やめてくれ! 新しい戦争の時代など ―強権政治の延命に高価すぎる代償では
- 2024年 10月 17日
- 評論・紹介・意見
- 「リベラル21」戦争反対田畑光永
衆議院の選挙戦が始まった、などと、我々は気楽に「・・・戦」を日常用語としているが、考えてみればこの喩えは「戦」を気安く使いすぎている。我々が直接知っている「戦」は太平洋戦争だが、あの数年間の戦場と内地における日本人の体験の総和と、選挙「戦」やら、なんとかリーグ「戦」やらを同じ文字で表すのはおかしくないか。
こんな、それこそおかしなことを考えるようになったのは、2年半前にロシアのプーチン大統領がウクライナに対して「特別軍事行動」を始め、それが終わらないうちに昨年秋に中東で始まった爆弾の投げ合いがまた1年以上経った今でも、「戦」は広がりこそすれ、いっこうに終わる気配が見えない。それどころか、イスラエルのネタニヤフ首相はアラブ諸国に「気に入らなければどこからでもかかって来い」と言わんばかりの態度で、反イスラエルのアラブ側の主要人物を名指しで誅殺している。あらためて「戦争」という文字の恐ろしさを感じないわけにはいかない。
戦争には第一次大戦の当時から軍艦や飛行機が登場したが、やはり第二次大戦までは戦いの中心は地上部隊が戦場で対峙して、どちらか一方が相手方を敗走させることで一つの戦いが決着するという形であった。従って開戦には生身の兵隊の多数の死を敵味方双方は覚悟したはずであるが、現代のウクライナや中東はそれどころか、開戦となれば人口密集地に砲弾が雨あられと降り注ぎ、民間人が一瞬のうちに大量に犠牲になる。
毎日、この2つの戦争のニュースを見聞して感ずるのは、昔の戦争と違って、今は戦争となれば無差別に相手側の一般国民を大量に殺戮するというなんとも無機的で、非人道的な悲劇が連続する恐怖である。こんなに長い期間、人間がまるで古い立木が並べて切られるように扱われるのはこれまでの歴史になかったのではないか。
しかし、そうであれば開戦する側は一方的勝利を確かなものとするだけの砲弾を用意して開戦に踏み切ったに違いない。予想される相手方からの反撃を上回る弾薬、輸送手段を用意すれば、相手をこっぴどく敗北させることが約束されているからである。
プーチンはその通りに実行して、ロシアから離れて西側になびきそうなウクライナを懲らしめ、「大ロシア復活の英雄」として通算5期目の大統領職に鎮座しているし、ネタニヤフもかねて身辺にくすぶっていた不祥事の嫌疑を吹き飛ばしてしまったようで、この上うまくいけば、「ユダヤ民族の救いの星」とでも書かれた冠をかぶろうという算段であろう。
しかも驚いたことに、プーチン、ネタニヤフのこんな見え見えの暴挙に対して、国際社会は明白な態度で糾弾できない。それどころかこの2人の所業を真似ようという人間の姿が見え隠れする。よもやと思うが、間違ってもそんなことにならないように、国際社会は警戒しなければならない。
どこかと言えば、まず世襲の独裁者、金正恩が統治する北朝鮮である。北朝鮮は韓国に対して、ここへきて将来の統一を目指す相手という位置づけを廃して、敵対する別の国という位置づけに変えた。近く憲法を改正して、韓国を敵国と明記するという報道も流れている。そして朝鮮人民軍は今月9日以降、南の韓国につながる道路を完全に断ち切る工事に着手するとも伝えられる。
国民の生活水準を低いままに放置して、核実験やミサイル実験に国力をつぎ込んできた北朝鮮にとって、ロシアや中国の暗黙の了解のもとに南進して、韓国を自らの支配下に取りこみ、国際的な妨害がないとすればこれにすぎるチャンスはないだろう。金日成以来の金王朝の弥栄を保証するものはほかには見当たらない。
台湾統一という悲願を抱える中国にとっても、プーチンやネタニヤフがこのまま目的を達するのならば、今の国際世論のありようは、自らの台湾統一という悲願達成の千載一遇のチャンスと見えるだろう。中國がつい14日にもことさらのように、台湾周囲の海域で演習をおこなったのは、いざという時のために世界の目を慣らしておこうという下準備かもしれない。
ウクライナの戦火も中東の殺戮合戦もおさまらないうちに、アジアでも第二次大戦直後から解けない難問であった朝鮮半島や中国の矛盾が俄かに動き出すとしたら、いったいこの世界はどうなるのか、好ましい方向に進むとは到底思えない。戦いを強権君主の自己保身の手段とさせないためにはどうすればいいのか。古いがいつまでも解けない問題だ。
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初出:「リベラル21」2024.10.17より許可を得て転載
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〔opinion13914:241017〕
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