鳥の鳴き声が聞こえはじめると、彼女は、沼に行きたくてうずうずする。沼は、都心のマンション暮らしを長年つづけてきた女が夢見るものすべてを、もたらしてくれたという。収録の「光の沼」は、2008年度の川端康成文学賞を受賞した
本文を読むカルチャーの執筆一覧
書評 「近代の超克」論議
著者: 宮内広利太平洋戦争の開始からほぼ1年たった昭和17年9月、雑誌『文学界』に『近代の超克』と銘打たれたシンポジウムが掲載された。この「近代の超克」という言葉は、それ以後、知識人をとらえ、シンボルとして使われるようになる。保田与重郎
本文を読むドイツ徒然(その4)-ドイツ小旅行(2)
著者: 合澤 清このところドイツはめっきり涼しくなってきた、というよりは寒いぐらいだ。日本のまだ残暑きびしい(しかも非常に蒸し暑い)この時期からは想像できない。そしてわれわれのドイツ滞在も、間もなく幕切れを迎える。 毎年、ドイツでやるべ
本文を読む書評 倫理と支配の根拠
著者: 宮内広利わたしたちのかつての共同体の倫理は、ときに軋みや異和を発して、ともすれば、なだらかな発生の神話をつき崩そうとする。『古事記』神話の中ではじめて「罪」という概念が登場するのは、スサノオが高天原(タカマガハラ)から二度の追放
本文を読む元東芝エンジニアによる脱原発論 ー書評 小倉志郎著『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)ー
著者: 半澤健市《頭が真っ白になったエンジニア》 2011年3月11日の午後、一人の元エンジニアが都内中央区立月島社会教育会館で平和運動の紙芝居を見ていた。そこへ大きな揺れがきた。東日本大震災の始まりである。当日は横浜の自宅に帰れず
本文を読むドイツ徒然(その3)-旧東ドイツへの旅
著者: 合澤 清今回はまた「ドイツ観光案内」(以前にS教授にチクリと皮肉を言われたことがありましたが)になりそうな内容ですので、その点は十分注意したいと思っていますが、はて? 1.一泊二日の小旅行-旧東ドイツの町(ノルトハウゼン、エア
本文を読む書評 概念は壊せるのだろうか
著者: 宮内広利わたしたちは、ときに、言語の沈黙と肉体の沈黙とはどちらが重いのだろうと考えることがある。これは心と言語の距離と心と肉体の距離のどちらが長いかという設問に言い換えることもできる。肉体の沈黙の方が比重や密度が大きいとしている
本文を読む文学渉猟:誘惑する者とされる者の間の危険なゲーム
著者: 合澤 清『危険な関係』上、下 ラクロ作 伊吹武彦訳(岩波文庫1998) 1.イントロダクション ごく一般的な紹介から入ってみたい。この書簡体の小説は、一人の復讐に燃える悪魔的な女性(メルトイユ侯爵夫人
本文を読む書評 『歎異抄』を読む➄
著者: 宮内広利鎌倉仏教の祖、法然の浄土門の教えは、なにより、仏門の大衆化と民主化だったとおもえる。鎌倉仏教といわれる法然以下、一遍、道元、日蓮、栄西らはだれも、多かれ少なかれ仏教の大衆化をもとめたのである。平安仏教である天台宗や真言宗
本文を読む社会構想への走り書き
著者: 山端伸英1. ・・・・・じっさい、あなたの心中でこの問題はまだ決しておらぬ。この点にあなたの大きな悲しみがある。なぜというに、それは・・・・・・(ゾシマの言葉から、「カラマーゾフの兄弟」第2編) 社会
本文を読むドイツ徒然(その2)伝統の継承と新しい生活スタイル
著者: 合澤 清ドイツ人はフェスト(祭り)やマルクト(市)やパーティが好きだ! 日本でもかつては「村祭り」に代表される地域住民の親睦的な出会いが多く残っていた。その期間、村や町の青年団や婦人会が独自に企画して、演芸会や盆踊りなどがあちこ
本文を読む古賀暹『北一輝』(御茶の水書房、2014年)を読んで
著者: 内田 弘[北一輝像の一新] 古賀暹さんのこの本は、従来の北一輝のイメージを一新するものです。副題に「革命思想として読む」とあります。近代地動説の始点コペルニクスの『天体の回転について』のように、まさに北一輝研究を革命=回転する(
本文を読む書評 『共同幻想論』 吉本隆明著
著者: 宮内広利普段、死は、人間の死への対面によってよりあからさまに、かつ重層的に出現する。つまり、死は、生とのコントラストにおいて、生に侵蝕し、言語の逸脱や越境をまねきよせる。わたしたちが、ありふれた思想に納得してしまうのは、親離れ
本文を読む新刊案内:『よし、戦争について話をしよう。戦争の本質について話をしようじゃないか!オリバー・ストーンが語る日米史の真実』
著者: 「ピースフィロソフィー」8月上旬発売予定、新刊のご案内です。2013年夏、『もうひとつのアメリカ史』のドキュメンタリー(NHK)と書籍(早川書房)で知られる映画監督オリバー・ストーン&歴史学者ピーター・カズニックが広島、長崎、東京、沖縄で講演旅
本文を読む書評 ベンヤミンとマルクス
著者: 宮内広利生きた言語とは何か、というより、言語の生死という問いかけがあるとしたら、それは何を根拠にし、わたしたちをどこへ向かわせるのか。概念なるものは脱概念というところから逆にたどることもできる。もし、概念をぼやけさせることがで
本文を読むドイツ徒然(その1):シャッター通り商店街とミニ開発と地価高騰
著者: 合澤 清新しい住居の環境 ドイツに来て既に10日以上たった。今回の居所は、いつものゲッティンゲンから車で約20分、Hardegsen(ハーデクセン)という小さな、しかし実に美しい町である。 ここは保養地とキャンプ地を兼ねた所で、
本文を読む紹介:日本の教育と社会はどこへ行くのか(藤田英典 『世界 2014.7』より)
著者: 田中一郎「原発は政治のみの力で動いている(何の合理性も経済性も倫理性もない)。だから政治を変えれば原発は止まる」、これは上関原発建設に反対する県民大集会(2014年3月)の折りに鎌田慧氏が演説で話した一節である。だから政治を変え
本文を読む書評 『閉ざされた言語空間』 江藤淳著
著者: 宮内広利わたしたちは、戦後体験の意味するところを、敗戦によって求心するシンボルをなくしたナショナリズムの行方の問題として、私的感性・意志の横への拡散化の過程ととらえてきた。その意味からいうと、敗戦はまちがいなく、日本人すべての胸
本文を読むパロディ -タケシの独断「悪代官と悪徳商人」-
著者: 盛田常夫昔から言うじゃない、「魚心あれば水心」ってね。悪徳商人がお代官様の袖の下に、そうっと金子(きんす)を忍ばせてさ。「竹端(たけはし)様、件(くだん)の人足派遣の案件、当方に回るようによろしくお願いします」ってね。「分って
本文を読む「上野」、「皇室」、「大震災」を重ね、ホームレスと被災者の痛苦をつなぎ合わせて描く 〔書評〕柳美里著『JR上野駅公園口』
著者: 雨宮由希夫〔書評〕柳美里著『JR上野駅公園口』(河出書房新社、¥1400+税) 「あゝ上野駅」という唄がある。作詞・関口義明、作曲・荒井英一、歌唱・伊沢八郎で、東京オリンピックが開催された昭和39年(1964)の5月に発表された。
本文を読むサッカーW杯が教えてくれたこと
著者: 盛田常夫勝負事は実力だけでなく、運も左右する。前回の南アW杯ではどん引き守備を基本にしたカウンター戦法で、松井のセンターリングに本田が合わせた1本と、デンマーク戦の本田と遠藤の2本のフリーキックがドンピシャで嵌るという運が味方
本文を読む書評 『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治著
著者: 宮内広利宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読むと、学問とは何か、宗教とは何かを死の底に触れるような場所から教えてくれる場面にでくわす。宮沢賢治があたかも死という背景の中に浮かんだところから、人間がものを考えることは一体何なのかを問い
本文を読む書評 『歎異抄』を読む④
著者: 宮内広利親鸞における「信」と「不信」の隙間は、いわば、紙一重である。親鸞にとって「信」は、「信」と「不信」とを同時に見渡すことのできる視界を獲得していたからだ。そこからみると、「信」と「不信」は「知」と「愚」とともに全く等価に
本文を読む『評伝 野上彌生子―迷路を抜けて森へ』
著者: 阿部浪子『評伝 野上彌生子―迷路を抜けて森へ』岩橋邦枝・著 新潮社・刊 野上彌生子は70余年にわたり小説、評論、随筆を書きつづけた。著者の岩橋邦枝氏は、彼女の遺作「森」を読んで、この豊穣な傑作を百歳ちかい人が書いたのかと驚き、そ
本文を読む書評 『歎異抄』を読む③
著者: 宮内広利死と鼻をつきあわせたような生活状態に投げこまれた衆生に対面して、どんな理念が衆生を救済できるかという親鸞の答えは、どんなにかかわっても人が救済される保証は得られないという絶望が先にあった。人々は、生きているあいだ救済さ
本文を読む自著を語る:『北一輝-革命思想として読む』
著者: 古賀 暹*古賀暹著『北一輝―革命思想として読む』(御茶の水書房2014.6.1刊 4600円+税) 北一輝に関する書籍は、私が知る限りでも数多く存在する。雑誌などに発表された短い評論を加えると、その数は膨大なものに上るだろう。こ
本文を読む書評 『歎異抄』を読む②
著者: 宮内広利親鸞の時代は天災による飢餓や貧困、病苦、戦乱によって、いわば死が日常化していた。それは、たとえば、念仏を称える間もなく急死する人々にとって、往生するための念仏は一声でよいのかという、一見、矮小といってもよい問いかけだが
本文を読む書評 『ハイ・イメージ論』 吉本隆明著
著者: 宮内広利≪価値は自然の手段や道具としての有用な変更でもたらされるもので、価値の普遍性は役にたつ交換によってたもたれるとかんがえる『資本論』のマルクスの価値概念には、いつももの足りなさがつきまとう。素材や物体のさまざまな形態として
本文を読む書評 『歎異抄』を読む①
著者: 宮内広利親鸞の教えは、四十八願をたて修行を実践して仏となった阿弥陀仏が、極楽浄土を建立し、念仏という名号を衆生に与えたことにはじまるとされている。親鸞によれば、弥陀仏の本願によって救われるのは老若男女を問わない。また、善人や悪
本文を読む書評:井上理恵編著『木下順二の世界――敗戦日本と向き合って』
著者: 関谷由美子編著者井上理恵は「あとがき」に「今回改めて全集を読み返して思いを新たにしたが、木下の主張が余りにも現在のこの国の在りようにピッタリとはまることに驚いた。と同時に、これまで把捉できなかったものが、明らかな相貌を帯びて迫って
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