3.1も3.11 も「忘れない力」を!
- 2013年 3月 2日
- 時代をみる
- 3.13.11加藤哲郎反核第5福竜丸
◆2013.3.1 なんとも奇怪な日本政治です。「日本を取り戻す」と公約して政権を奪還した安倍内閣が、「日本を売り渡す」政策を次々に打ち出して、つかの間の景気回復の雰囲気が、支持率をアップさせています。株高・円安は、どうやら海外投機筋が変動幅の利ざやを求めて欧州から日本にマネーゲームの舞台を移してきた気配、現物経済の雇用にも賃上げにも結びつくかは疑問。TPP参加反対で議席を得た議員が多数なのに、自民党はどうやら日本農業を世界市場に投げ出し、国民皆保険の中に富裕層向け高級医療市場展開を容認しそうです。施政方針演説では「強い日本」と「世界一」を連発、無論国内向けですが、海外から見ると異様でしょう。ハンガリー在住の経済学者盛田常夫さんの健筆を、久しぶりで拝見しました。「イデオロギーと化した『金融市場』と『物価目標』」という「リベラル21」への寄稿、「ちきゅう座」にも転載されています。ニューヨークの投機王ジョージ・ソロスの母国で、国家が金融市場に振り回される欧州の流れをじかにみてきた体験を踏まえているので、説得力があります。
◆ 忘れてはならないことが、次々に忘れられていくのが、情報戦の時代の特徴かもしれません。無論、国家権力と財界とマスコミによってシナリオが作られ、本来の争点が隠され、歪められ、誘導されていく世論操作を伴って。3月1日は、韓国の1919年3.1独立万歳運動記念日であると共に、日本では3.1ビキニ・デーです。1954年3月1日、ビキニ環礁での米国水爆実験で、日本漁船第5福竜丸が被曝しました。ただしそのことが明るみに出るのは、母港焼津港に戻った3月14日過ぎ、16日の読売新聞焼津支局によるスクープ報道からでした。ところが当時の国会では、2日に保守傍流の改進党衆院議員であった中曽根康弘等によって原子炉築造予算が補正予算中に突如提案され可決、当初反対した日本学術会議やマスコミも「平和利用」ならばと認めて、日本の原子力発電が出発した直後でした。「原爆マグロ」「死の灰」の言葉が生まれたのはこの時です。この時の3月27日焼津市議会決議「原子力を兵器として使用することの禁止、原子力の平和利用」が、以後の日本国民が長く「原水爆反対、原発歓迎」の態度をとる原型になりました。詳しくは拙稿「原爆と原発から見直す現代史」をご参照ください。
◆その第5福竜丸は、ちょうど原水禁運動が分裂し、日本初の東海村の原子炉商業発電が始まった直後、1967年には老朽化で廃船になり、東京・夢の島に放置されていました。東京都職員によって発見され、何とか保存され、「第5福竜丸保存館」になりましたが、ビキニ被曝をきっかけに原水爆禁止の「国民運動」のきっかけになったといわれる「死の灰」=放射性降下物の記憶さえ、10年ほどで風化していたことがわかります。そして、さらに半世紀後、2011年3月11日が、東日本大震災と共に福島第一原発の過酷事故で、再び「死の灰」の恐怖をよびさましたのです。その3・11二周年を目前にして、安倍首相の施政方針演説は、「安全が確認された原発は再稼働する」と明言しました。新規増設や輸出にも意欲的です。福島の事故は、「収束」どころか「死の空気と水」の危険が継続しているというのに。「原子力規制委員会の下で妥協することなく安全性を高める新たな安全文化をつくる」という一節は、「新たな安全神話をつくる」と読めます。第一原発内の海水で、基準値の5千倍の放射性セシウムを含むアイナメが見つかりました。海洋汚染も心配です。日本政府と「原子力ムラ」は、3.1ビキニデーばかりでなく、たった2年前の3.11フクシマデーをも忘れさせるための「安全神話」再構築を、着々と進めつつあります。
◆ですから原爆も原発も憂うる市民にとっては、「忘れない力」を身につけること、フクシマの現実を直視し、故郷を追われ失った人々と、日々被曝にさらされる下請労働者に想いを馳せ、事故の原因から廃炉の行方、放射性廃棄物最終処理の問題まで考え続けることが、それ自体情報戦です。3.11を忘れず、記憶し続けること、その力を再び政治への声にしていくこと、原子力のいらない社会を構想していくことが、求められています。丸山真男風に言えば、「復初の説」でしょうか。3.11二周年には、すでに全国各地で、さまざまな集会・デモ・イベントが企画されています。毎週金曜夕の首相官邸・国会前デモも持続しています。忘れないための一歩を。
◆そんな「持続する志」のヒントになる、考え抜かれた新稿「復古と遡行ーー歴史を解体する方法」を、学術論文データベ ースの常連宮内広利さんが、寄せてくれました。私はといえば、ヒロシマ・ナガサキ、ビキニ、フクシマの記憶を歴史の記録として残すための資料を求めて、今年の3.11はアメリカです。本サイトの次回更新も帰国後、たぶん20日すぎになるでしょう。ご了承ください。本日3月1日から5月22日まで、早稲田大学演劇博物館で、『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれます。そのオープニングの国際シンポジウム『佐野碩と世界演劇』が3月1−3日早稲田大学で開催され、私は明日3月2日午後「1930年代の世界と佐野碩」を講演します。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版です。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方はどうぞ。「崎村茂樹の6つの謎 」を論じた「未来」論文が増補され、「社会民主主義の国際連帯と生命力ーー1944年ストックホルムの 記録から」と題して、田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー 』(未来社、2013年)に収録されました。「国際歴史探偵 」にご関心の向きは、ぜひどうぞ。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔eye2200:20130302〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。