賛否の民意を希釈させるNHKの3択形式の世論調査~~辺野古への基地移設を進める政府方針をめぐって~
- 2015年 5月 11日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2015年5月7日
NHK及び全国紙等が2015年4月に行った政治世論調査の結果が出そろった。安倍政権の経済政策に関する評価や消費税増税後の家計の状況など、経済に関わる質問もあるが、沖縄県普天間基地を名護市辺野古へ「移設」する作業を進めている政府の方針に関する調査に絞って検討したい。その後、この調査項目に関して見受けられた調査方法と回答結果の相関性が別の調査項目(ここでは憲法9条の改定の要否)でも見受けられるかどうかを確かめることにする。
「どちらともいえない」が異常に多いNHKの回答結果
表1は、普天間基地を名護市辺野古へ「移設」する作業を進めている政府の方針に関する各報道機関の世論調査の回答結果を一覧表にまとめたものである。
表1 各報道機関の世論調査の方法と回答結果の比較表
~普天間基地の辺野古への移設を進める政府の方針について~
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/henoko_yoronchosa_hikaku.pdf
これを見ると、択数に応じて回答結果に次のような特徴が見られる。
①2択形式にした各紙の調査のうち、読売以外では「反対」が「賛成」を上回っている。ただし、各紙によってその開きにはかなりの差がある。4月17~19日にかけて調査した朝日、毎日、日経では「反対」が「賛成」を10~30ポイント上回っているのは、17日に行われた安倍首相と翁長・翁長沖縄県知事との会談の模様を伝えた直近の報道の影響が考えられる。
②これに対し、3択方式を採用したNHK制作部の調査では、各紙の調査にはない回答肢「どちらともいえない」の割合が44%と異常に膨らむと同時に、賛否の割合が各紙の調査とは逆になっている。
③賛否への回答の収斂率を見ると、2択形式を採用した全国紙の調査では80%超となっているが、3択形式を採用したNHK制作部の調査では48%と極めて低い割合になっている。これは「どちらともいえない」が44%も占めたことの反射的結果である。
④読売新聞の電話世論調査も賛否を問う質問は、一貫して3択形式を採用しているが、「賛成」「反対」と並列させる第3の回答肢は「どちらともいえない」ではなく、「答えない」という表記にしている。このような表記の第3の回答肢への回答率は18%で、「どちらともいえない」という表記にしたNHK制作部の調査と比べて、2分の1以下となっている。
⑤同じ質問をした過去の調査結果と対比すると、NHKの場合、調査の主体が2012年の時は放送文化研究所で、今年4月の調査は制作部というように異なっているが、4択形式で行われた2012年の調査では「どちらかといえば」も含めた賛成の割合が36.1%、「どちらかといえば」も含めた反対の割合が35.9%と拮抗していた。それが、3択形式で行われた今回の調査は、4ポイント差とはいえ、賛成が反対を上回る結果になっている。
これに対し、朝日新聞の調査では昨年1月(仲井真・前沖縄県知事が公約を翻して辺野古埋め立てを承認してから約1か月後)の時はNHK放送文化研究所の調査と同様、賛否が拮抗していたが、今回の調査ではNHK制作部の調査結果とは逆方向に賛否が逆転し、反対が賛成を30ポイントも上回る結果になっている。
⑥かりに、NHKが今回も4択形式で調査を行ったとしたら、3択形式では「どちらともいえない」を選んだ調査対象者のうちのかなりの人々が、賛否それぞれに、より自分の考えに近いと判断した「どちらかといえば」を選んだのではないかと推定できる。
あるいは、NHKが全国紙等と同じ2択形式を採用していたら、3択形式なら「どちらともいえない」を選ぶ人々も、立ち止まって自分の意見を思案し、賛否どちらが自分の考えに近いかを考える人が多くなるのではないか?
どちらの場合も、「どちらともいえない」という回答肢を加えると、賛否両極の考えから距離を置き、中間的な意見を好みがちな日本人は、「どちらともいえない」を選びがちになる。その結果、賛否の選択率(賛否に回答が収斂する割合)は急減し、賛否を選んだ民意の有意性を希釈する結果になる。
憲法改定をめぐる世論調査でも同様の傾向が
「どちらともいえない」を加えた3択形式を採用するNHKの世論調査では、「どちらともいえない」を選ぶ回答の割合が多くなるという特徴は、最近行われた憲法9条の改定の要否に関する世論調査でも見受けられる。
表2 各報道機関の世論調査の方法と回答結果の比較表
~憲法9条の改定について~
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/9zyo_yoronchosa_hikaku.pdf
表2を見ると、憲法9条の改定に関し、「反対」が相対多数(38%)になってはいるが、「どちらともいえない」が4ポイント差でそれに続き、「反対」の割合は朝日(63%)、毎日(55%)と比べ、大幅に下がっている。その結果、ここでも、「どちらともいえない」という「中間的消極的」回答が、賛否を選んだ民意の有意性を希釈する結果になっている。
辺野古への米軍基地「移設」に典型的に見られるように、民意に聞く耳を持たない今の政権の「暴走」を民意で食い止めるには、与野党に「このまま突き進んでよいのか」という不安、懸念を喚起し、政権に対するブレーキ役を果たさせる必要がある。そして、その不安、懸念を喚起するうえで「世論調査」の結果が及ぼす影響は大きい。この意味で、世論調査には、選挙において有権者が示した民意が反故にされたり、選挙で一任したはずもない政策が数の力で強行しようとしたりする政権の横暴を思い止まらせるブレーキ役が期待される。
そのためには、「世論調査」に熟慮の民意を反映させることが極めて重要である。その意味では、はじめから、「熟慮なしの」回答を誘導しがちな「どちらもともいえない」といった選択肢を設けるのではなく、
A:「賛成」か「反対」かの2択を示し、その上で、どちらも選べないという人は「わからない・無回答」に区分する。(全国紙方式)
B:「賛成」「反対」それぞれに「どちらかといえば」を加えた4択形式にする。それによって、3択形式であれば、「どちらともいえない」と答える回答者に、「自分の意思」を自問するよう促す。
「賛成」「反対」それぞれに強弱があることを考慮し、それも世論調査の結果に反映させる形式の方が望ましいという理由で、私は今の時点では「B」を推したいと考えている。
とはいうものの、「どちらともいえない」という回答が膨らむ実態は、問われた質問に関し、自分の意見を持ち合せていない国民が少なくない事実の反映ともいえる。そして、この点では、沖縄に駐留する米海兵隊の抑止力を維持することが日本の国益、普天間基地の危険性除去のためには辺野古への移設が唯一の解決策、辺野古への移設を「法令に則り、粛々と進める」というフレーズを繰り返す政府発表を、独自の調査・取材で真偽の検証をすることなく、広報するだけとなっている現在のNHKの報道のあり方が厳しく自問されなければならない。
自らの手抜き報道、国策に寄り添う報道の結果でもある「どちらともいえない」の多さはNHKの報道の怠慢を映す鏡でもあることをNHKは銘記しなければならない。
今年もわが家の庭に咲いた鉄線
初出:醍醐聰のブログより許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2984:150511〕
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