ていこう原理7 今、教科書にしたい、してほしい本2冊
- 2022年 10月 12日
- 時代をみる
- 憲法長谷川孝
◆国分一太郎さんの子ども向け憲法の本
『わたしたちの憲法』(有斐閣)という本を本棚の奥から見つけ出しました。憲法学者の宮沢俊義さんと、作文教育の国分一太郎さんの共著で1955年に発行された本の新装改訂版(1983年刊)。初版は、宮沢さんの協力を受けて、国分さんが原稿をまとめて出版、改訂版は國分さんの手によります。
初版本は、社会学者の日高六郎さんが「憲法のなかみをやさしく解説した、子ども向けの本を」と國分さんに提案、それを受けての発行です。それから二十七年後の新装改訂版の発行は、憲法「改正」の動きが騒がしくなって来ていた時代の要請だったようです。
各条文にやさしい〈訳文〉と解説付き。前文の〈訳文〉には「憲法のこころ」の見出し。私は、前文を読むたびに胸が熱くなるのですが、まさに前文はこの憲法を選び制定した「こころ」が込められていると思います。最近、ロシアのウクライナへの軍事侵略の暴挙を受けて、国の安全を巡る論議で、憲法の前文を引用する論者が目立ちました。
この本の出版について共著者は、「憲法のたいせつなところは、こまかい規定ではなくて、そのおおもとの精神です」と述べています。その精神を、思いを込めて書かれたのが前文=「憲法のこころ」なのだと思います。
◆風化している? 憲法への関心と理解
この本を、たまたま取り出した今は、憲法「改正」いや改悪の動きが、改訂版発行時に比べ、はるかに強まり、まさに危機です。政治的な改悪の動きはもちろんですが、気掛かりなのは、「憲法のこころ」が忘れられつつあるのではないか、ということです。この本は、それを訴えるために出現したような気がします。
前文はもとより、一九四六年の憲法の交付に際しての天皇の勅語にすらあふれている、新憲法に込められた願いや思いです。公布以来の七十数年、憲法に込められた願いや思い、「憲法のこころ」、精神を、生活の中で受け止める努力を、学ぶ活動を、どれだけしたでしょうか。
国分さんは、「『憲法科』という教科があったらどんなによいだろう」と考えたと書いています。文部省著作の中学校教科書『あたらしい憲法のはなし』がわずか三年で不使用となって四年後の初版発行。この本で「憲法のこころ」を学んでほしいという出版だったでしょう。
◆『せかいでいちばんつよい国』と九条
憲法九条について考えつつ、絵本『せかいでいちばんつよい国』(光村教育出版)を買い求めました。九条の理想を、もっとも単純明快、素朴で素直に、見開き12㌻の物語で表現している絵本だと思います。どんなに強力な権力や軍隊よりも最後には、食べ物や音楽、踊り、祭り、仕事の楽しさなど、つまり生活と文化が強い!と語りかけているようです。
この2冊の本を、先ず、全国の小中高校の図書室と図書館の子どもコーナーに置いてほしい。クラス担任の教員は、教室にさりげなく置いてほしい。そして、教員養成、教員研修の場で、教材として活用してほしい。しかし実は、教育委員会主催の教員養成塾に憲法の講座をと市民が求めても、まるで相手にしない現実があります。でも、主権者教育の第一歩は、憲法(の精神)を学ぶことです。
『わたしたちの憲法』の、九条の解説を読みながら、軍事侵略されたウクライナの惨状が思い浮かびました。(読者)
初出:「郷土教育757号」2022年7月号より許可を得て転載
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