9 遠いネオンを映して幻想的に光る水面から、人のつぶやきに似た水鳥の低い鳴き声が聞こえた。不忍の池。聖子の肩に手を置き、指に触れる頬のやわらかい感触を楽しみながら歩いた。 「あら鳥がたくさん泳いでる」 聖子が彼の手から摺
本文を読むカルチャーの執筆一覧
『深沢七郎外伝―淋しいって痛快なんだ』新海均・著 潮出版社・刊
著者: 阿部浪子「楢山節考」で作家デビューした深沢七郎といえば、嶋中事件を思いうかべる読者もいるだろう。1960年12月の「中央公論」に掲載された、深沢の「風流夢譚」が右翼を刺激し、発行元の社長宅が襲われお手伝いが殺されたのである。深沢
本文を読む小説 「明日の朝」 (その8)
著者: 川元祥一8 お茶の水駅に向かう電車の中で彼は今朝の聖子のことを思い出していた。土産を買ってきたとはしゃいで見せる聖子だったが、その言葉の向こうで果たして何があったのか。平崎はそのことが知りたかった。彼女は俺のことを父親に話すと
本文を読む『文学地図 大江と村上と二十年』加藤典洋・著 朝日選書
著者: 阿部浪子ここ20年の間に、日本の文芸がどんな動きを示し、著者加藤典洋氏がどんな観察を行なってきたか。諸作品と真摯に付きあいつつ書かれた時評と評論は、文学の面白さをたっぷり気づかせてくれる。とりわけ「関係の原的負荷」という、親殺
本文を読む小説 「明日の朝」 (その7)
著者: 川元祥一7 ローラスケート場の前の広場に向かって朝の打水を飛ばしていると、下の信号を渡って広場に上がってくる女がいた。薄茶色のスーツを着込みポニーテールをゆらして歩く聖子だった。 「お早うございます」 広場の向う側から聖子が
本文を読む小説 「明日の朝」 (その6)
著者: 川元祥一6 「音楽会なんかよく行くんですか?」 白いコーヒーカップに手をのばしながら平埼は千津子に聞いた。 「ええ、時々お友達と。この間中村紘子のリサイタル聞きに行きました。でも今日はとっても素敵でした」 農紺のワンピースの胸に
本文を読むささや句会 第17回 2015年9月11日金曜日
著者: 公子結ふ食処 楽屋(ささや)にて 評者 新海あぐり 新涼やヴィオラ奏者のピンヒール 泰子 ・取り合わせの妙。 チェロの音の溶けゆく森や秋気満つ
本文を読む小説 「明日の朝」 (その5)
著者: 川元祥一5 朝とも黄昏とも見分けのつかない光と影が行き交う駅の階段を平崎は一人下りた。彼が乗ってきた総武線の電車と、隣の山手線の緑色の電車が出入りするプラットホームはラッシュアワーの名残をもって混雑しているというのに、一つ離れた
本文を読む小説 「明日の朝」 (その4)
著者: 川元祥一4 聖子の電話を切った後、平崎は椅子に座って一息ついた。電話器の上にある時計の針は九時三十分を回っていた。最初の巡回の時間が迫っていることもあって、叔母に電話するかどうか迷っていた。昨日の礼を言うだけかも知れないし、考え
本文を読む大久保友紀子―わたしの気になる人⑨
著者: 阿部浪子大久保友紀子は、白いコートにブルーのスカーフを巻いていた。知的で美しい人という印象をうけた。友紀子の長年の友だちで作家の大井晴の仲介により、わたしは友紀子に会ったのだった。72歳の友紀子は、共産党を離れていた。〈男に食
本文を読む小説 「明日の朝」 (その3)
著者: 川元祥一3 窓の外で突然ワッと歓声が沸き、続いて笛や太鼓の音が人のどよめきと共にふくれあがる。人の姿はどこにも見当たらないというのにー。 ローラスケート場の北側の窓から、野球場の巨大で無機質なコンクートの壁と、例の鉄柱の一
本文を読む記録する存在としての人間 ―「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」を見て
著者: 子安宣邦ドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」を京橋の試写室で見た。2007年の冬のことシカゴのアマチュア歴史家の青年が、ネガ・フィルムの一杯詰まった箱をオークションで350ドルで競り落としたことから話は始まる。
本文を読む戦後七〇年の哀しさ -書評 大沼保昭著 聞き手江川紹子『「歴史認識」とは何か―対立の構図を超えて』-
著者: 半澤健市《居酒屋の酔客の発言でも橋下徹の発言でもない》 ■韓国や中国は、われわれに要求することを自分たちにはできるのか。日本ばかり責めるけれど、韓国にも慰安婦はいたではないか。ベトナム戦争のときに派兵された韓国軍はベトナムで一
本文を読む小説 「明日の朝」 (その2)
著者: 川元祥一2 赤い目を前にして立ち止まると、前方に灰色の巨大な鉄塔が見えた。人の頭上を見下ろすかのような、大きな存在感のある鉄塔ではあったが、昼間の太陽の下ではそれがなぜそこにあるかわからい、不思議な、無意味とも思える存在だった。
本文を読む日野啓三―わたしの気になる人⑧
著者: 阿部浪子その日、作家の日野啓三は、スリムなからだに、うすい黄緑色のワイシャツを着ていた。ネクタイはなかった。おしゃれな人だ。とっさにそう思ったのを、わたしは覚えている。他人への接し方がていねいな人でもあった。ものしずかな口調も
本文を読む小説 「明日の朝」 (その1)
著者: 川元祥一【小説『明日の朝』発表について】 この小説は文芸誌『千年紀文学』に連載中の「明日の朝は…」の原稿の後半(未発表部分)を訂正書き直したものである。当文芸誌に投稿した時に、後半、特に最後の場面は書き直すことを告げて連載を始め
本文を読む2015年ドイツ逗留日記(10)
著者: 合澤清1.身辺雑話(新しい知り合い、「寿司パーティ」など) ドイツ滞在も残すところ一週間程度になってきた。そろそろ帰り支度を、と考えてはいるのだが、相変わらず飲む機会が多くて、一向に身辺整理ができないでいる。 ここに来て少し変
本文を読む2015年ドイツ逗留日記(9)
著者: 合澤清1.Nebraへの小旅行(8月18日) この日は終日雨にたたられてしまった。朝早く起きて、コーヒーと卵入りスープ(Suppe)の簡単な朝食をとり、8時半にこの家の女主人(Petra)の運転で、僕ら夫婦とPetraの孫娘2
本文を読むパロディ:ぼんぼん晋ちゃんの学級会
著者: 盛田常夫先生 : 今日は、新聞やテレビで話題になっている言葉を使って、作文を書いてみましょう。今日使う言葉は、「侵略」、「植民地支配」、「反省」、「謝罪」です。この4つの言葉を入れた文章を作ってみましょう。低級学年の君たちには少
本文を読む書評:『帝国解体―アメリカ最後の選択』…「軍産学複合体」は破滅への道-断末魔の米・日経済状況
著者: 合澤清書評:『帝国解体―アメリカ最後の選択』チャルマーズ・ジョンソン著 雨宮和子訳(岩波書店2012) „Dismantling The Empire : America’s Last Best Hope“ by Chalme
本文を読む小さな水泳大国ハンガリー
著者: 盛田常夫ロシア・タタールスタン共和国カザンで開催された世界水泳が幕を閉じた。ハンガリーは日本と同じく、金メダル3個を獲得し、さらに銀メダル2個、銅メダル4個で、日本のメダル数を上回った。今大会前の世界選手権メダル獲得総数で、ハ
本文を読む2015年ドイツ逗留日記(8)
著者: 合澤清1.今季初めての小旅行(エアフルト、イエナ)-8月8日 ドイツ滞在も残り1カ月を割り込んだ。8月に入ると友人たちからのお誘いやら何やらで例年大忙しになる。今季、週末に自分らで旅行ができるとすれば、8、9の日か15,16の
本文を読む2015年ドイツ逗留日記(7)
著者: 合澤清1.ゲッティンゲンで一番古い居酒屋に行く(8月5日) このところ暑さがぶり返してきた感がある。猛烈な暑さが連日続いている。しかし、朝晩が涼しいのと、からっとした暑さなので、日本に比べれば格段に過ごしやすい。この暑さもあと
本文を読む紙芝居屋さんのプレゼント
著者: 熊王信之多くの人は、幼児の折の経験で、成人後もなお記憶が薄れることの無い程に楽しいことがあることでしょう。 母との思い出。 父との思い出。 祖父に祖母との思い出。 犬や猫との触れ合い。 四季の移り変わりに自然の変転。 生活の様々
本文を読む2015年ドイツ逗留日記(6)
著者: 合澤清1.ギリシャ問題と難民問題 行きつけの居酒屋のギリシャ人従業員に、言葉は何ヶ国語を喋れるのかと聞いて見た。ドイツ語、英語、ギリシャ語とユーゴスラヴィア語だという。ユーゴスラヴィア語と一口で言っても多様である。確かに古代ギ
本文を読む書評 『戦時期日本の精神史』 鶴見俊輔著
著者: 宮内広利本記事は他紙への掲載のため、著者より削除依頼がありましたので、運営委員会で検討の結果、削除することと致しました。<2015年9月9日 ちきゅう座> 〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza
本文を読む猛暑の対策は如何に
著者: 熊王信之今夏は、猛暑、と報道されています。 でも、私には、そんなに暑いとは思えない、のです。 正確に云いますと、我が家に居れば、と付け加えねばなりませんが。 そもそも此処、大阪の夏は暑いのです。 昔、奈良に住んでいましたが、彼の
本文を読む2015年ドイツ逗留日記(5)
著者: 合澤清1.ギリシャ危機の波紋 「ギリシャ人はキリギリスで、日ごろ遊び暮らしているからああいうことになったのだ」というまことしやかな噂話が、特に「勤勉なドイツ人」の間で飛び交っているとも聞くが、真相はどうか? この「アリとキリギ
本文を読む一ノ瀬綾―わたしの気になる人⑦
著者: 阿部浪子第16回、田村俊子賞を私家版『黄の花』で受賞したのが、作家の一ノ瀬綾氏である。1976(昭和51)年、彼女43歳のことだ。現在、一ノ瀬綾は、長野県佐久市の老人ホームに住んでいる。佐久は作家、深沢七郎が愛したまちだ。ホーム
本文を読む書評 『戦後日本の大衆文化史』 鶴見俊輔著
著者: 宮内広利本記事は他紙への掲載のため、著者より削除依頼がありましたので、運営委員会で検討の結果、削除することと致しました。<2015年9月9日 ちきゅう座> 〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.c
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