日本学術会議の検討委員会が「軍事的安全保障研究に関する声明(案)」を公表:日本の大学は軍事研究を拒否できるか
- 2017年 3月 10日
- 評論・紹介・意見
- 田中一郎
- 原典:安全保障と学術に関する検討委員会|日本学術会議
(最初にイベント情報です)
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1.(別添PDFファイル)(チラシ)(3.9)デマで沖縄への偏見をあおった「ニュース女子」 MXの開き直り見解をゆるさない 第9回抗議行動(半蔵門駅)
http://www.labornetjp.org/EventItem/1488810063537matuzawa
2.(3.10)森友問題・緊急勉強会 講師=小林節氏(衆議院第一議員会館)
http://www.labornetjp.org/EventItem/1488879988820matuzawa
3.もっかい事故調オープンセミナー「3.11を呼びさます ―原発事故、6年後の現実―」 原子力資料情報室(CNIC)もっかい事故調オープンセミナー「3.11を呼びさます ―原発事故、6年後の現実―」 原子力資料情報室(CNIC)
4.(別添PDFファイル)(チラシ)(3.24)アジア記者クラブ3月定例会:日中戦争・盧溝橋事件から80年(田中宏さん講演)
5.(4.27)東電株主代表訴訟 第32回口頭弁論(午前10時~:東京地裁103号法廷 終了後御恩会館にて報告会・学習会)
6.(別添PDFファイル)(チラシ)(5.20)いらんじゃろう! 上関原発
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昨年6月より議論を続けてきた日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」(杉田敦法政大学教授(政治学))が、このほど、軍事・戦争を目的とする研究を禁じる1950年と1967年の声明を継承する新たな声明案を全員一致でまとめました(下記参照)。この検討委員会は、日本学術会議会長の大西隆(豊橋技術科学大学長)氏のイニシアティブにより設置され、2015年に始まった防衛省の研究助成公募の予算額が2017年度には前年度の6億円から110億円に大幅に増額される中での検討だったため、あたかもそれを合理化し追認する理屈付けがなされるのではないかとの懸念が高まっていましたが、さしあたり戦後発表された過去2つの日本学術会議の「軍事研究はしない」声明を継承する形での新声明案となったようです。ひとまず、やれやれというところでしょうか? なお、この新声明案は4月の日本学術会議総会で、会員の多数決により正式な声明とされることになるようです。
しかし、下記にご紹介する東京新聞記事に見られる通り、防衛省や軍事産業・企業が提供する研究費に対して大学がどういう態度をとるのか、とるべきなのかは、今一つ歯切れが悪く、実質的には各大学の自主的判断にゆだねられるような様子もあります。万が一にも、この日本学術会議が4月に決定するであろう新声明案が、防衛省軍事予算もらい受けのための「隠ぺい用美辞麗句」になるようではいけません。これからも多くの人々による大学運営の監視が必要と言えるでしょう。
(それにしても、私が今回強く危機感を感じたのは、政府・防衛省や米軍・米国防総省などが、日本政府や日本の軍事産業のみならず、日本の大学や一般の研究所などもアメリカの軍産情複合体の構成員として組み入れるための「戦略」を着々と進めているような気配があるにもかかわらず、「防衛・自衛のための研究はなされるべきだ」などという無防備で幼稚極まりない議論を、方便ではなく、結構本気でする人間が少なからずいたという点です。そして、その周りには、時流に乗ることを目的に、マスコミを含めて、ご都合主義の御用人間達がタカリはじめているのです。科学者はその専門領域を少しでも出たら、ただのおっさん・おばはん、にすぎないのだ、あるいは、科学者に価値判断を100%ゆだねるわけにはいかない、ということが改めてよくわかったと言うべきでしょうか。)
3.11福島第1原発事故以降、赤裸々に見えてきた「科学の支配権力・巨大資本による包摂」と、それに伴う大学の「総御用化」「総ご都合主義化」の圧力を振り払うためにも、大学研究者のみならず、一般の有権者・国民・市民が強く連帯をして、科学や学術研究の在り方・大学の運営の在り方に真摯にコミットしていく必要があると思われます。軍事研究さえ回避できればそれでよい、などということには絶対にならなくて、さしあたり、目も当てられないくらいに陳腐化している原発・原子力・核燃料サイクルに関する研究や、放射能・被ばくに関する「似非科学」を「矯正」していく必要があると思われます。また昨今、我が国の言論・表現の自由が危ないとの時事評論が多くみられるようになりましたが、そんな中で、日本国内で自由な言論・表現活動に対して最も妨害がひどいのは大学であることも私たちはしっかり認識をしておく必要があるでしょう。今日の大学の過剰管理体制は、私が若いころにいた大学とは全く異質の「ファッショ空間」を創り出しているように感じます。これもまた抜本的に改められるべきでしょう。「開かれた大学」「市民とともにある学問」とはどういうものか、再考されるべきです。
以下、本日の報道を中心に関連記事などをご紹介いたします。
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/anzenhosyo.html
(1)(資料1)軍事的安全保障研究に関する声明(案)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/pdf23/anzenhosyo-siryo11-1.
(2)(資料2)報告:軍事的安全保障研究について(案)審議報告(日本学術会議・安全保障と学術に関する検討委員会 2017.3.7)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/anzenhosyo/pdf23/anzenhosyo-siryo11-2.
(3)軍事研究禁止 継承へ、学術会議「政府介入著しい」、新声明案(東京2017.3.7)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017030701001461.html
(4)「軍事研究しない」学術会議継承、防衛省助成応募は禁止せず(東京 2017.3.8) http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017030802000125.
html
(5)軍事研究禁止を継承、学術会議検討委 新声明案了承(朝日 2017.3.8)
http://www.asahi.com/articles/ASK3777PZK37ULBJ01S.html
(6)軍事研究 大学が審査、学術会議要求 歯止め狙う、半世紀ぶり声明案(毎日2017.3.8)
http://mainichi.jp/articles/20170308/k00/00m/040/114000c
<関連サイト>
(1)東京新聞「非軍事」線引き大学苦慮 研究公募めぐり、調査内規設定2割社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017030502000116.
html
(2)軍民両用技術、慎重さ要求 学術会議、軍事研究めぐり声明案:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S12830431.html
(3)クローズアップ2017:学術会議、新声明案 軍事研究、抑止に限界 「学問の自由」で介入けん制 – 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20170308/ddm/003/040/081000c
(4)東京新聞「軍事研究はしない」軍学分離堅持4割 95大学調査、方針転換支持ゼロ社会(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201703/CK2017030502000127.
html
(上記記事には「軍学分離の声明について、約四割に当たる九十三校中三十五校が「堅持するべきだ」とした。ほかは「その他」(二十七校)「無回答」(三十一校)で、「堅持すべきではない」はゼロだった。「堅持」の中には筑波、岐阜、豊橋技術科学、岡山、香川など、過去に防衛省の公募制度に応募した大学も含まれていた。」とあります。これはどういうことなのでしょう? 「筑波、岐阜、豊橋技術科学、岡山、香川など、過去に防衛省の公募制度に応募した大学も含まれていた。」の各大学に詳しく聞いてみたいところです。:田中一郎)
(参考文献)歴史としての武器輸出三原則:平和主義から積極的平和主義へ(イントロ部分)(西川純子 『科学 2017.3』)
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/
(佐藤栄作内閣の「武器輸出三原則」と三木武夫内閣の「武器輸出三原則」とは正反対の性格ものであったことや、「デュアルユース」という言葉が1990年代のソ連崩壊後のアメリカ・クリントン大統領時代に「発祥の地」をもっていること、そして、平和主義・日本の武器輸出禁止を壊したのが野田佳彦民主党政権であったことや、平和主義とはこれまた正反対の「積極的平和主義」ならぬ「積極的戦争主義」の安倍政権の武器輸出への暴走ぶりに至るまで、過去の武器輸出をめぐる「歴史」を教えてくれています。過去を知らない私のような不勉強者や若い世代にとっては貴重な文献と言えるでしょう:田中一郎)
(追)最後で恐縮ですが、日本学術会議の会長をはじめ運営幹部メンバーの選出手続きが、数年前の「法改正」でおかしくされてしまい、非常に非民主的な形で自民党政権の意中の人間がもっぱら選ばれてくるような形になったと聞いています。これが事実だとすると大問題です。科学者の学問研究に関する自治や大学運営の自治と深く関係し、中長期的に見て、日本の大学や科学、学問研究に深刻な悪影響を及ぼすのではないかと懸念されます。また、数年前には大学の運営ルールもおかしなことにされてしまっています。つまり、学術研究機関が、その機能を正常には発揮できないコンディションがつくられてしまっているということではないのでしょうか。「軍学共同反対連絡会」では、こうしたことも併せて問題としていくべきではないかと思います。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6558:170310〕
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