道徳科で教えるべき「項目」は。文科省が決めるのです。もちろん愛国心や日本人としての自覚もありますが、批判精神や疑問力などは見当たりません。
◆プーチン支持80%の国民づくり教育
ロシアでは「愛国者」のみが国民で、それ以外はスパイ扱い?らしい。「プーチン政権下でロシアの教育は大きく皮わっていた。12年に2度目の大統領就任を果たしたプーチン氏が、翌年に打ち出した政策のひとつが『歴史教科書の統一』。ロシアがウクライナ・クリミア半島を一方的に編入したのはこの翌14年だ」(毎日夕刊)。政治権力による教科書への介入など教育支配と情報統制で、国民世論が作られ、プーチン支持率80%なのです。
東京新聞の記事では、見出しに「忖度横行」「異論封殺」「政治介入」「歴史修正」と並び、主見出しは「教科書が映す日本/民主主義の根幹 危機」。この記事の「デスクメモ」は、こう書いています。
「ゼレンスキー大統領が米議会でロシアの侵攻を『真珠湾攻撃』になぞらえたとき、彼を英雄視していた日本の右派勢力は一転、憤慨した。大東亜戦争は正義の戦争で、ロシアとは違うというのだ。世界がとうてい賛同しないこんな底の浅い歴史観で日本の教育がゆがめられつつある。(歩)」
ロシアや中国の現実は、日本の足元でも。教育再生という改悪を進めたアベ元首相はきっと、プーチンに共感していたのに違いないと感じます。 (読者)
初出:「郷土教育755号」2022年5月号より許可を得て転載
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