機関紙拡大と票読み活動はもはや時代遅れの選挙運動になったのか、SNSが支配した兵庫県知事選挙 共産党はいま存亡の岐路に立っている(その42)
- 2024年 11月 21日
- 時代をみる
- 「リベラル21」兵庫県知事選挙広原盛明日本共産党
2024年11月17日に行われた兵庫県知事選挙で、県議会の全会一致の不信任決議で失職した斎藤元彦前知事が異例の再選を果たした。それも2021年前回選挙85万8千票を大幅に上回る111万3千票を得票してのことである。投票率も前回41.1%から55.6%へと大幅に跳ね上がった。職員への「パワハラ」や訪問先での「おねだり」で、斎藤氏は知事としての資質や人間性を疑われていたが、そんなことは問題でなかったらしい(私などはこれまでの神戸の友人たちとの情報交換を通して、斎藤氏は政治家失格で完全に「アウト」だと思っていた)。
翌18日の各紙は、「斎藤さん SNS攻勢、演説動画を配信 支持急拡大」(読売新聞)、「SNS戦略 勝敗左右、斎藤氏 負のイメージ覆す、フォロワー急拡大 20万人超え」(産経新聞)、「ネット駆使 支援うねり、パワハラ疑惑否定 浸透」(毎日新聞)、「斎藤氏 膨らんだ聴衆、演説動画・活動予定 SNSで発進」(朝日新聞)、「斎藤氏、SNSが原動力、若者票、稲村氏の3倍」(日経新聞)などと、選挙結果をトップ記事で大きく報じた。
翌々19日の各紙も、引き続いてSNS選挙の影響力〈功罪〉について分析している。
毎日新聞はネット活用で注目された選挙を3つ挙げ、与野党からは来年夏の参院選や東京都議選に向けて警戒感が高まっていること、SNS戦略の練り直しの声が上がっていることを紹介している。
(1)2024年7月、政党の支援を受けない石丸伸二・前広島県安芸高田市長が約166万票を得て2位に。立憲民主党元代表代行の蓮舫氏は3位に沈む。
(2)10月、与党が過半数割れし、国民民主党(玉木雄一郎代表)が公示前から4倍の28議席を獲得。
(3)11月、県議会から不信任決議を受け失職した斎藤元彦前知事が再選。
朝日新聞は「斎藤氏再選、原動力はどこに」との見出しで、詳しい分析結果を掲載した。
(1)原動力となったのは、インターネットにあふれる情報と、有権者の既存メディアや県議会への不信感だ。
(2)県議会やメディアなどの「既存勢力」に対し、斎藤氏1人が対峙するかのような構図が作られ、共感が広がった。
(3)朝日新聞の出口調査によると、斎藤氏は若年層の支持が厚いのが特徴で、20代以下が65%、30代が66%、40代が54%、50代が52%で、いずれも稲村氏を上回った。
日経新聞も同じく、斎藤氏勝利の原因として街頭演説の動画がSNSで拡散し、若年層の支持を集めたと結論している。
(1)SNSは選挙に重大な結果をもたらす。都知事選での石丸伸二氏、衆院選での国民民主党の善戦に続く、兵庫県知事選での斎藤元彦氏の再選。もはや偶然ではない。
(2)ネットでの選挙運動の解禁から10年あまり、今回の知事選では、SNSを見て演説会場に足を運んだ若者もいた。これまで関心の薄かった人たちを政治に向かわせたのなら、いいことだ。
(3)だが、手放しのプラス評価は危ない。ネットの世論形成メカニズムには注意がいる。人々の関心を引く、わかりやすい情報が飛び交いやすい。敵と味方に分けたような明快なストーリーが受け、拡散する。選挙に行くきっかけはSNSでも、投じる1票は考え抜いた結果でなければならないはすだ。ネットで醸成された何となくのムードに押された投票では、民主主義の根幹がゆらぐ。
共産党は兵庫県知事選2日前の11月15日、全国都道府県委員長会議をオンラインで開いた(都知事選であれば、投票日前に全国都道府県委員長会議を開いたりなどはしないだろう)。その中の「2,日本共産党の選挙結果についての中間的総括について」では、「SNSを選挙戦勝利の大戦略として、日常的に推進することの立ち遅れ」が指摘されている(赤旗11月16日)。
(1)大会決定では、総選挙躍進への独自のとりくみとして、①「声の宣伝」を「全有権者規模」に大きく発展させる、②「折り入って作戦」を選挙勝利と党勢拡大の要の活動と位置づけ、大規模に発展させる、③「SNSに強い党」になり、ボランティア、サポーターが参加する選挙にする――「三つの突破点」を提起した。
(2)赤旗読者や後援会会員を二度三度訪問して対話する「折り入って作戦」は早い段階からとりくむことが必要だったが、選挙間際では間に合わなかった。
(3)「SNSに強い党」となり、ボランティア、サポーターが参加する選挙は、今回の総選挙では「始めたばかり」の段階にとどまった。
つまり、総選挙では従来からの機関紙拡大など党勢拡大活動を結合した選挙運動が中心となり、「折り入って作戦=票読み活動」を展開してきたのであるが、これだけでは不十分なので「SNS活動」を強化しなければならないというのである。当然のことながら、この大会決定は兵庫県知事選でも適用されて「三つの突破点」が実践されているはずだから、選挙戦では然るべき成果を挙げて当然だと思われるが、結果は悲劇的とも言える悲惨なものだった。当日の有権者数450万6千人、有効投票数220万5千票だったのに対して、共産党推薦候補の得票数は僅か7万3千票にとどまり、得票率3.3%にすぎなかった。前回2021年知事選と比べても党推薦候補得票数は18万4千票から11万1千票も減り、得票率は10.0%から3分の1に激減したのである(兵庫県知事選の総活はまだ行われていない)。
兵庫県知事選におけるSNS選挙の大々的な展開は、従来型の「機関紙拡大+票読み活動」の選挙運動の限界を感じさせる。とりわけ党組織が高齢化している共産党の場合は、高齢者党員がSNS選挙に取り組むことはまず不可能だろうし、と言って、若いボランティアやサポーターがそれほど沢山いるわけでもないので、大規模にSNS戦略を展開することは容易ではないのである。
『日本共産党――「革命」を夢みた100年――』(中公新書2022年)を著した中北浩爾中央大教授(現代日本政治論)は、日経新聞2024年11月2日のインタビュー「有権者の実像、識者に聞く」シリーズで、総選挙の結果について次のように語っている(要旨)。
(1)自民党のほか、公明党や共産党など多くの党員をもち機関紙活動も活発な組織政党が後退したのも印象的だった。SNSを駆使して党首の魅力やわかりやすい政策を発信し、若者を中心に共感を集めた政党が躍進した。
(2)組織政党の退潮は半ば不可逆的な傾向だ。欧州と同じく日本でも「社会の個人化」が進み、業界団体、労働組合、町内会などさまざまな組織が衰退する。政党の組織も弱体化し、若年層を中心に無党派層が増えている。
(3)政党が強固な組織や支持団体を持つ強みは変わらない。選挙運動にはマンパワーが不可欠で、苦しいときほど固定票が大切になる。一方で政党が生き残るには、ある程度の時代に対応し変化が欠かせない。
(4)共産党は組織面で分派の禁止を伴う民主集中制を維持する。閉鎖的なトップダウンの組織は時代になじまない。反対意見を公然と述べた党員を簡単に除名・除籍し、排除するのも問題といえる。複数の候補者による党首公選をやるなどの組織改革が必要になる。自由で開かれた組織に転換しなければ今の若者は入ってこない。
共産党がこの批判に反論することを大いに期待するが、ただし反論はイデオロギーからだけのものではなく、実践を伴うものでなければならないだろう。民意を問う国政選挙や地方選挙がその実践の場である以上、選挙結果を政策や運動方針の誤りではなく「自力不足」だけに限定するのは無理があるというものである。田村委員長には兵庫県知事選の総活も含めた「新しい政治プロセス」への対応が求められる。(つづく)
初出:「リベラル21」2024.11.21より許可を得て転載
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