2019.ドイツ便り(13)
- 2019年 8月 29日
- カルチャー
- 合澤 清
滞在期間も残り10数日を残すのみとなった。なんとなく憂鬱な気分である。それは単に、間もなく残暑厳しく、諸物価は高く、環境は劣悪な所に帰らなければならないということからばかりではない。身辺の整理の煩わしさ、重いトランクを引きずってフランクフルト空港へ、また羽田から家まで行かなければならない煩わしさでもある。
でも、そう嘆いてばかりいても仕方がない。覚悟を決めて残りの日々を出来るだけ楽しく過ごさなければと思う。
このところの東京からの便りは、少し秋めいてきたというものが多い。まあそれでも、毎年のことながら一気に秋が来るとは考えられない。何度かの暑さのぶり返しがあって、やっと秋になるというものであろう。
ドイツの天候は、今そのぶり返しの最中である。ここ数日は、再び30℃を超える暑さが続いている。時々雷が鳴るが、一向に雨は降らない。こう暑くては、ゲヴィッター(小台風)が待ち遠しい。
私のいるニーダーザクセン州に関する天気予報は毎日見ている。この地域(ハーデクセン)に関する限りでは、割に当たっているように思う。ところが、同じ州の北の方では、今年も乾燥が続き、このままいけば水不足になるだろうとも言われている。
話は変わるが、前回の「便り」の中で紹介した、「Donald Trump liest nicht gerne.」(ドナルド・トランプは読書が好きじゃない)という宣伝文を本屋で見たという話を、先日居酒屋でドイツ人の友人たちに話したら、大受けした。周辺の人たちも含めて、「その通りだ、Ja,stimmt! 乾杯!」「あいつの先祖はドイツ人じゃない、アメリカ人だ」と大はしゃぎになった。
<グローガー理恵さんを訪問>
土曜日に、グローガー理恵さん(ちきゅう座への投稿でおなじみの方)宅を訪問した。昨年同様に、リューネブルクというニーダーザクセン州の北の方の古い美しい町で落ち合うことになった。
いつものように、バスと電車を乗り継いで、それでもこの日は珍しく(?)正確な時刻にリューネブルク駅に到着した。そして少し待って、約束の時間より少し早めに彼女とその夫君(Jさん)とお会いすることが出来た。
グローガーさん自慢の電気自動車に乗り、旧市街へと繰り出す。パーク・プラッツ(駐車場)で車を降り、旧市街をゆっくりと散歩した。
古いレンガ造りの市庁舎は、正面から見た限りではそれほど大きな建物とも思わなかったが、裏手の庭から建物全体を眺めてみて初めて、これは立派なものだな、と感心した。
この町にはレンガ造りの赤茶けた色の家が多い。ゴスラーなどと同じく空襲を免れて残ったもののようだ。市庁舎近くの洋服屋兼喫茶店で一休み。なかなか感じのよい綺麗な店で、コーヒーも美味しい。
それからぶらぶらと街中を抜け、イルメナウ川の方へ歩く。途中の家並は、素晴らしいレンガ造りの中世の面影を残したもので、ここがハンザ同盟の中で「塩街道」(岩塩の採掘地だったため)として栄えたことを如実に物語っている。
川沿いに残るクレーン(昔、塩などの積み下ろしに使われていた)、レンガ造りの水の塔(Wasser Turm)、立派な建物の福音教会、かつて栄華を誇った時代の商館、それに路地裏の家々のレンガ壁、これらがこの町の魅力である。
この町、特にこの川沿いの道は、ぶらぶらと散策するのに全く適していると思う。この日は天気も良く(かなり日差しが強かった)、土曜日とあって、川沿いのカフェは大勢の客でにぎわっていた。
確か去年は、何組かの結婚式を見かけたはずだが、今年はまだ…と話していたら、街中のレンガ造りの家の表階段で、花嫁衣装とモーニング姿の美男美女の新婚さんが写真を撮っていた。その前の狭い道を二頭立ての観光用馬車が、大勢の人を乗せた客車二台を引きながら通り過ぎる。あえぎながら車を引く馬がどうにも気の毒になる。
ここリューネブルクは、日本の鳴門市と姉妹都市だというが、その次第は判らない。
小さな町ではあるが、なかなか見せ場が多いと思った。
再び車に乗り、グローガーさんの広くて静かなお宅にお邪魔した。一休みした後、理恵さんの手作り料理と、珍しいイタリア・シシリー島産ビール(オレンジの花が入っているとか)、およびイギリス産のビール(名前は聞いたことがなかった)をご馳走になった。シシリー島のビールは、少し苦い甘さのもので、イギリス産はかなり苦い味がした。
四方山話に、つい11時まで理恵さんをお付き合いさせてしまった。
翌朝はゆっくり朝食を頂き、ハノーファーまで車でお送り頂いた。ドイツの夏場の常だろうが、途中何カ所もの工事渋滞があり、運転されたJさんは大層お疲れになったろうと思う。感謝、感謝!
<理恵さんの報告に関して一言>
グローガー理恵さんの投稿で、8月23日に掲載された論文「ドイツ緑の党の躍進に寄与したスウェーデン少女とドイツ青年の訴え」http://chikyuza.net/archives/96422 は大変読みごたえのある論文だと思う。
私の7月15日の報告「2019.ドイツ便り(5)<ライプチッヒに小林敏明さんを訪ねる>」
http://chikyuza.net/archives/95276 と併せてお読み頂ければと願っている。
私は、この報告の終りの部分で、小林さんからお聞きした話を紹介しているが、私自身の消化不足のため、なかなか細部にわたっての紹介が出来なかった。今回のグローガー理恵さんの論文を読んで、やっと小林さんが強調されていたドイツの若者たちの一途な情熱が政党をも動かす力を発揮したという意味が判ってきた。
「緑の党」だけに全面的に期待しているわけでは決してないが、この高校生たちを中心にした「環境を守れ、地球温暖化反対」の呼び声と毎週金曜日に行われる行動が、ついには「緑の党」の躍進につながり、また大人たちの連帯感をも呼び起こし、近々には、ドイツ各地の大都市で、大々的な集会とデモが行われることが決まったという。
彼らのやっている毎週「金曜日の集会」は、一部の人からは「授業をさぼっている」との批判もあるらしいが、彼らは「そうではない。自分たちの未来を破壊させないためだ」という信念のもとに闘っていると反論している。
一部の高校、あるいは教員たちの中には、この運動に賛同して、この日は休校にしても良いのではないかとの意見も出始めているという。
われわれ日本人にとっても、「他人ごとではない」はずだ。原発汚染、排気ガス公害、騒音公害、プラスチック汚染、食品汚染、データの改竄と隠ぺい、等々さまざまな環境破壊問題を抱える「環境破壊先進国」日本は、もっとこの問題に真剣に取り組むべきであろう。
そもそも大学の自治会活動も、社会運動も、権力によって公認されてやるものではない。自主的に自分たちの将来をかけて行うものでしか意味はない。
2019.8.28 記
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔culture0855:190829〕
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