レバノンから届いた「アラー」と「アベ・マリア」 ― 「イスラム国」との戦いは国連中心で⑬
- 2015年 2月 23日
- 評論・紹介・意見
- イスラム国坂井定雄
レバノンの首都ベイルートで生まれ、住み続けている親しい友人から、Facebookでタニア・カッシスの公開DVD「ISLAMO-CRISTIAN AVE」を送ってきた。感動した。「イスラム国」や「シャルリー・エブド」での陰鬱な気分が、和らいだ。
タニア・カッシスはレバノンを代表する世界的女性歌手。このDVDはパリのオランピア劇場での演奏会の記録DVDで、歌手はカッシスと男性歌手二人。カッシスは「アベ・マリア」、男性歌手はイスラム教の聖なる言葉「ラーイラーハイッラーラ(アッラーのほかに神はいない)」「ムハンマドゥンラスールッラー(ムハンマドはその使徒)」だけを、さまざまに音調を変えて、交互に歌い続ける。歌い終わると、聴衆もオーケストラも総立ちで熱烈な拍手が鳴りやまない。友人がいま、このDVDを送ってきた気持ちが切ないほどわかった。「よくこんな演奏会を開けたな。」と思った。
この演奏会は2012年に催され、この曲だけ2013年に無料公開されているので、すでに聞いた人も、多いはずだ。それでもいま、みんなに聴いてほしいと思う。友人もそう思ってのことに違いない。ネットで「ISLAMO-CRISTIAN AVE」か「TANIA KASSIS」で引けば誰でも聴ける。
カッシスはキリスト教徒、二人の男性歌手は、顔立ちや発音ではわからないが、おそらくアルジェリア系のアラブ人だろう。
レバノンにはいま、アサド独裁政権と国内の反政府勢力や「イスラム国」との過酷な内戦が続くシリアから脱出した、難民117万人が暮らしている。それ以外にパレスチナ難民44万人もいる。総人口482万人の同国と一人一人の国民にとって、どれほどの重荷になっていることか。
レバノンの宗教構成は、イスラム教徒約6割、キリスト教徒が3割強と推計されているが、公式統計はない。両教徒の間で50年代と75-80年の15年間、内戦が行われた。多数の国民が海外に逃れたたが、故郷の国をこよなく愛する人々は大部分が帰国。新たな国づくりに励んできた。レバノン人は、どの国よりもイスラム教徒とキリスト教徒の対立に苦しみ、宗教が異なる人々との共存、助け合いの大切さを理解している人々なのだ。
カッシスの魅了的な声を聞きながら、改めて、この友人らに助けられながら暮らしたレバノンでの3年半を、明るく親切な人々のことを思った。
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〔opinion5193 :150223〕
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